初めて差し伸べられた手
やっぱりこっちを書くほうが楽しいです...
ラヴィエルの怒りを含んだ声と冷ややかな目線に、周囲の貴族たちは焦り始めた。
「い、いえ、決してそのような意味では...!」
「そ、そうですよ」
「ほう、では私の聞き間違いだと言いたいのですか?」
「そ、そういうわけでは...!」
周りの貴族たちが必死に弁解するが、軽蔑を帯びた視線は、さらに鋭さを増していくばかりだった
「自分たちより等級が低いからと、そのようなことを言える権利はありません」
凍りつくような声で、ラヴィエルはきっぱりと言い放った。
「父にこれを報告しないといけませんね。今後、闇の一族がどの貴族と関わっていくべきかを、慎重に見極める必要がありそうです」
貴族たちは震え上がり、顔色は真っ青を通り越し、土気色になった。
何故なら、ラヴィエルの父は闇の一族の長。すなわち――ヴェリスだ。
ヴェリスとは、各家門を束ねる者の称号であり、一族の中における王にも等しい存在。
ラヴィエルはその次位に立つ存在であり、次期ヴェリスと注目されている。
そんな二人に睨まれれば、貴族たちが震えぬはずがない。
ラヴィエルはこの不愉快な輪から抜け出そうとした。数歩歩いたあと、振り返り、アメリオラに告げた。
「いくら等級が低くても、彼女はあなたの姉でしょう。少しでも擁護すべきでは?」
そう言って振り返らずフェリアのところに向かった。残されたアメリオラの顔が真っ赤になり、爪を立てるようにラヴィエルを睨みつけた。
遠くから離れたフェリアは一部始終を見ていた。初めて人にかばわれたことにとても驚いた。そのことに彼女の胸に温かい炎が灯った。
(でも、なんでかばってくれたんだろう?)
その時、フェリアはラヴィエルがこちらに歩いてきているのを見た。
(こっちに歩いてきているけど、気のせいだよ、ね?)
だけど、ラヴィエルはまっすぐに向かってきた。そしてフェリアにジュースが入ったグラスを渡した。
「闇の一族、ラヴィエル・ノクスプリマスタ・レイヴンドーン。影の深さが、あなたの本質を照らすことを願います」
「...光の一族、フェリア・ラステル・ルーミンハート。星の導きのもと、本日あなたと出会えたことに感謝いたします」
まさかラヴィエルから正式な挨拶を受けるとは思ってもおらず、フェリアは声を失った。
そして“ラステル”だけは、できるだけ小さく発音した。
「いつもあのような扱いなのですか?」
「そ、そういうわけではございません」
「ですか――」
「ほんっとうに大丈夫です」
フェリアはラヴィエルに気づかれないよう、安心させるようへらりと笑った。
だけど目尻には涙が溜まっていた。
それが頬に伝わり、フェリアの手の甲に落ちた。
「あれ?」
フェリアは自分が泣いていると気付いた。
「め、目にゴミが入ったのかもしれないですね。お見苦しいとこ申し訳ございません」
だけど拭っても拭っても、涙はあふれるばかりだった。
「本当にごめんなさい、すぐに落ち着きますから」
「大丈夫ですよ、誰も急かしていません。泣きたいときは、泣いてよいのですよ」
ラヴィエルは懐からハンカチを差し出した。
「ありがとうございます」
フェリアはハンカチを受け取り、目に押し当てた。
ラヴィエルは何も言わずただフェリアの隣りに立っていた。
喧騒な舞踏会の中、まるでそこだけ別空間のようだった。
「ほんっとうに大丈夫です」
フェリアはそう言ったが、ラヴィエルは彼女が強がっているように思えた。確かに初対面の人には言いにくいだろう。
へらりと彼女は笑ったが、目尻の涙に、舞踏会の明かりが反射に輝いていた。
泣いている彼女には、静かに落ち着く時間が必要だろうから何も声をかけなかった。
ひとしきり泣いたフェリアは、ラヴィエルにとんだ醜態を見せたことに気づき、顔を赤らめた。
「申し訳ございません。その、ハンカチは...」
「ハンカチは差し上げます」
「そ、そうですよね。では頂戴します」
そう言い終わると、二人の間に沈黙が落ちた。
(き、気まずすぎる...!)
フェリアは必死に話題を探した。
「え、えーと、ラヴィエル様はなぜ今日ここに?」
「そうですね、そろそろ婚約者を探さねばならない時期ですから、最近様々なパーティーに出席していますね。フェリア様は?」
「アメリオラが今日デビュタントなので、それにわたくし宛に招待状が届いたので、いかざるを得ないと言いますか...」
「普段もパーティーに参加しますか?」
「いいえ、今日が約一年ぶりのパーティーなのです。ラステルですからあまり招待状がなくて...」
「そうなのですね、では本日会えたことは本当に星のお導きなのですね」
フェリアは目を瞬かせ、ふわりと笑った。
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