あるべき形へ アメリオラ視点
ちょっとやばめかもです。苦手な人は飛ばしてください。
練習場に足を踏み入れた瞬間、耳にまとわりつくような笑い声が聞こえた。
「ほら、あのアメリオラ様がおいでましだ」
「あれでしょ、姉をいじめていた……」
「よく図々しくここにいられるよね」
「たしか、家族みんな貴族身分を剥奪されたんだろ」
「そうそう……」
言葉は、わざとらしくはっきりと聞こえるように投げられてくる。
まるで、こちらが聞いているかどうかを確かめるように。
アメリオラは、何も言わずに歩いた。
背筋を伸ばし、視線を前に向けたまま。
(……今さらだ)
フェリアを虐待していたことが明るみに出て、王家から罰が下った。
それが、すべての始まりだった。
両親は貴族籍を剥奪され、庶民として市井で暮らすことになった。
屋敷も、使用人も、財産も、すべて失った。
自分だけは、高い能力を理由に、騎士団に入れられた。
――拾われた。
そう言った方が、近いかもしれない。
これまで、両親は何もせずとも生きてこられた。
指示を出し、金を払い、誰かに任せるだけでよかった。
そんな人たちが、突然、自分の手で生活しなければならなくなった。
(……できるはずがない)
分かっていた。
分かっていたけれど。
自分もまた、この環境に慣れなければならなかった。
生き残らなければならなかった。
両親のことを気にかける余裕なんて、どこにもなかった。
騎士団に入った当初、アメリオラは決めていた。
意地でも訓練はしない、と。
命令されるのも、頭を下げるのも、耐えられなし、自身のプライドがそれを許せなかった。
最初の数日間。
どれだけ腹が減っても、剣を取らなかった。
(……そのうち、折れるはず)
誰かが。
規則が。
この扱いが。
そう思っていた。
けれど、現実は違った。
本当に、ご飯が出なかった。
空腹は、思っていたよりも早く、体を蝕んだ。
立ち上がるだけで、足が震える。
頭が、ぼんやりする。
それでも、訓練場には立たなかった。
けれど、ある朝。
立ち上がろうとして、膝が崩れた。
(……ダメだ)
ようやく、自分の限界を理解した。
渋々、剣を取った。
形だけでも、動くしかなかった。
そうして初めて、食事が与えられた。
固いパン。
味気のないスープ。
貴族だった頃と比べるまでもない。
それでも。
(……ないより、マシ)
そう思って、飲み込んだ。
訓練を始めても、状況は変わらなかった。
笑い声。
囁き声。
蔑む視線。
それらは、常に背中に突き刺さってくる。
けれど、不思議と直接的な暴力はなかった。
(……勝てないから)
それだけは、はっきりしていた。
自分の能力は多分この中で、もしかしたら団長よりも強いかもしれない。
彼らもそれを認めざるを得ないほどに。
だから、手を出してこない。
――臆病なくせに。
かつて、フェリアを笑っていた者たち。
一緒になって、見下していた者たち。
今は、立場が逆だ。
アメリオラが落ち、彼らは安全な位置から嘲笑う。
(……本当に、醜い)
剣を振る。
腕が軋む。
息が荒くなる。
それでも、止めない。
(いつか……)
必ず、見返してやる。
そう思って、今も剣を振っている。
「そういえば聞いた?あいつの姉が今、闇のヴェリスの屋敷にお世話になっていると言う話」
「聞いた聞いた、前パーティーに行った時に闇の一族の友だちに聞いた」
「本当?あのラステルが?」
「しっ、それ聞かれたら処分くだされるよ、あんたもあいつみたいになりたくないでしょ?」
ふざけんな、と思った。
あいつ、という言葉よりも、フェリアが守られているという事実の方が、はるかにずっと許せなかった。
頭が一瞬真っ白になった。
胸の奥で、何かが音を立てて壊れた。
あのフェリアが?
あの落ちこぼれが?
ラステルのくせに、自分よりも良い生活を送っている?
許せない許せない許せない。
誰のせいでこんな生活を送る羽目になったのか。
誰のせいでみんなに蔑まれてきたのか。
全部あいつが悪い。
全部全部、あいつが悪いんだ。
あのフェリアがラヴィエル様に色目を使ったんだよ。
ラステルのくせに、私に勝てると思ってるの?
ふざけんなふざけんなふざけんな。
そうか、あいつがいなければいいのか。
あいつがいなければ全てはもとに戻る。
ラヴィエル様に選ばれるのもチヤホヤされるのも、全部、私なんだ。
そうだよ、あいつは死ねばいいんだ。
そうすれば世界はもとに戻る。
気づいた瞬間、アメリオラは笑い出した。抑えきれず、喉から音が漏れた。
周囲は突然笑い出したアメリオラを見てゾッとした。
ひどく歪んだ笑顔を浮かべたアメリオラを、不気味なものでも見るような視線を向けた。
歪んだ笑顔を浮かべたアメリオラを、誰も、止めようとはしなかった。
アメリオラはなにかに取り憑かれたようにずっと笑っていた。
あぁ、あいつが消えれば、全てが元に戻る。
アメリオラは、そう信じて疑わなかった。
一刻も早く両親にも伝えないと。
アメリオラはそう考えると、市井に住む両親の元へ急いだ。
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