初めての夜
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
少し予定より遅れて投稿してごめんなさい…
今回は短めです。
部屋に残された静けさは、思ったよりも柔らかかった。
フェリアは、そっと一歩踏み出した。
床は冷たくなく、足音も吸い込まれるように消えた。
窓辺に近づき、外を見る。
庭は手入れが行き届いていて、白と淡い緑が穏やかに混ざり合っていた。
ひとりなのに、ひとりきりではない。
誰も来ないのに、放っておかれている感じもしない。
(……変なの)
フェリアは、ベッドの端に腰を下ろした。
柔らかすぎず、固すぎない。前の家より心地が良かった。
しばらくして、控えめなノックが響いた。
「……失礼いたします」
入ってきたのは、先ほど玄関にいたメイドの一人だった。
視線は自然に伏せられ、距離も近すぎない。
「お茶をお持ちしました。もし不要でしたら、下げますが……」
「い、いえ……ありがとうございます」
メイドは静かに頷き、テーブルにカップを置く。
香りは強くなく、落ち着いた、カモミール匂いだった。
「何かご不便はありませんか」
「今のところは、大丈夫ですけど、その、お風呂に入りたいのですが……」
「では、ご案内します」
そう連れてこられたのは、大きな浴室だった。
天井は高く、壁は淡い石で統一されている。
装飾は少なく、音が反響しすぎない造りだった。
「こちらになります」
そう言って、メイドは一歩下がる。
「必要なものは、すべて揃っております。終わりましたら、お声がけください」
「……ありがとうございます」
一礼して、メイドは静かに退出した。
扉を閉める音も控えめだった。
たぶんだけど、気を使われているだろう。
フェリアはしばらくその場に立っていた。
広い。
けれど、落ち着かない感じはしない。
服を脱ぎ、湯に手を入れる。
熱すぎず、ぬるすぎない。
肩まで沈むと、思わず息が漏れた。
――疲れていたのだと、そこで初めて気づいた。
あそこに閉じ込められていた間、気を張り続けた日々。
温かいお湯がそれらを少しずつ、ほどいていく。
目を閉じると、何も考えなくてよくなった。
しばらくして、ゆっくりと立ち上がる。
用意されていたタオルは、柔らかく、香りも控えめだった。
浴室を出ると、部屋の中は変わらず静かだった。
部屋に戻ると、窓の外は夕方の色に変わり始めている。
淡い光が、床に長く伸びていた。
フェリアは、椅子に腰を下ろした。
何かをしなければ、という気持ちは起きない。
だけど、ここにいたいという気持ちだけは、たしかにあった。
再び、ノックの音。
「……フェリア」
聞き覚えのある声だった。
「今、少しお時間はよろしいでしょうか」
フェリアは、立ち上がって答える。
「……はい」
キィ、と小さな音を立てて、ラヴィエルが入ってきた。
「……体調は、いかがですか」
フェリアは一瞬考えてから、正直に答えた。
「……大丈夫です。お風呂も、気持ちよくて」
ラヴィエルは、それを聞いて小さくうなずいた。
「それは、よかった」
一瞬だけ沈黙が訪れたが、気まずくはなかった。
「……夕食ですが」
ラヴィエルが続ける。
「今日は、部屋で取ることもできますし、食堂に来ていただいても構いません。無理はしなくていい」
フェリアは、少し迷った。
ひとりで食べてもいい。
でも、今は——
「……食堂で、いただいてもいいですか」
ラヴィエルは短くうなずいた。
「分かりました。準備が整いましたら、また伺います」
そう言って、踵を返し部屋を出ていった。
フェリアは椅子に座ったまま、窓の外を見た。
空は、もうすぐ夜に変わりそうだった。
この屋敷で迎える、最初の夜。
フェリアは、そっと息を整えた。
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