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自分への一歩

活動報告のところに、年末年始の活動について書いてあるので、読んでいただけると幸いです。

 その日のうちに、ラヴィエルはフェリアを連れて自分の屋敷へ向かった。

 出立の前に、彼は一度だけ問いかけた。


「……何か、持っていきたいものはありますか」


 フェリアは一瞬、考えるように視線を伏せた。

 けれど、すぐに小さく首を振る。


「……大丈夫です」


 言葉は穏やかだった。


「あの家には……あまり、良い思い出がなくて」


 それ以上は、何も付け足さなかった。

 ラヴィエルは、問い返さなかったし、理由を掘り下げることもしなかった。

 ただ、その言葉をそのまま受け取るように、短くうなずいた。


「分かりました」


 それだけだった。


 フェリアは、屋敷を振り返らなかった。

 名残も、未練もない。


 身一つで歩き出すことに、怖さがないわけではなかったが――

 それ以上に、「戻らなくていい」という事実が、彼女の胸を満たしていた。


 移動の間、ラヴィエルは必要以上に話しかけることはしなかった。

 馬車の中は静かで、揺れも少ない。

 フェリアは窓の外を眺めながら、ふと思った。


 ――何にも縛られない。


 それが、こんなにも楽だなんて。


 ラヴィエルは、フェリアの様子を視界の端で捉えていた。

 これから先、彼女が「帰る場所」を失わないようにしよう、という静かに決意した。


 やがて、闇の一族の屋敷が見えてくる。

 高く、重厚で、けれど閉ざすためではなく、守るために建てられた城。


 フェリアは、無意識に息を整えた。


 新しい場所。

 新しい空気。


 そして――

 もう一度、自分を考えるための場所。


 ラヴィエルは馬車を降りると、当然のように手を差し出した。


「……ようこそ。フェリア」


 それは、歓迎の言葉だった。


 フェリアは一瞬ためらい、そしてその手を取った。

 ラヴィエルにエスコートされながら、門をくぐった。「おかえりなさいませ」と執事や闇の一族を象徴とした黒いメイド服を着たメイドたちがきっちりと並んで迎えていた。視線は礼儀正しく伏せられ、値踏みするような気配は一切なかった。


 フェリアは思わずラヴィエルを見上げた。

 けれど、彼は何も言わず、ただ彼女の歩調に合わせて歩いている。


「……すごい……」


 フェリアが思わず漏れた小さな声に、ラヴィエルは気づいたようだった。


「驚かれましたでしょう、申し訳ありません」


「い、いえ……」


 フェリアは慌てて首を振る。


「その……皆さん、とても……整然としていて……」


 光の一族の屋敷で浴びてきた視線とは、まるで違う。

 好奇でも、蔑みでもない。

 ただ、“迎える側”としての距離。


 ラヴィエルは、それを当然のことのように言った。


「私の屋敷では、許可なく他人を測ることは禁じています」


 淡々とした口調だったが、そこには揺るぎがなかった。


「あなたは、客人です。それだけですから」


 フェリアは、胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。


 玄関ホールに入ると、天井は高く、装飾は控えめだった。

 豪奢というより、落ち着いた静けさがある。


 執事が一歩前に出る。


「フェリア様のお部屋は、すでに整えております」


「……え?」


 フェリアは目を瞬いた。


「い、いつの間に……」


「最低限です」


 ラヴィエルが補足した。


「必要なものは、これから一緒に整えればいいです。今日は、休んでください」


 “用意されていた”という事実に、少しだけ戸惑う。

 けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。


 押しつけではなく、

「いていい場所」を、先に空けておいてくれたような感覚。


 フェリアは、小さくうなずいた。


「……ありがとうございます」


 ラヴィエルは、その言葉に一瞬だけ目を細めた。


「ここでは、礼よりも――」


 言いかけて、やめた。


 代わりに、いつもの穏やかな声音で言った。


「困ったら、呼んでください。それで十分です」


 フェリアは、その言葉を胸に留めた。


 連れられて通された部屋は、白と淡い灰色を基調にした、落ち着いた空間だった。

 豪華すぎず、けれど粗末でもない。

 窓からは庭が見え、空は広い。


「……きれい……」


 自然に出た言葉だった。


 ラヴィエルは、部屋の入口で立ち止まったまま、入ってはこなかった。


「今日は、ゆっくり休んでください。夕方に、様子を見に来ます。それまでは……ゆっくり過ごしてください」


 フェリアは慌てて礼を言った。


「はい、素敵なお部屋をありがとうございます」


 そう答えると、ラヴィエルは安心したように、わずかに息を吐いた。


「いいえ、私がしたいようにしたのですから。では、また後ほど」


 扉が静かに閉まる。


 フェリアは、部屋の中央に立ったまま、しばらく動けなかった。


 鍵のかかる音はしなかった。

 それなのに、ひとりきりでも、不安はなかった。


(……ここは……)


 胸の奥に、うまく言葉にできない感覚が、静かに満ちていく。


 一方、廊下を離れたラヴィエルは、足を止め、静かに呟いた。


「……ようやく、ここまで来た」


 その声は、誰にも聞かれない。

 部屋の準備でお礼したフェリアには、この屋敷の中で安心してほしい。ただそれだけだ。

 ラヴィエルには、その(フェリア)手放すという選択肢を、持っていなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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