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始まりの朝

 朝日が白い庭に差し込んだ。すべてが輝いて見え、夜空に輝く無数の星に見える。

 フェリアはまぶたをこすり、目を開けたら、自分はいつの間にか寝てた上、ラヴィエルに寄りかかってしまったことが発覚した。


「え、ご、ごめんなさい!そのいつの間にか寝てしまって……」


 フェリアは顔を赤くし、慌てて謝罪をした。

 ラヴィエルはそんな彼女を見て、微笑んだ。


「大丈夫ですよ。フェリアの寝顔は可愛かったですよ」


 その答えに、フェリアはよりいっそう顔を赤くし、手で顔を覆った。

 その仕草に、ラヴィエルは小さく息を吐いた。


「……そんなに申し訳ならなくても」


 穏やかな声だった。


 フェリアは、そっと顔から手を離す。

 まだ熱の残る頬を、朝の光が容赦なく照らした。


「でも……その……寄りかかってしまって……」


 言葉が尻すぼみになってしまう。


 ラヴィエルは、少しだけ視線を落とした。

 白い庭に差し込む朝日が、彼の睫毛に淡い影を落とす。


「私は、嫌ではありませんでした」


 そう言い切った言葉には嘘があるように感じられない。


「むしろ……ここまで安心して眠ってもらえたのなら、それで十分です」


 フェリアは、言葉に詰まった。


 安心。

 自分が、誰かのそばで、そんなふうに眠ったことがあっただろうか。


「……ありがとうございます」


 また、それしか言えなかった。


 ラヴィエルは首を横に振る。


「礼を言われることではありません。昨夜は、長い一日でしたから」


 そして、ほんの一瞬だけ間を置いてから、付け足す。


「しばらくは……ここにいましょう。朝食も、無理に急ぐ必要はありません」


 その言葉に、フェリアは小さくうなずいた。


 庭園は静かで、誰にも急かされない。

 誰かの視線に怯える必要もない。


 白い光の中で、フェリアは胸に手を当てた。


 心臓は、まだ少し早い鼓動を刻んでいる。

 けれど、それは恐怖ではなかった。


(……不思議)


 守られている、という感覚が。

 まだよく分からないはずなのに、どこか自然に受け入れてしまっている。


 ラヴィエルは、その様子を黙って見ていた。

 手を伸ばすことはしない。

 ただ、彼女がそこにいることを、確かめるように。


 朝日は、静かに庭を満たしていく。


 夜が終わり、けれど何かが――

 確かに、始まってしまった朝だった。


 二人はしばらく無言で座っていた。

 しばらくして、フェリアは決心したように言った。


「私、ラヴィエル様の屋敷に行きます」


 その言葉に、ラヴィエルはすぐには答えなかった。

 驚いた様子も、喜びを隠そうとする様子もなかった。

 ただ、ほんの少しだけ息を呑んだ。


「……本当ですか?」


 フェリアの答えを確認するような声音だった。


 フェリアは、膝の上で指を絡めた。


「まだ……自分の気持ちは、はっきり分かりません」


 正直な言葉だった。


「でも、戻る場所は……もう、あそこではないと思っていて」


 白い庭園を見回す。

 光は優しく、拒まない。


「ラヴィエル様のそばなら……少しずつ、考えられる気がします」


 ラヴィエルは思わずフェリアを抱きしめてしまった。


「……ありがとうございます」


 フェリアは急の抱擁に目を見開き、そしてラヴィエルのお礼に対し、慌てて言った。


「お礼を言われるようなことではありません。お世話になってしまう身ですから、こちらこそありがとうございます。」


 ラヴィエルははっとしたように腕の力を緩めた。


「……失礼しました」


 そう言って、ゆっくりと身を離した。

 けれど、その動作はどこか名残惜しそうでもあった。


 フェリアは、まだ少し驚いたまま、視線を彷徨わせる。


「い、いえ……」


 否定はしたが、どう返していいか分からない。

 胸の奥が、妙に落ち着かない。


 ラヴィエルは一歩距離を取り、静かに言った。


「……あなたが“お世話になる”必要はありません」


 声は穏やかだったが、言葉ははっきりしている。


「私が、あなたを迎えたいのです。だからこれは、私の都合でもあります」


 フェリアは、少し困ったように眉を下げた。


「そんな……」


「フェリア、あなたは自分が思う以上魅了的な人なのです」


 ラヴィエルは静かに微笑んだ。


「ですから、気負わなくていいのです。あなたは、あなたのままでいてください」


 そして、フェリアの心を包み込むように。


「少しずつで構いません。私の屋敷では、ありのままの自分であってほしいです」


 朝の光が、二人の間を柔らかく満たす。


 フェリアは、小さく息を吸い――うなずいた。


「……はい」


 その返事に、ラヴィエルの表情が、わずかだけ緩んだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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