大人の意地
残っている狼の素材を、すべて床に広げた。
「……よし、使い切るか」
まずはナイフ。
骨と木材を素材にクラフトする。
切れ味はそこそこだが、ないよりは遥かにいい。
次に、牙を使った槍。
簡素だが、石よりは貫通力がありそうだ。
蔦でクラフトしてロープを作り、
残った毛皮で簡単な作りのリュック。
そして最後に――もう一度、狼の外套をクラフトする。
出来上がった装備を並べたところで、素材はほぼ尽きた。
「……牙と爪、骨が少し残ってるな」
今のところ使い道は思いつかない。
無理に使うより、取っておいた方がいいだろう。
棚にしまい、姉妹の方を見る。
「森に行ってくる。戻ってくるからここにいてくれるか。」
強制はしない。
ただ、なるべくここにいるように伝えた。
姉は不安そうにしながらも、頷いた。
――森へ。
目的は、動物系の素材と、まだ見ぬ素材の探索。
目につくものを鑑定して食べられそうなものや使えそうなものを頭に刻みながら、拠点周辺を歩く。
まず見つけたのは、ハート型の柔らかな葉を持つ草。
「……イヤシソウ、か」
鑑定でそう表示された。
語感から薬が作れるかもしれない。
いくつか採集しておく。
次に、少し刺激臭のあるな黄色がかった草。
「シビレグサ……これは、痺れか」
上手く使えば狩りや、もしもの時に使える。
これも忘れずにとっておく。
そうして使えそうな野草を集めていると、視界の端で何かが動いた。
「……あれは」
【鑑定】
名称:フォレストラビット
種別:魔物(草食)
危険度:低
生息地:森林
特性:角を持つウサギ型魔物。好戦的な性格。
素材価値:肉・毛皮・角
食用:可
ウサギのような姿に、小さな角。
草食の魔物だ。
「食える、な」
俺は草木の陰に隠れ、その場でクラフトを発動する。
原始的な投槍具――アトラトルをクラフトする。
持ってきた槍を装填。
草を食んでいる一瞬を狙い、槍を放った。
「……!」
綺麗な軌道。
<狩り>スキルの補正か、槍は迷いなく飛び――魔物を貫いた。
「よし…!」
近づき、解体しようとしたところで、ふと考える。
「……この状態でクラフトしたら、どうなるんだ?」
毛皮とロープを素材に、小さなポーチをイメージして発動。
一瞬の光のあと。
完成したポーチの傍に、使わなかった角と肉が残った。
「……なるほど」
クラフトは、必要な分だけ素材を使う。
使用されなかった素材はその場に残るのか。
これは、大きな発見だ。
周囲の葉をまとめ、大きな一枚にして肉を包み、
素材ごとリュックに詰める。
探索を続けると、微かな音が耳に届いた。
…ちょろちょろ…。
岩が折り重なった場所。
苔に覆われた岩の隙間から、水が滲むように流れ出ている。
小さな泉――というより、水たまりのような場所だ。
「……湧き水、か」
鑑定で危険がないことを確認し、喉を潤す。
「助かる……」
小さくても水場を発見できたのは大きい。
ひとまずの目標を達成したので、素材を集めながら戻ることにした。
その後、見つけたもう一匹のフォレストラビットを狩り、
野草、木の実、茸を詰められるだけ集めて拠点へ戻る。
ウサギを一匹と半分を燻製にし、残りはそのまま持ち帰る。
***
街の拠点に着き、姉妹に声をかける。
「ただいま」
石の鍋に水を入れ、ウサギ肉と野草、茸を放り込み、火にかける。
<料理>スキルが働き、素材の旨みを引き出すように調理していく。
調味料はない。
それでも、十分に美味かった。
「……おいしい」
姉妹が少し笑う。
その顔を見て、俺は思った。
記憶にある体よりもずいぶんと縮んでしまったが。
精神的には大人の俺が、寄る辺のない子供を守る。
それは、ごく自然なことだ。
前世では柵に囚われ、躊躇してしまった人助けも。
善行による特典という大義名分がある。
「……やってやるさ。」
拠点の発展。
装備の拡充。
そして、スキルの理解。
やることは多い。
だが――確実に、前に進んでいる。
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