入口の拠点を作ってみよう。
第一回目の街の探索を終え、俺は静かに引き返した。
大通りの喧騒を背に、裏路地を抜け、城壁の穴へ戻る。
そこには、姉妹がまだ寄り添うように眠っていた。
――起こさないように、だな。
この場所は悪くない。
外壁の行き止まりで人通りは少なく、森へ抜ける穴もある。
ここを「街側の拠点」として整備しておく価値はある。
まずは通路の処理だ。
貧民街へ続く道は半ば崩れたままになっている。
わざわざこちらまで来る人がいるかは妖しいが、匂いや音に反応してよからぬ輩が来る可能性は否めない。
壊れた木箱や樽を集め、クラフトで基の状態に直す。
板を組み、隙間を埋め、簡易的な壁のようにして入口の通路を塞いだ。
完全ではないが、不用意に踏み込まれる心配は減った。
次は最低限の家具だ。
机、椅子、小さな物置や素材を保管しておくための木箱など。
音を立てないよう、ひとつひとつ慎重に作る。
姉妹は小さく寝息を立てたまま、身じろぎひとつしない。
「……よし」
ちゃんとしたベッドや、雨風を防げるシェルターを作るには素材が足りない。
俺は森へ向かった。
森は、昨日よりも少しだけ「使える場所」として見えていた。
加工しやすい木、平たい石、鑑定で食べられそうな木の実や山菜。
知識が増えると、目に入るものも変わってくる。
素材を抱えて拠点へ戻ると――
「あ……」
ちょうど、姉妹が目を覚ましたところだった。
妹は相変わらず無口だが、姉は俺を見ると、ほっとしたように肩の力を抜いた。
「……どこかへ行っちゃったのかと、思いました」
「ちょっと準備してただけだ」
今日クラフトスキルを使っていて、感じたことがある。
――クラフトの熟練度が上がった。
できることが増えたと、理屈抜きでわかる。
素材の消費量が少し減ったこと。出来上がったものの品質が向上していること。
あとは、今までより複雑な構造をイメージしやすくなったように感じる。
俺は森から運んだ石で、かまどと石の鍋をクラフトした。
簡素だが、これで調理ができる。
とはいえ、水が足りない。
水筒に汲んだ飲み水はあるが、煮炊きは無理だ。
探索の途中で見つけた井戸に今から行くのは危険が多い。
結局、森の拠点から持ってきた燻製肉と一緒に木の実や山菜を炒めたものを食べることにした。
火にかけた肉の香りが、狭い空間に広がる。
妹は相変わらず黙々と食べ、姉は何度も小さく「おいしい」と言った。
夕食を終え、俺は森の拠点へ戻ろうと立ち上がる。
「……あの」
姉の声に、足が止まった。
「行かないで、ください」
妹も、ぎゅっと外套の端を握っている。
少し考えたあと、俺は息を吐いて笑った。
「わかったよ」
簡易的なベッドをもうひとつクラフトする。
火を消して、三人で横になる。
狼の外套を毛布代わりにかけた。
夜の街の音と、遠くの森の気配が混じり合っていた。
不安はある。
それでも――
自分の手で作った場所で、誰かと眠る。
その事実が、確かな充実感として胸に残っていた。
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朝、目を覚ましたのは姉妹より少し早かった。
外套をそっとどかし、静かに身を起こす。
「……寒くは、ないな」
昨日作った簡易拠点は、思ったより風を防いでくれている。
焚き火の跡に火を入れ直し、残っていた燻製肉を軽く炙った。
ぱち、ぱち、と脂が落ちる音。
それを見ていると、腹が鳴った。
そろそろ起こすかと姉妹を見るといつの間にか、妹の方が横に座っていた。
姉も少し遅れて歩いてくる。
「おはようございます……」
「おはよう。ちゃんと眠れたか?」
こくり。と軽くうなずくと、燻製肉に目を奪われているのが分かる。
木でクラフトした皿にとりわけ、三人で食べる。
……正直、量は少ない。
「このままだと、すぐ底をつくな」
食料もそうだが、水も問題だ。
昨日の飲み水は貧民街にあった井戸を使った。
だが…
「毎回あそこ行くのは……危険すぎる」
水を飲まなければ人はすぐに死ぬ。
鑑定して水質に問題がないことは確認したが、
井戸の周辺には何かしらの病をもった人間がいたかもしれない。
そうなると、いつまで安全に飲めるかは正直分からない…
森の中できれいな水を確保できれば、それが一番いい。
ただ、その前にやることがある。
今使っている水筒は、狼の毛皮で補強している分、保水性は高い。
でも――
「この子たちの分まで考えると、やっぱりためておく物が必要だな」
水は貯めておける形にしておくべきだ。
俺は手頃な木材を選び、綺麗な樽をクラフトする。
板が組み合わさり、形が整った樽だ。
素材が混じり光が織りなすその光景を、姉妹がじっと見ていた。
「……すごい」
姉が、小さく息をのむ。
隠す理由も、もうないか。
「俺はちょっと特殊な力を持ってる」
二人の視線が集まる。
「素材を組み合わせて物を作れる力だ。あと……昨日みたいに軽い怪我を治したりもできる」
妹は首を傾げ、姉は半信半疑といった顔だ。
「よくわからなくてもいい。ただ――」
俺は少し声を落とす。
「これは、特別な力だ。
だから、誰にも言わないでくれ。
もし知られたら、お前たちも危ない。」
二人はこくりと頷いた。
妹の方は理解しているかは怪しいが、
危険が伝わって入ればひとまずはいい。
樽が完成したところで、次は水筒だ。
狼の外套を材料にして、水筒をいくつか作る。
それから、井戸へ。
もう一度鑑定で水質に問題ないことを確認してから、
何度か往復し、樽に水を溜めていく。
「飲む前に、できるだけ火にかけろ」
姉にそう教え、水筒を二つ渡した。
「わかりました……ありがとうございます」
準備を整えたあと、俺は一度森の拠点へ戻る。
残っていた狼の素材、わずかな燻製肉、食べられそうな木の実。
集めて戻り、街の拠点に作っておいた棚と木箱に保管する。
「腹が減ったら、これを食べろ」
姉妹は何度も頷いた。
……かなり減ったな。
食料も、素材も。
このままじゃ長く持たない。
「よし」
俺は道具をまとめ、森の方を見た。
「もう一度、稼ぎに行くか」
生き延びるために。
そして、この場所を守るために。
異世界での生活は、まだ始まったばかりだ。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
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