神から授かりし、スキル(笑)
ギュルルルル……。
腹が、鳴った。
耳元で怪物が唸っているような音に、自分でびびる。
だがもちろん犯人は俺の胃袋だ。
「……転生して餓死って、さすがにシナリオ雑すぎないか…?」
石畳の上に座り込んでぼやく。
体はだるいし、喉はカラカラだし、視界はぼんやり霞んでいる。
路地裏の空気はじめじめしていて、腐った野菜と鉄錆の匂いが混ざり合い、鼻をつんと突いた。
……もう、普通に最悪。
こういう時は貴族の三男とかせめて農家の長男くらいにしておいてくれよ…
このままだと転生初日で、ゲームオーバーだぞ?
そこで脳裏にふと浮かんだ。
あの神様の声。
『初期スキルとして、クラフトと鑑定を授けよう。
さらに、善行や実績を積めば新たな力を得られるだろう』
「……ああ、そういや言ってたな。ゲームの実績解除方式かよ。
この世界、異世界転生のベタ要素を取り入れる必要あるか?
世界的にハードモードなんだし、ちょっとは優遇しろや…」
とはいえ、背に腹は代えられない。
今すぐ使えるカードはそれしかない。
俺は手を伸ばし、足元に転がっていた木片を拾い上げた。
「……鑑定」
次の瞬間、視界の端に文字が浮かぶ。
《腐った木片(耐久値1/10)》
「おお……! 本当に出た! ……けど、これは使えねぇな…」
路地裏の木片に期待した俺がバカだった。
近くに落ちていたボロ布をつまみ上げ、同じように呟く。
「鑑定」
《布切れ(用途:包帯、布紐)》
「おお、これはちょっと役立ちそうな情報だな。
包帯……うん、この世界だと重要物資だな。」
少しテンションが上がる。
やってみるか。クラフト。
俺は木片と布を両手に持ち、深呼吸した。
「……クラフト!」
瞬間、手のひらが淡く光り、素材がぐにゃりと形を変えた。
魔法陣とか派手な演出は一切なく、ただ光って、そして形になった。
「おお……これは……!」
現れたのは――
『粗末な副子』。
「……粗末って! せめて『普通の添木』であってくれ…!」
全力で突っ込んだ。
余計腹が減った気がする…
けれど手に取ってみると、意外としっかりしていることが分かる。
まあ……一応、使えそうな道具っぽい。
「よし…次…!」
今度は石ころと木片、ぼろ布を組み合わせてみた。
「クラフト!」
光が収まり、出てきたのは――
『ガタガタの包丁』。
「……ガタガタって。 いや、切れるのか…?」
恐る恐る布を切ろうとしてみると、ギリギリ裂けた。
使い古しのカッターナイフくらいの切れ味。
切れ味ゼロに近い。
「これで戦えってか…? マジか… 俺の初期装備『ひのきの棒』より弱くないか…?」
さらに素材を探して、壊れた桶のようなものと布を組み合わせてみた。
「クラフト!」
できたのは――
『穴あき水筒』。
「穴空いてるとか欠陥品だろ…!ゴミを組み合わせてゴミ作ってどうすんだ…!」
試しに近くの水溜りで水をすくってみたが、案の定ポタポタ漏れた。
これはひどい。
俺のクラフト、チュートリアル段階からバグってないか?
だが、鑑定してみるとこんな表示が出た。
《穴あき水筒(耐久値10/10) ※布を組み合わせると改善可能》
「なるほど……改造もアリってことか。つまり、工夫次第でどうにかなるんだな」
少しだけ希望が湧いた。
水筒は飲み口に紐がついていたので腰に巻いておく。
添木は腕に巻いて、石包丁は紐に巻き付けて腰に据える。
「よし。これで、最低限の生活道具は揃った……かな?
いや、全然そろってはないな…」
現実は甘くない。
俺の胃袋が再びギュルルと鳴いた。
いや、もはや地鳴りのようだ。
「……次は食料調達だな… どうするか…」
言葉にすると、途端にサバイバル生活が始まった実感が湧いてきた。
ここは見知らぬ世界の路地裏。
頼れるものは今のところクラフトと鑑定だけ。
そのうえで、腹を満たさなきゃいけない。
「はあ…… 転生初日のノルマがハードすぎる。
でもまあ、ここから始めるしかないか。」
俺は紐を再度まき直し、石包丁と水筒をカタカタ鳴らしながら路地裏を歩んでいく。
初めてのクラフトは期待外れな結果だったが、それでも確かに一歩は踏み出した。
この世界で生きるための、最初の一歩だ。




