街の音、名を呼ぶ声
少し空きました。
書き溜めがなくなったので、しばらく週1くらいになるやも…
1週間内にあった出来ごとの中で、
俺は姉妹の名前を聞くことが出来た。
朝の空気はまだ冷たく、かまどの残り火に手をかざしながら、
俺は燻製肉を薄く切っていた。
切り分けた肉を皿に乗せ、何も言わずに二人の前に置く。
「……今日も食べていいの?」
姉の方が、少しだけ遠慮がちに聞いてくる。
言葉は崩れてきたが、まだ毎日の食事に抵抗というか不安があるように見える。
俺は肩をすくめた。
「食べられるうちに食っとけ。
腹が減ると、ろくな判断できなくなる」
妹の方は目の前の食べ物に夢中なのか、もくもくと食べ始める。
その様子を見て、姉がふっと力を抜いたように笑った。
「……あのね」
少し間を置いてから、姉は言った。
「この子は、ティアっていうの」
妹がびくっと肩を揺らす。
急に名前を呼ばれて驚いた様子だ。
そんな妹をみて軽く微笑むと、姉は俺の方をまっすぐ見る。
「私は、ルナ。……今さらだけど」
「ティアと、ルナ、だな」
俺はそれだけ返して、また肉を切った。
名前を聞いたからといって、何かが変わるわけじゃない。
ただ――。
「俺は……あー、、カイでいい」
そう言うと、ティアが小さく首を傾げた。
「……おにい、ちゃん?」
「………まぁ、 呼びやすい呼び方でいいよ。」
ルナがくすっと笑った。
その笑い方が、出会ったころよりずっと柔らかいことに気づいて、俺は少しだけ視線を逸らした。
――ああ、もう戻れないな。
この子たちを見捨てる選択肢は、既になくなっていた。
***
装備を整え、外套のフードを深く被る。
今日は街だ。
<狩り>スキルを意識すると、世界の認識が少しだけ変わる。
足音が消え、周囲の気配が薄れる。
人の視線が、自然と俺をすり抜けていく感覚。
路地裏を通り、街の大通りに出た瞬間、音が押し寄せてきた。
呼び声、足音、馬のいななき。
森とは違う、生き物の多さ。
「……こっちの方が、よっぽど危ねぇな」
俺は独り言を呟きながら歩く。
市場らしき場所を見つけ、足を止める。
布、金属、食料。
人の手で作られたものが並び、金が動いている。
瞬時にクラフトした道具を売ることを思いつくが、、
――今は、やめておこう。
相場も分からない。身元も怪しい。
売るのは、もう少し後だ。
歩いているうちに気づく。
この街、普通の見た目の人が多いが、獣の特徴を持った、獣人らしき者も普通に混じっている。
露骨な敵意を向けている様子はない。
少なくとも、表向きは。
ふと、武器を携えた集団が視界に入った。
衛兵とは違う。
装備は揃っているが、統一感がない。
「……冒険者、か」
異世界物の定番だが、大きく外れてはないだろう。
俺は距離を保ち、彼らの後を追った。
人混みに紛れ、角を曲がり、路地を抜ける。
<狩り>スキルが、街でも通用することを実感する。
そして――。
少し開けた場所に出た先に、それはあった。
人の出入りが絶えず、独特の騒がしさと秩序が同居する建物。
掲げられた看板を見上げる。
剣のようなマークと盾、その上に光る星のマーク。
非常に簡素だが、わかりやすい。
「……やっぱり、な」
俺は一度だけ深呼吸し、フードを直した。
ここから先は、森とは違う。
お約束で言えば何かに巻き込まれる可能性もゼロではない。
だが、進まなければ得れないものがある。
そう思いながら、俺は冒険者ギルドの扉を押した。
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