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1997年の君と現代を生きる僕 --time goes by-- ep1

あのとき言えなかった言葉があります。

もう二度と会えない人へ。

もう届かないとわかっていても、それでも書いてみたかった。

かつて一緒に過ごした人との時間。

貴方にも重なる物語かも知れません。

この物語が、きっと、貴方にとってもあの日に言えなかった「ありがとう」になる。

きゅぴぴん♪

うちはウメちゃん。梅村さき。

今年から関西学院大学の新年生✨

苦労して浪人してまで入った大学。華の女子大生やで。もう灰色の浪人生活は終わったのよ。

ようやくバイトもできるし、今はお姉のとこに居候やけど、神戸で一人暮らしもする予定。

関西学院大学はオシャレなのよ。憧れだったのさ〜。おとついついにポケベルもゲット!これからはみんなからベル貰えると思うとウキウキ✨



(電車に乗って大学に向かうウメちゃん。いつもの駅からいつものように電車に乗って、しばらく…うたた寝してしまうーー)


「高田馬場〜

高田馬場〜」

まだ半分寝てるような中、車内放送で駅名がアナウンスされた。はて…あまり聞き覚えのない駅名だ。

「次は目白〜。目白。お出口は…」

めじろ?そんな駅あったかな?

車窓から外を見る。あまり見慣れぬ景色。車内もなんか違う。あれ?違う電車に乗った??

「目白〜。目白。」

ええ、どこ、ここ?

何線??

もうパニックやん!

「次は池袋〜。池袋に到着です」


池袋!

東京だ!なんで?

うち、大学に行くはずだったのに…??


周りを見渡すとみな、電子手帳みたいのを手で操作しとる。東京じゃ流行っているのかな?

いや、そもそもなんでうちが東京に?


(ウメちゃんは池袋駅で慌てて降りた。)


うそ…覚えている。あれ、池袋の東武とかメトロポリタンとかやな…。本当に池袋や…。

なんで池袋なんかに着いたの?


しっかし、ベルって電波弱いな〜。さっきからずっと圏外。誰からもベル来ない。困った…。


周りに知り合いは誰もいない。そりゃそうや。うちは関西の出身やもん。

そや、東京に上京しているはずのツレに連絡したらいいんじゃん!

うちって賢い✨

(池袋駅構内をウロウロするウメちゃん)

ん?なんか…公衆電話がない!?

なんなん!?東京って都会じゃないの?池袋駅はアホなのか。電話もないって…。


仕方がないの。知り合いがおる大学に行こう。確か西口やったな。

立教大学…。


あれ?自動改札、どうなってるん?

定期とか切符、入れるとこないよ。

みんな、何かを当ててる…。

池袋ってこんななの?

うちの定期券じゃ通れない…。まあ、池袋はそもそも定期の範囲外やけど。

(そっと見知らぬお姉さんの後ろについて一緒に改札を通過)

ふう、危ない、危ない。

なんや、いつの間にいろいろ変わったんやな。


(ウメちゃんは池袋の西口にブラッと出た。)


なにか違うな…。こんなきれいだったかな?前来てからそんな経っていないはずなのに…。

たしか西口ってこっちって書いてあったもんね。


(人がたくさん行き交う池袋駅。

立教大学目指してうろおぼえの道を歩く。なんだか見知らぬ景色や道で不安…。

ウメちゃんはふと…知っている香りに出会う。)


あっ…これ。なんだろう…。懐かしい匂い…。さっきすれ違ったあの人?


(背格好はゆーじ君に似てる…。ウメちゃんが立教大学に行って会おうとしているのはゆーじ君なのだ。

慎重にその背が高い男性の顔を覗き込む…。男性もウメちゃんに気付く。少しだけ時が止まったように思えた。)


ちがう!

似てるけど、ゆーじ君じゃない。こんなおっさんじゃないもん。

でも…なんでこんな似てるんかな?お父さんとかなのかな?

「あの…」

(ウメちゃんは考えがまとまるより先に言葉が出た。)

「ひょっとしてゆーじ君のパパりんとかですか?」



また時が止まる。というか凍る。なんなの、パパりんって。初対面の人にうちは何を言っているんだ!

急に恥ずかしくなり慌てて立ち去ろうとすると、

「…ウメちゃんなの?」

えっ…ゆーじ君の声。

えっ?このおじさんが??


ゆーじ君の匂いと声と瞳をもったおじさん??


「ウメちゃん…だよね?」

「うちやけど…。」


ええ〜……。


「君は不思議なくらい若いままだね…。いつ東京に来たの?」

「へっ?そうかな。ゆーじ君こそ、なんか雰囲気変わった?白髪、そんなにあったっけ?」

「白髪は…君と会わなくなってから色々な事があって増えたよ。もうあれからずいぶんと経つから…」

えっ?

ええっ!?

このひとは何を言っているのだろう。ウメちゃんの頭は処理能力をオーバーヒート。

ふらふらするわあ…。

意識が遠退く…


バタッ。



……うーん。

なんかゆーじ君の匂いで目が醒める。少し懐かしい。ウメちゃんが前にゆーじ君に贈った香水の匂い…。

あっ…。うち、気を失ったんやね。

まあ、ゆーじ君と一緒なら大丈夫……。

って、違う!

がばっと起きた。公園みたいなところでしばらく横になっていたみたい。

少し大人、いやだいぶ大人のゆーじ君がいる…。うちのことをずっと見守っててくれていたみたいだ。

認めたくないけど…きっと確かにこのおじさんはゆーじ君なんだ。この優しさはゆーじ君だよね。

突然こんなにも歳を取ってしまったゆーじ君。ウメちゃんは悲しいよ。


「あ、そういえばさ、ポケベル買う、買うって言いながらなかなか買えなかったじゃんね!?

ようやくおとついくらいに買ったのよ。ゆーじ君もベルしてね?」

「ポケベル…?」

「まえに電話で話したやんか、ようやっとこうたのよ。」

「梅ちゃん、ポケベルを最近買ったの?」

「そ!ようやくやで。でもさ、池袋って言うか東京は電波悪いねんな、ずっと圏外なんよ」

ポケベルをゆーじ君にみせる。ゆーじ君はとても不思議そうな顔……。

「梅ちゃん、ポケベルはもう何年も前にサービスが終了したよ。みんな今はスマホだよ。」

スマホ?なにそれ?

ゆーじ君の差し出した電子手帳みたいなものを見る。電車の中で東京のひとらが使っていた奴や。

「……え、何これ。画面が動いてるやん……。うそ…なにこれ?触ると反応するの??」

「梅ちゃん、ポケベル買ったの、いつ?」

「え…。おとといくらいやで」

「そんな……?」

ゆーじ君はとても深く悩む。うちもわけがわからないから…とりあえず悩むふりをして合わせてみる。

「ウメちゃんは…今、働いているの?」

「なに言ってんの。うちはまだ大学生になったばかりよ。バイトもこれから探すんやで?ゆーじ君だってバイトとかでしょ?」

「……!」

おかしい。話が合わない。このゆーじ君のようなおじさんは何を話しているんだろう。

「梅ちゃん、今、何歳?」

「へぇっ?何?急に?ゆーじ君なら知ってるやろ?」 

「じゃあ…今は西暦何年?」

「アホ扱いやめーや。1997年やろ」

「…!」

ゆーじ君はとても驚いた顔をする。そして震えながらこう話した。

「今は西暦20XX年だよ。あれから…もう何十年も経っているよ」

「えっ! うそっ…。ここって…未来なの?うち…未来に来たの?何で?」

「どおりで会話が噛み合わないはずだ。なんとも信じがたいけど…君はタイムスリップしてしまったみたいなのかな…。」

ゆーじ君はうつむきながら少しだけ視線をそらした。

え…。そんなに時が過ぎているの…?大学生だったゆーじ君がおじさんになるくらい??

ポケベルも使えない?買ったばかりなのに?

突然、理解できない事を告げられ、また、気を失いそうになりながらなんとか正気を保つ。

「ごめん。全然理解できない。けど、ゆーじ君が歳を取ったり街並みが少しずつ変わっているのはそういうことなんやな…」

もう嫌。帰りたい。なんなの、この世界。私を置いてきぼりにして進んだ未来?私のキャンパスライフはどうなっちゃったの?


(どうやらウメちゃんは電車で関西学院大学に向かったはずなのに、はるか未来の東京にタイムスリップしてしまったようだ。ひとつしか歳が変わらなかったはずのゆーじ君がおじさんになっている未来に。)


「そうか。だから君はあの頃のまま、変わらないのか。」

「……」

(まだまだウメちゃんの頭は混乱中。)

タイムスリップってそんなん本当にあるの?

もとの世界には帰れないの?もう…ひとりぼっちになった気分。てかほんとに1人だよね…。やばい、泣けてきた。

(ウメちゃんの瞳から涙がこぼれた)

「うち、もとの世界に帰りたい」

「……そうだよね」

「なんでこんなんなったの?」

「…ごめん。わからないよ」 

ゆーじ君はそっと抱きしめてくれた。ああ、この感じはゆーじ君や。

すっかりおじさんだけど、ゆーじ君の感じや。

良かった…。ウメちゃんはこの世界でひとりぼっちじゃなかった。


「ゆーじ君、ありがとう。少し落ち着いた」

ゆーじ君から少し離れた。

「なあ、大人になったゆーじ君は自分のやりたかったことやれたの?」

「うーん…。一生懸命生きてきたけど、うまく行かないことが多くて、苦労しているよ」

「そうなん?ふふっ。相変わらず男にモテるん?」


ゆーじ君は女の子が好きなのに、女の子より男性からモテるひとだ。ふふっ、その気の毒なところも好きやで。


「いやあ…最近はちびっこと動物からしかモテないよ(笑)」

「ふふっ、野良猫とかからようモテとったもんな(笑)」


ようやく少し笑えた。

少し落ち着いて周りが見えてきた。

「あれ、ここ、立教…大学?」

「そう。第一食堂前。ここらは…1997年の頃と雰囲気が変わらないね」


「……。うち、元の世界に帰れるのかな」

「……。ごめん、わからないよ。どうしてタイムスリップしてしまったのかもわからないから…」

また涙があふれる。やばい、アカン。

「ゆーじ君はもう働いているの?池袋で?」

「うん。池袋ではないけど、働いてはいるよ…けど、今は休職中なんだ。このまま辞めるかもね。」

「このへんに住んでいるの?」

「いや、名古屋だよ」

「名古屋??なんで?」

「その辺は話すと長くなるから……。今日は用があってたまたま東京に来ただけ。立教に来たのも久しぶり。本館の雰囲気とか変わらなくて嬉しかった。」

「うちの友達とか知らん?」

「ごめん、今、どこで何をしているかわからないよ。」

……。

長い沈黙が流れた。いっつも一緒に遊んでたツレも歳を取ったんやろうな…。


ゆーじ君は何を考えているのか、少し寂しそうな…哀しそうな顔をしていた。

なんでかな。

「なあ、どしたん?具合わるいの?それとも…なんかうちに怒っている?」

「いや、そんなことないよ。でもね、少し考えてみたの。君の…家族とかどうしているのかなって。」


……!

そうや、ここがもしほんとにめっちゃ未来なら…お姉やパパやおかんはどうしてはるんやろう?

めっちゃ気になる。

「ウメちゃんがもし本当にタイムスリップしてしまったなら…1997年に君は忽然と姿を消したんだよね、きっと。神隠しのように。親御さんはさぞかし心配で探し回っているんじゃないだろうか。きっと…今でも…。」

「そうか…うちは周りのみんなから見たら急にいなくなった人なんやな。

……みんな元気かな。」

こんな言葉しか出なかった。だってまだこんなん現実だと思えないやん!

(2人でこんな話をしていたらすっかり夕方になってしまう)

「なあ、今、何時頃なん?」

ゆーじ君はスマホって奴を出す。時計機能もあるらしい。

「もうすぐ6時だね。夕飯でも食べに行こうか。久しぶりに。」

ああ、そうか。うちは朝の電車に乗ったけど、着いたのは朝じゃないのか。少しおなかも減ってきた。

「まえ連れて行ってもらったお店また行こうよ。連れてって。」

「前に行ったとこ…?どこかな?」

「なんか2階にあった変わったレストランみたいなバーみたいなとこ。」

「ああ…3Bだね。あのお店、終わってしまったのよ。人気だったのにね。」

ええ…ウメちゃんの思い出のお店、もうないの…?そらそんだけ時間が流れたらそうなるのか…。

「昔から続いているとこもあるよ。そこに行ってみようか。」

「んー…。ゆーじ君に任せていい?あんま池袋知らんし。」

「もちろん。」

とにかく疲れた。もう涙も出ない。休みたい。でも家ははるか遠く。ホテルとか泊まるしかないんかな。

そんな事を考えながらゆーじ君についてお店に入る。お店で席についてゆーじ君をまじまじと見る…。ゆーじ君は本当に歳を重ねた。白髪にシミにシワ。悲しい。でも瞳の奥の優しさは変わらない。そこは安心…。

「なあ、ゆーじ君は大学出てから何をしてたの?」

「就職して、働いて…結婚もしたよ。子どももできたけど、離婚になってさ、今はひとり。色々うまくいかなくてさ…。」

結婚?離婚?お子さん?

もう情報量が多すぎた。またパニック。でも、めっちゃ先の未来なら…それも納得。

「今日は仕事で池袋に?」

「ううん。子どもを奪われたけど、裁判では子を父親に引き渡せって審判だったんだ。でも元妻はそれに従わないからとりあえず面会交流ってのをしている。そのために東京に。池袋はついでに寄っただけ。……もう僕は相変わらず波乱万丈の人生を送っているよ」

ふふ、このめっちゃ周りに振り回されている感じ、確かにゆーじ君だ(笑)。気の毒だけど、変わっていない。

「どうするの…?」

「仕事は休職しているんだ。何もなければこのまま、名古屋に帰る予定だったけど、さすがに今の君を放っておけないでしょう」

「うち…どうしよう?」

「とりあえず、実家を目指してみたら?親御さん、引っ越してなければいるかも。」

「もしいなかったら…」

「そのときはまた考えよう。」

怖いやん。そんなの。そしたらまたひとりぼっちやで。

「ゆーじ君も一緒に…来てくれへん?うち、ひとりぼっちになってしまうのよ」

「いいよ」

何も悩まず「いいよ」って…。

大人の余裕なのかな…。誰かに振り回されるのに慣れすぎなのかな(笑)。

「でも、一度名古屋の自宅に寄ってもいいかな?そのあと兵庫に行こう。新幹線とか交通費はウメちゃんの分も出してあげるから。」

「ああ、いったん家に寄りたいんやね。もちろんやで。うちの都合に付き合わせるんやからそんなん当たり前よ。」


(ウメちゃんはおじさになったゆーじ君と一緒に一路名古屋を目指す)

※note(UG君名義)やカクヨム(UGkunkky名義)にも同時掲載しています

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