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第9話 vsレクタリア

「……な」




なめんなぁぁぁぁぁ!!!!!




ダダダダダッ!!


 リュウの煽りの直後、レクタリアは口の中のえぐみも忘れて、悲鳴のような叫びを上げる。すると突如として、彼女の周りに何十という属性剣が生成され、それらは一本ずつリュウの身体を貫こうと奇襲を仕掛けてきた。


「ふざけないでっ!! あんたが無能力だから手を抜いてやってたのに! もう許さない。絶対あんたは殺すっ!! あたしからセーアちゃんを奪ったあんただけは! 絶ッッッ対に許さないっっ!!」


 尽きることのない剣の雨。赤の、青の、緑の、そして黄色の剣が避けることで手一杯のリュウの身体を際限なく襲っていく。


 さすがにこの手数には対処ができないリュウは、攻撃の隙間を縫って街道を外れて森林の中へと足を踏み入れる。そして、


「セーアっ!!」


「っ! は、はいっ!!」


 二人の戦況を心配そうに見守っていたセーアに声をかけて、二人は同時に森林の中へと逃げ込んだ。レクタリアも剣で足止めをしようとしたが、リュウは、レクタリアの剣の進路上に樹木が来るように仕向けており、リュウを狙った剣は自然の盾に阻まれてしまった。


「ちいっ!! 逃さないからっ!!」


 思い通りにいかない苛立ちに地団駄を踏み、レクタリアはすぐに足元に風を呼び起こして、風属性の飛行魔法フライで、森林の上空へと飛び上がった。


「あいつ……いったい何を」


 飛び上がったレクタリアは、自分の周囲に数本の剣を漂わせて、上空から降下爆撃の様に剣を落とそうと画策して、『リュウの』姿を探す。


 不自然に木々が揺らめくその様子は空からでも分かる。その動きを先読みして、剣を落とし続ければ、足止めでもトドメでも何でもできる。


――


 荷物を持ったまま、やや遅い速度で走るリュウ。リュウは、この森林地帯の逃走劇で、レクタリアが持つ剣製の能力についていくつかの推測を考えていた。


 一つは『剣製には剣を飛ばす力はない』こと。再開後すぐのレクタリアの青の剣撃、それはリュウの手前で落ちたのだが、リュウはその時に、剣の後ろから緑の魔力が迸っていたのを視認していた。


 そして、これまでの攻撃でも、剣は緑の魔力を推進力にしてこちらに飛んできていた。


 つまり、剣を飛ばしていたのはレクタリアの風魔法であり、剣製にはその力はない。


 そしてもう一つは『剣製には効果範囲がある』こと。わざわざ風魔法で推進力を与えて飛ばすと言うことは、剣製が飛ばすことを想定していないという推測。それなら、剣を作る範囲は広くある必要がない。


 もしも、これが剣術に長けている人間のチート能力であれば、自分の手の届く範囲に剣を置けばいいので、その推測はさらに現実味を帯びてくる。


 そして、最期の推測は……


ザンッ!!


「くっ!?」


 頭の中を整理していたリュウの後方数メートル向こうに、何かが落ちたような音がする。どうやら、茂みの揺れを観測してこちらを狙おうという算段らしい。


――


「あははっ! 動きさえ追いかければぁ、後は簡単だもんねぇ」


 悠々と空から攻撃するレクタリア、茂みの動きを目で追いかけてその都度剣を射出する。追い詰めている感覚に、さっきまで失っていた余裕を取り戻して、レクタリアは再び相手を煽るような口調に戻る。


 そして、しばらく森のざわめきを感じ取っていたレクタリアは、身体を逆さまにして、舌なめずりをした。


「そ・こ!」


 ドンッ!!


 短く端的な言葉とともにレクタリアはまたも空気の爆発……加速エアブーストを使って森の中に飛び込んだ。そして、レクタリアが飛び込んだ先で、背中を向けていたリュウに、自分の剣を……


 ではなく、36本の剣でリュウを囲んだ。


「アタシが風魔法で、撃ってることに気付いたのは褒めて上げる。で〜もね〜!」


――圧縮コンプレッション!!


 レクタリアが魔法を唱えると、突如として周囲の空気が二人の間に集まっていく。


「これはっ!?」


 リュウが驚くより早く、空気の圧縮に巻き込まれた剣は、そのままリュウ目掛けて真っ直ぐに突き立てられる。そして、切っ先がリュウの身体を引き裂こうとした時、またもリュウはレクタリアに目を向けた。


「はっ!」


 その目に見覚えがあったレクタリアはすぐに口を塞ぎ、またあの水を飲まされる恐怖に警戒した。


 だが違う。


バサッ!


「え……きゃぁぁっっ!! めっ、目がっ!?」


 突如として襲いかかる目の痛み。先ほどの苦みとは段違いの苦しみに、展開していた剣すら解除され、レクタリアの攻撃はすぐに無力化された。


「やはり、剣だけでは勝てないようだな。おまえの剣製の特性はだいたいわかった。これから何があってもお前の剣は届かないぞ」


 目を押さえて苦しむレクタリアに、リュウはそう言い残して『手に残っていた土魔法の砂粒』を払い落とした。


「お前が剣製で勝てるというのなら俺は受けて立つ。尤も、そんな事をプライドの高いお前が認めるわけが……」


「……くくっ」


 リュウが挑発的にレクタリアを煽り、剣を看破した事をしきりに話すと、それを、遮るようにレクタリアは不敵な笑みをこぼした。


 目はまだ見えていない、痛みはまだ残っている、だがレクタリアの声色は、いまだに変わってはいなかった。


「ねぇお兄さん〜、あんたまさか忘れたわけじゃないよねぇ? アタシが剣製しか持ってないわけじゃないこと」


「何を……いや、まさかっ!?」




 そう!! あんたが持ってた「全属性魔法」の能力!! 剣を攻略したぐらいで舐めないでっ!! アタシたちはエディミア!! 能力なんて入れ替えればいいんだからぁっっ!!




 そう言うと、レクタリアは自分の懐にしまっていた『ガラス細工のカード』を取り出して、自分の体の中に差し込んだ。


 直後、強力な光とともにレクタリアは姿を表し、彼女の気配が大きく変わった。砂に苦しんでいた目は洗い流され、炎と水、そして土の結晶が周囲に浮遊する、これまでとは違うレクタリアが表れた。


「うふふ、剣製って使い勝手が悪くて面倒だったのよねぇ。やっぱりこの世界共通の魔法は身体に馴染んじゃう〜」


 複数の属性を一度に起動できる快感にうっとりとした表情を浮かべるレクタリア。そして、レクタリアの攻撃はここから純粋な魔法戦に切り替わり。彼女の周囲の結晶は、それぞれ火炎球ファイアボール岩石塊ロックスフィア水槍アクアランスと言う形を取って、リュウに矛先が向けられる。


「剣の弱点がわかったところでぇ、アタシにはあんたの持ってた能力が使える。セーアちゃんと一緒にいたのに、そんな事も聞かなかったのぉ? かわいそうにぃ」


 嘲るようにリュウを弄び、レクタリアは自分で展開した三属性の魔法12発を一斉掃射する。


 魔力の限りを使い、遮るものをなぎ倒す三属性の魔法。炎が草むらを焼き、岩によって木々が抉られて、水の槍は枝をへし折った。それらの応酬を受けて、リュウは残った体力で逃げの一手に出て、再び木々を遮蔽物にして回避に徹した。


「また逃げるのぉ? アタシもう風魔法は完璧に操作できるからぁ……」


 ヒュン!


 そこまで言ったレクタリアは風を纏って音の速さでリュウとの距離を詰める。


「逃げてもむ・だ」


「ぐっ……!!」


 至近距離に来たレクタリアに、リュウはここまでで初めての焦りを見せる。そして、今度は至近距離でレクタリアの土の塊が放たれて、リュウの腹部に直撃する。


「がっ……は……」


「あははっ! やっぱりチート能力無しでエディミアに勝つのは無理だったんだよぉ。しかも属性剣で斬られた所もまだ治ってないんでしょお? だったらもう耐えられないほど痛いよねぇ?」


 レクタリアの指摘は半分正解だった。レクタリアは自分がダメージを与えたことは覚えていた。


 だからこそ、ここまで自分をコケにしたリュウを、徹底的にいたぶろうとあえて腹に土の塊を撃つと言う選択肢を取った。


「さぁて、もうこれで最期。これ以上苦しめると可哀想だけどぉ、あなたは許さないからもっと苦しめてから殺すことにするね〜!!」


 そして、レクタリアは右の手に火炎球を生み出して、それが心臓を焼くさまを想像して勝負を決めようと手をかざす。これで、リュウの戦いは……


「……違うな」


「は?」


 レクタリアがとどめを刺そうとした間際、リュウはダメージを受けた腹部を抱えながら、あくまで冷静に言葉を返す。


「俺『たち』は、この時を待っていたんだ」


 リュウがそう言うと、レクタリアも気付かないうちに、ここに近づいてくる足音が、彼女の背後をとって、リュウの決着を知らせようとしていた。

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