第7話 一矢報いるために
「とりあえず、俺が瞑想によって魔力を供給出来て、更にチート能力の影響で四つの属性の魔法に対応した。そこまでは分かった」
「はいっ! その通りです!」
自分の状況を整理して、リュウは自分の出来る事と可能性を探っていく。なぜこの場所でそれを考えるのかと言うと、その理由は少し前のセーアとのこんな会話からだった。
――
「えっ、レクちゃんに仕返しがしたい?」
それが、アユ雑炊とリュウの魔法の件が終わってすぐ、セーアに告げた言葉だった。
「あぁ、あいつは転生者を、自分が奪ったチートでいたぶって遊んでいる。今後もそう言った行いをするというのなら、転生者としては一矢報いてやりたくなったんだ」
リュウは最初。突然戦闘を仕掛けられて、突然チート能力を奪われて、その態度に血が上って彼女がまき散らした剣を引き抜いて反撃を起こした。だが、それらは全てレクタリアの手の中であり、完全に踊らされる形で敗北を喫している。
「こうしてセーアと出会って、エディミアの話を聞いていた時、その一連の行動は仕方のないものだと思っていた。だが、ここまでゆっくりと考えていた時、レクタリアの行動に俺は少し腹が立ってきたんだ。転生者の人生を、その優位性でいたずらに翻弄していいわけがない」
「っ………」
リュウのそんな考えに、セーアは眉をひそめた。それは、同じエディミアであり種族馴染みのあるレクタリアが、リュウたち転生者の恨みを買っている事への葛藤。
そして最も重要な理由は、自分がリュウと同じ考えを持っているという自己矛盾への痛切な気持ちからだった。
「セーア。これは俺がやろうとしている事だ。仲の良いレクタリアと俺が戦う事に、考える事は多いだろう。だからここからは……」
リュウは、セーアの考えをこれまでの彼女の会話から推測して、この話についてはセーアを突き放そうと考えた。同族がどのような結果であれ、悪として振る舞う姿を見せたくはない。そんなリュウなりの配慮が示されている。しかしリュウがそう言ってセーアを突き放すより先に、セーアはリュウの手を取って首を横に振った。
「いいえ。そのお話し、私にも聞かせてください」
――
こういった話を経て、セーアはリュウの側で彼の話を聞いているのだ。そして彼女は、興味と少しの決意と共に、リュウの分析の手伝いをしている。
「さて、あとは魔法の使用だな。基本的な事を聞いてもいいか?」
「はい、なんでも」
「チート能力を得ていた時、俺はイメージだけで魔法を使っていたんだが、それは正しいのか?」
それは、能力の実験でリュウが魔法を使っていた時の感覚から来る疑問だった。あの時はイメージに応じて魔力が変換されて、それが属性として攻撃に変わっていた。そしてリュウは、セーアが水の魔法で食器を洗っていた光景を思い出した。
「はい。それはこの世界の魔法の使い方として正しいです。水が流れる事や石が作られる事など、必要な魔力とイメージ力があれば、魔法はその通りに使えます」
「わかった。それなら……火炎魔法」
セーアの肯定を確認したリュウは、あの時と同じように魔法の発動をイメージする。火炎球、燃え盛る日が向こうに飛んでいくイメージ、それらを明瞭に描いて、魔力がそのイメージと結合して……
ポシュッ……!
「……ん?」
指先から、米粒ほどの炎が現れて、それが放物線を描いて地面に落ちる。その小さな魔法は、地面の温度にすら耐えられずにその場で燃えカスになり、ここにきて希望を見出していたリュウの魔法は、早々に前途多難を極めた。
「あ、あはは……やっぱりそんな都合のいい話はありません、よね」
何か特別な力があるのではないかと淡い期待をしていたセーアは、あまりにもむなしいその光景に、リュウを慰めようとしたが、当の本人の表情は少し違っていた。
「……ふむ。なかなか興味深いな」
「あ、あの……リュウさん?」
「あぁ、すまない。実は本当に魔法が使えるようになったことに驚いていたんだ。俺としては何も出来ないというのが前提だったからな」
リュウの頭の中は、魔法の無い世界が前提である。チートによって失われた魔法が、自然魔法という力を経て再び使えるようになったというのは、彼にとっては「実り」という感覚だったのだ。
「ですが……この程度じゃ、チートスキルを持ったレクちゃんにはさすがに……」
「そうだな。これだけでは使いようもないだろう。だが……土魔法」
次にリュウは、自分の中の土を扱うイメージを膨らませて、それを起動させる。
今度はリュウの手のひらに、河原の砂利のようなものが生成されて、掬い上げた砂のように手のひらに溜まっていた。
「わっ! 土属性も!?」
「いいな。どうやら全属性が使えるというのは本当らしい」
「そうですね。一つ一つの力は生活にも困るレベルですけど、確かにそれぞれの属性が正確に使用できています」
「それなら……」
属性の魔法が使えるようになった事を確認したリュウは、少しよろけつつも立ち上がり、その場で手をかざして、再び魔法の発動を行う。だが今度のそれは、さっきまでと一つ違うところがあった。
「火炎魔法」
「火炎魔法、火炎魔法、火炎魔法、火炎魔法、火炎魔法、火炎魔法、火炎魔法、火炎魔法、火炎魔法、火炎魔法…………」
リュウは全く同じトーンで、淡々と先ほどの米粒のような火炎を連発していく。それらは次々と地面に零れ落ちて、多少の距離は出るものの一メートルも飛ばずに地面に落ちる事を繰り返す。セーアは、機械のように火炎魔法を連発するリュウに、苦い顔をして質問した。
「あ、あのぅ……何をやってるんですか?」
「ん? あぁ、この小さい魔法がどれだけ発動できるのか試していたんだ。無限の反対は有限。今の俺には魔力の限度があるはずだ。それならこの魔法がどのくらい撃てるのか知っておきたい」
「あぁ…………なるほど」
気でも触れたのかと思ったセーアは、思ったより冷静な理由に力が抜けた。だが、それから一時間以上リュウが火炎魔法を連発していた事で、さっきの心配とは別の理由で彼の事が心配になった。
「……ふむ、この威力しか出せない代わりに発動の回数は相当稼げるみたいだな」
「そう……ですかね、あはは」
一時間、黙々とうち続けたリュウは、それでも魔力が尽きる感覚が無いことをそう結論づけた。
一方その虚無な時間に付き合わされていたセーアは、自分のことでもないのに何処か疲弊したような様子だった。そして、リュウはセーアへの質問の時間を始める。
「いくつか質問をしたい。セーア、君は水魔法で限度と言うものを感じたことは?」
「あ、私ですか? そうですね、お皿洗いで水魔法を使うことはあるんですけど、魔力供給なしだと一日に二回くらいで使い尽くしてしまいそうです」
セーアの実感から、リュウは魔力の量を比較検討する、以前セーアが食器を洗うときに使っていた水の量としては、バケツ一杯分ほど。それならセーアの水魔法で一度に使える量はバケツ二杯分だ。
「この量というのは人によって差があるのか?」
「ありますよ。私は……少ない方だと思います。あと、レクちゃんなんですけど、レクちゃんは風属性で、しかも私よりもいっぱい魔力を使うことが出来ます」
風属性。リュウはその一言ですぐに納得した。
レクタリアが初対面の時に空を浮いていたのは、彼女自身が持つ風属性の魔法。そこに属性剣を生み出す剣製が加わり、あのような自在な戦闘が出来るようになっていた。
「それなら次の質問だ。エディミアはチート能力を奪い、それを使うことが出来る。では、奪ったチート能力は複数使うことが出来るのか?」