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第4話 チートライフ、終了

 夢だ。


 走馬灯か?


 わからない。


 自分は何を見ているんだ?


「……う」


 ようやく目に光を感じ始めて、リュウは自分がまだ生きていることを実感した。しかし、左脇腹はひどく痛み、呼吸をすると身体の何処かがズキズキとする。


 その痛みの中で目を開けて、自分が今何処にいるのかを確認する。


 視界に広がったのは、見覚えのない天幕だった。目の粗い麻布か何かの天井。顔は動かせないが、周囲から草木の匂いが感じられる辺り、まだ植物のある場所にいるのだろう。


「〜〜♪」


 自分の状況を分析していたリュウの耳に、不意に女性の鼻歌らしきものが聞こえてくる。陽気に歌っているその人物は、まだこちらが目覚めていることには気づいていないようで、人目も憚らずに歌っている。しかも、かなり美しい歌声だった。


「……ぐぅっ!!」


 鼻歌に聞き惚れて、浅く呼吸をしようとした時、身体の内側からの強い痛みでつい唸りを上げてしまう。するとそんなリュウの状態に気が付いたのか、鼻歌は止んでしまい、今度はタッタッとこちらに駆け寄る足音が聞こえていた。


「あっ! 目を覚まされましたか?」


「きみ、は……」


「ああっ、ちょっと待ってください! 包帯を取り替えますから。それに今山菜とお米と卵でゾウスイ?を作っていますので……」


 そう言って一瞬リュウから離れる少女。だがリュウは、顔を近づけた彼女のある部分に注目していた。




首から胸にかけてのラインにあった、太陽と果樹の刻印。




 それを目にしたリュウは、彼女の優しさに対して急に不信感が湧いてきた。


 自分を襲ったあの女、レクタリア。彼女の足首にもあった、同じ模様の刻印。老人が気を付けろと言った例のエディミアが、その刻印を持つ人間を指すのなら、こうして優しくしようとしている彼女も、何か策を考えているのではないか。


「おまたせしました〜、包帯を取りか……うわあっ!!」


 彼女が意気揚々とリュウに近づき、声をかけようとした瞬間に、リュウの視線の外で派手な物音と彼女の叫びが聞こえてきた。


「あいたた……すみませぇん、ちょっと転んじゃって……直ぐに介抱いたしますね〜」


 さっきまでの陽気な声から一転、彼女は間の抜けた声を発してリュウの元まで近寄ってきた。そして、彼女の手助けで上体を起こしたリュウが最初に見たのは、鍋や皿などの食器が派手に散らかっている惨状だった。




「これで、よしっ!」


「ありがとう。助かったよ」


「いえいえ〜、困った時はお互い様ですから」


 包帯の交換を済ませて、リュウは改めて彼女を眺める。


 栗色のロングヘアに、パッチリとしたオレンジの瞳、そして、少し前の空いた緑色のシャツと、その胸元から覗く、例の刻印。


「……助けてもらったついでに、一つ聞いてもいいか?」


 再び彼女の胸元の刻印に目を遣り、リュウはおずおずと彼女に質問しようとする。すると彼女は、リュウの質問の意図を読んだかのように、まっすぐにリュウを見つめた。


「……あなたは、転生者さんですよね? そして、レクちゃんとか、シェーちゃんとか、誰かに襲われたあと……なんですよね?」


「知っていたのか?」


 質問を先回りしたかのように答えを返す彼女。そして彼女は、自分の刻印に手を当てて、少し寂しげな表情を浮かべて、リュウに打ち明ける。


「私も、エディミアですから。ほら、この耳も」


 そう言って、髪をかき上げる。そこには、レクタリア程ではないが、人間のそれとは違う三角の耳が備わっていた。


「自己紹介、していませんでしたね。私はセーア。この世界の種族の一つ、エディミアです」


「俺は、トライ・リュウだ。君の言う通り転生者だ」


 お互いに自己紹介をした所で、セーアは火にかけていた鍋をいそいそと準備して、ひっくり返っていた幾つかの食器を水の魔法で綺麗に洗い流して、鍋の中の食事を掬ってからリュウに分けてあげた。


「はい、他の転生者さんから教えていただいた山菜のゾウスイです!」


「あ、ありがとう……」


 リュウは幾つかのの疑念を感じつつ、彼女の作った雑炊を受け取った。一つは食器を洗う時に使った水魔法の水の味、一つはさっきまで地面に落ちていた食器であること、そして最後の一つは……


「……セーアは、どうして俺を助けたんだ?」


「えっ?」


「君も、レクタリアと同じエディミアなんだろう? そして俺が転生者だと知っていた。それなら……」


 リュウの言葉に、やはり寂しげな顔を浮かべるセーア。


「そう、ですね……そう思われるのも無理はないです」


 そう言って、セーアはリュウが持っていた雑炊を見る。その疑念が、リュウの食べる動きを邪魔していると考えたセーアは、軽く頷いてから真剣な眼差しをリュウに向けた。


「分かりました。私から話せることはあなたにお伝えします。なので、そう警戒せずに、ゾウスイを召し上がっていただけると幸いです」


 セーアの真っ直ぐな視線。さすがにこれ以上疑っては、良くないと感じたリュウは、湯気の中に草木の様々な香りが混ざる雑炊を木のスプーンで口に運んだ。


「…………」


「ど、どうですか……?」


「…………どうも何も、草を噛んでいるようだ」




 味の感想はさておいて、とにかく食事を腹に流し込んだリュウに、セーアはお茶を一つ差し出した。


「あの、お口直しに……どうぞ」


「あ、あぁ……」


 リュウにお茶を差し出すセーアの顔は、悔しさとも悲しさとも取れる複雑な表情を浮かべており、リュウは自分の言葉選びをもう少し考えようと心に刻んだ。


「こほん……さて、約束通りこの世界の一種族であるエディミアについてのお話ですね。リュウさんは何処まで知っていますか?」


「知っていると言うとわからないが、転生者が得たチート能力を奪う力があり、それを行使することができると言うのは、レクタリアとの戦いで学んだ」


「すごいですね。レクちゃんとの戦いでそこまで見極めるなんて」


 リュウがそこまで説明すると、セーアは目を輝かせてリュウを見る。セーアにとって、その行動は評価するべきものなのだろう。


「そうですね。お察しの通り、私たち『エディミア』は、こうした人間ならざる耳を持ち、転生者の能力を奪う事が出来る種族です」



――元々、このエメラクサスは転生者によって強大な魔王を倒すと言う事を繰り返していた世界です。しかし、転生者が人間ならざる能力を使って魔王を倒すと、その転生者は自分の能力でこの世界を支配し始める。そうして結果的に、転生者は次の魔王として次の転生者に倒される。こんな歴史を繰り返していました。


 その中で、私たちの始祖であるこの世界の英雄『エデン』が、魔王を倒した転生者をその場で殺して、次の魔王の誕生を阻止する計画を実行します。


 しかし、転生者が殺されたら、次の転生者が送り込まれる事になっており、何度殺しても転生者はやってきて、結果としてこの世界を支配しようとする。そこでエデンはある計画を考えつきました。


 それは「能力を奪う能力を持つものから、その能力を奪う」と言う計画でした。そしてそれは五百年前に実現し、エデンは最初の簒奪者になりました。


 そして、それをこの世界が平和になるための方法だと定めたエデンは、自分が奪った能力を「遺伝子を通じて付与する」という計画を、自身が奪ったチート能力から編み出して、エデンの能力を持った女の子達、【エディミア】と言う種族が誕生しました。――




「……だから、レクちゃんや私には、転生者の能力を奪う力が種族的に備わっているんです。このお話は、エディミア族なら誰もが覚えさせられる事なんです」


「深い、歴史的な話なんだな」


 遠い目をして、エディミアと言う存在について語るセーアに、リュウは多くを語らなかった。そしてセーアは、さらに自分についての話を始める。


「それで、私も本当はあなたの能力を奪いに来たんですけど……まぁ、ご覧の通り私は鈍臭くて、いつも出遅れて他のエディミアに先を越されちゃうんです。だから私は、無能力のエディミアになります」


「無能力のエディミア……」


 気さくに話すセーアの言葉に、リュウはこれまでの警戒心を少し解いて、彼女の言葉を思案していた。それは、彼女に対する意識の訂正と、エディミアと言う存在に関する情報の整理の時間だった。だが、その中でも一つ、セーアの言葉で引っかかったことがあった。


「……やっぱり、君も奪いに来たんだな?」


「……あっ!」

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