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第14話 転生者の都市

「……あっ、見えてきました。ナラシアの城壁です」


 シェルカについての話を進めてから更に2時間。かなりの距離を徒歩で移動した先に見えたのは、周囲を高い城壁で囲んだ都市だった。小高い丘を登り切って、見下ろした先に広がる城塞都市。リュウはそんな光景に、歴史の教科書をみているような錯覚を覚えた。


「丘に登って見ているわけだが、中の様子はあまり見えないな」

「そうですね。能力を無くした転生者が集う場所であり、以前お話ししたパブロ連合国が近くに構えていると言うので、いつ侵攻されるのかが分からないと言うのも一つの理由かと」


 転生者と現地の人間との確執。リュウは何度かセーアから聞いていたその話を思い出して、あの城壁が単なる見かけの風情ではないことを理解する。そして、ナラシアが見えてきたことで、三人の歩調は足早になり、ここまでの移動距離も気にかけず、外壁のそびえる都市へ進んでいった。




 かくしてリュウ達は緑のレンガ屋根が立ち並ぶ、転生者のための城塞都市【ナラシア】の城門までたどり着いた。


 丘から眺めていた時からここまでおよそ30分。さすがに歩き通しで疲れ始めていた一行は、城門の検閲官と会話を交わす。


「おや。君のその服装はエメラクサスのものじゃないね」

「はい。俺も転生者です」

「そうかそうか。大変だっただろう、ここなら多くの転生者と交流ができる筈だ。君と話が合う者もいるかも知れないな」


 リュウの方は、転生者であることを知った事ですぐに打ち解けて、ここまで歩いてきたことを話したことで、完全に仲間と認められた。だが、別の場所で質疑を受けていたセーアとレクタリアの様子はリュウには分からない。


 そもそも、転生者達がここに来る理由の一つは「エディミアに能力を奪われたから」である。このナラシアの中に、レクタリアがチート能力を奪った転生者もいるかもしれない、そんな一抹の不安がリュウの頭をよぎった。


「あっ、リュウさん! 私たちも無事に入れましたよ〜」


 だが、その疑問の答えはあっけなく明かされた。ナラシア城門から市街地に入っていったリュウは、少しの間二人を待ったが、リュウの入国から程なくして、セーアもレクタリアもすんなりとナラシアの中に入ることができた。


「エディミアでも自由に入れるんだな」

「はい。私は時々買い出しに来ることがありますし、ナラシアはエディミアもよく行き交っていますから」

「ま、まぁ? アタシもここの事はよく知ってるし? セーアちゃんからよく聞かされてたし?」


 疑問形ばかりを浮かべて話すレクタリアに、リュウは野暮なことは聞くまいと溜息を一つ付いた。  


「それはよかった。それでまずは……」


 二人の嬉しそうな様子を見るのも程々に、リュウはこの都市の様子を見て回りたいと提案しようとした。だがその時、多くの人が行き交う城門前で、リュウは突然、自分の左手を握られる感触を受けた。


ぎゅっ……


「……セーア?」

「リュウさん。私はここに通いなれていますけど、リュウさんは初めてです。このまま自由に歩き回ったら迷子になる可能性もあるので、私がこうして町案内をいたします!」


 そう言って、セーアはリュウの手をしっかりと握って、自信ありげな眼差しを向ける。


 リュウの左手に伝わるセーアの体温。水魔法を使うが故の、少しだけひんやりとする手の温度に、リュウはなすがままにされていた。だが、今度はそんなリュウの右手に、少し暖かい人の手の感触が伝わってきた。


ぎゅっ……


「ちょっと。セーアちゃん、それならアタシだってナラシアは慣れてないんだから、アタシもセーアちゃんに案内される権利があると思う〜」


 不満そうな、しかし何処かでこの状態を楽しんでいるかのようなレクタリアに、リュウはやれやれと呆れて言葉を返す。


「だったらなんで俺の手を握るんだ? それならいつものようにセーアの手を取ればいいだろう?」


 そう言ってレクタリアとセーアの手を繋ごうとするが、レクタリアはすぐにその手を引いて、いたずらな笑顔でリュウを見つめる。


「そういう細かいこと気にするんだぁ? リュウってめんどくさいねー」

「俺からすれば、お前の方が……」


 そんな事を言い合っていた時、リュウは周囲を歩く数人からの視線に気がつく。敵意というわけではないが、少なくともリュウとセーア、レクタリアの集団に目を向けている感覚。


 そして、そのうちの一人の青年がツカツカと歩いてきて、リュウに声を掛ける。


「やぁ。君も転生者だね? 俺はタケルって言うんだ」

「タケル……と言うことは、日本の転生者なのか?」


 堂々とその名前を語る青年に、リュウは単刀直入に尋ねる。そんな意思の疎通がうまくいったのか、タケルは満面の笑みでリュウの両肩をガシッと掴んだ。


「やっぱりそうだ! その出で立ちから日本の学生だと思ってたけれど、いやぁ俺の予想もまだまだ捨てたものじゃ無いよ!」


 そう言うと、タケルは他人の肩であると考えてないかのように、リュウの肩をバンバンと叩いて喜びを分かち合おうとする。


「リュウさん。お知り合いですか?」

「そうだな……同じ国から転生してきた同郷、と言うのが正しいだろう。まぁ、彼は青年に見えるから俺は年下になるはずだがな」


 リュウが自分の年齢の大まかな予測をした時、セーアとレクタリアはピキッ……と言う音が聞こえてきそうなほど固まって唖然としていた。


「……え、リュウさん。そんなに若いんですか?」

「アタシ……リュウは程々の中年かと思ってた」


「そもそも20歳ですら無いんだが?」


 リュウの告白に、セーアとレクタリアは各々のやり場のない感情を視線に込めてリュウを見つめた。


 セーアについては、戦いの機転やあけすけな物言いから、年下だと見られていたゆえの無礼だと思い、彼女自身も「さん付け」で呼ぶようにしていたと言う配慮が。


 レクタリアについては、知略で自分を負かせて、セーアと比べた時に、はるかに年上だと思っていたその勘違いが。


 二人のそんな感情がリュウの一言で大きく揺らいだ。


「だっはっはっは!! 確かに俺達日本人って、落ち着きすぎると老けて見えるよな! そりゃエディミアの二人が勘違いするのも仕方がないって」


 三人のやりとりを見ていたタケルが腹を抱えて笑いだして、リュウの見た目の年齢に関する話を笑い飛ばしていった。




「さて、どうやらそっちの栗毛のエディミアさんは、ナラシアには通い慣れてるみたいだな」

「はい。ですので私がリュウさんとレクちゃんを案内しようかと」


 タケルを含めた四人は、都市の街道を歩きながらナラシアが初めてであるリュウの身の振りについて話す。


「セーアちゃん、頼りになるぅ」

「助かるよ、セーア」

「えへへー」


 二人の賞賛に、ニッコリと笑顔を返したセーアに対して、今度はタケルの方から提案をしてくる。


「そしたらさ。この大通りを中央に進んだ広場があるんだけど、その広場の一角に俺たちが行き来してる『転生者ギルド』ってのがあるんだ」


「転生者ギルド?」


 リュウが尋ねると、タケルは自分たちが歩いている大通りの向こう側を指さす。


「この主要な大通りは広場に繋がっていて、広場周辺は武器や防具、そして暮らしに役立つ雑貨なんかが売られてる。その中に『冒険者』って言う、魔獣や魔物狩りをする仕事があるんだ」


「そう……なのか」


 タケルの説明を聞いていたリュウは、少しぼんやりとしつつも、その説明を理解して、少しばかりの興味をそそられた。


「そのエディミアさんの案内が済んで、暇ができたらギルドに来てくれ。俺たちギルドが歓迎してやるからさ!」

「そうだな。時間を作って立ち寄らせてもらうよ」


 そこまで伝えたタケルは、安心したように三人から離れて、自分が指さした大通りの奥へ、手を振りながら去っていった。


「リュウさん。ギルドって何ですか?」


 セーアがそう言って、リュウの顔を覗き込む。リュウはと言うと、そんな存在の事を何処かで聞いたことがあるような錯覚を覚えて、去っていくタケルとその大通りを眺めて一言だけ呟いた。





――ふたつ。この世界には冒険者という便利屋が……――




「……さて、なんだったかな」

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