存在しない人間(前編)
「白いパンと透明な存在」
Tは東京のガード下で暮らしていた。
段ボールの下にブルーシート、雨が降るたびに場所を移す生活。もう10年目だった。
マイナンバー制度が本格稼働し、顔・DNA・ワクチン履歴まですべてひとつのカードに統合される時期には、
Tはすでに“どこにもいない人間”になっていた。
「登録?あんなもん、持ってねえ。俺は自由だ」
自嘲混じりの笑いを浮かべて、彼はそう言った。
行政も、病院も、家族も彼を見放していたが、その代わり国家も彼を追わなかった。
——少なくとも、あの日までは。
その日、夜の炊き出しはやけに整っていた。
今まで見たこともない綺麗なワゴン車が来て、テーブルの上には温かいスープと、白いパン。
スタッフは全員、無言で、ゴム手袋と防護マスクをしていた。
「今日は特別支援です。どうぞ召し上がってください」
そう言った女性の目は、Tを見ていなかった。
パンは妙に柔らかく、スープは薬品のような香りがした。
だが腹を満たせるものなら、彼らにとっては何でもいい。
Tの仲間の一人、通称オヤジが、パンを食べて10分後、倒れた。
スタッフたちは慌てずに動いた。
ワゴンの後部が開き、担架が出てきて、オヤジの体は静かに吸い込まれた。
誰も、騒がなかった。
ただ、全員が「気づかないふり」をした。
それから2時間後。
炊き出しのあった場所の柱に、小さなステッカーが貼られていた。
「非登録対象者 特定完了:12名」
それは誰かが気まぐれに撮った写真にだけ、映っていた。
Tはその夜、スープを飲まずに眠った。
夢の中で、誰かに背中をスキャンされているような気がして、何度も目が覚めた。
次の朝、仲間の姿は、また一人、消えていた。
注文道理だが終盤でAIが変な感じになってきているがどんな形で終わるのか・・・?
注文出したほうも謎である。
10話ぐらいでうやむやで終わりかな・・・?