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不思議図書館  作者: A-10
8/25

8・“ 目 ” 撃者


・  ・  ・  




「  なんてこった……  」


多くの飛竜がまとまった地点にいたため、駆け付けたシャインバーグは軽く放心する。

沢山のワイバーンが死んでしまったことに些かショックではあったが、それと同時に同僚が怪しい人物達と共に姿を消したのだ。



「 ………………。 」


彼女は厳しい顔になると、呟いた。

「 …やはり、異界人は異界人なのか? …買い被り過ぎていたのだろうか…… 」


今回の一件についてウッドに疑いの目を向けるが、

「 いや、まだ証拠が足らない…。 」

と、決めつけずにいた。


目撃したのがシャインバーグで良かった。

他の騎士…特に名家中の名家の出の者だった場合、問答無用で投獄されていただろう……。

この世界にとって、異界人とは『 そういう存在 』なのである。


「 さて…。しかし巻き込まれた可能性も否めないしな。…捜索の手配でもしてやるか。……まぁ…忘れなければ! 」


シャインバーグは誰にもこのことを告げずに、飛竜の擁護と被害の対応、そして救護を優先させた。



その後、早くに原因の究明を仰せつかった為、ウッドからも話を聞くべく…苦手な場所へと歩を進める。

部下に手配させる訳にはいかない為、自ら統括部所へと向かう。





・ ・ ・




兵士や侍従などが手続きの為に常に多くいる、大きく開けた空間。


様々な声が重なり、ザワザワしていた。

そんな中、

「 ミカエラ 」と声をかけられ、

「 なんだ? 」と振り返る。


細いながらもしっかりとした体躯の青年が、

「 こんな処に来るとは珍しいな。 」

軽く笑みをつくり、近づいて来た。


騎士服ではなくパリッとしたローブを身にまとっていたが、武芸に長けている者の佇まいである。


城の中にある役所のような大広間。

ここで様々な手続き等を行う。

ある意味、役所というのは間違いではないが、調査部隊の隊長が来ることは殆ど無い場所である。


ミカエラは、しまった! という表情になり、

( 気を抜き過ぎたぁー…声で気づくべきだったぁー…! )

手の甲を額に当て、天を仰いだ。


会いたくない人物だったのである。


「 えー…? あ、あぁ…そう…かの? 」

しどろもどろになりながら、ハハハ…と笑って誤魔化す彼女だったが、

「 フッ。 分かり易いなぁ 」

隠し事をしているのがバレていた。

恐らく誰でも見抜けるだろう。


( 手続き終わった後で良かった… )

胸を撫で下ろして直ぐ、青年が手に持っている書類が目にとまり、よせばいいのに「 それは? 」と、顎をしゃくって尋ねてしまった。


「 ん? これ? あぁ…そうだなぁ、君が何を隠しているのかを教えてくれたら…だな 」


ミカエラは顔が歪む。


「 だったら、いいや 」、帰ろうとしたが、

「 ……異界人が逃げ出したんだよ 」

と、いとも簡単に口をわる。




彼女は直ぐに隊長の顔つきに変わった。


その顔を見た青年は、

「 ……どうした? 君には関係のない話だが? 」

優しい声と表情で話すが、淡々とした印象である。


しかし、全てを見透かしているかのように落ち着いた瞳と目が合い、

「 い、いや…なんでもない。 失礼する 」

これ以上ぼろが出る前にと退散しつつ、まだいろいろ訊かれるか? と少し警戒していた。


しかし…


「 あぁ。 呼び止めて悪かった 」

と、あっさり帰してくれた。


( まずいな……厄介な奴に会ってしまった。 直ぐに帰りゃあ良かったよ。 だが…逃げ出した異界人というのは…まさか… )


ウッド達が消えたあの光景が脳裏にうかんだ。





ミカエラが去ったあと、青年は手続きをする為に窓口へと向かった。


「 !! 」

受付にいた中年の男性は驚き、思わず立ち上がって挨拶をする。


「 ニ、ニヴァラ様! このような場所への御越し、恐縮に御座います! 如何様で御座いましょうか! 」

「 ……声が大きいよ。 」

と、顔をしかめる。


「 も、申し訳御座いませんっ!! 」

声が更に大きくなった…。


「 ……………。 」

やれやれ…と思いながらも、本題を切り出す。




「 先ほど、ミカエラ=シャインバーク調査部隊隊長がみえたと思うが、どういった用件であったのかが知りたい。 関係書類を至急、用意してくれ。 ……どの位かかるかな? 」


「 只今! 少々お待ちを! 」


受付の大声に顔を背け、返事をする。

「 …………うん。 」


額に汗かき、大きな声で部下に指示を出しながら、速足で動き、あっという間に関係書類を準備してきた。


その書類を受け取ると、自身が持ってきた書類と並べ、

「 ……予想通りか……。 つまらないな 」

その “ 目 ” にしっかりと映す。


【捜索届】…捜索対象:所属‐守護部隊 階級‐隊長 出身‐貴族〔 ウッドロゥ 〕家

      続柄-養子 氏-ウッドロゥ 名-ケリー

      最重要項目-異界人

      内容-(小型飛竜に対する緊急指揮の際に行方が不明。

         尚、別任務の可能性が有る為、捜索は守護部隊に一任する。)


ケリー=ウッドロゥの写真入りの捜索届とカレン=エドワーズと書かれた書類。

カレン=エドワーズの書類に添付されている写真は、カナタ達と共に姿を消した女性と……同じ顔だった。


(  ……しかし………  )


ニヴァラはフッと笑う。


(  これでは意味が無いだろう。慣れない事をするから……  )


ミカエラが提出した書類に不備があり、捜索届には赤い大判で『 記入漏れ 』、『 再提出』とあった。

(  情報を共有する為とはいえ、お役所仕事も考え物か…  )


受付の男性は直立不動のまま、汗を滝のように掻き、目だけでニヴァラの動向を伺っている。





それに気づき、

「 …あー、悪かったね。 ありがとう、直ぐに処理してくれ。 ついでにこの書類も頼むよ。 」

と、カレン=エドワーズの捜索願も一緒に差し出した。


受付の男性はハンカチで汗を拭くと、受け取り、書類を検める。


「 御預かり致します!

  …………?

 あの~御確認させて頂きますが、捜索願で宜しいのでありましょうか?

 ニヴァラ様の捺印も御座いませんので、一般の処理となってしまいますが…… 」


重要な部分の声が小さくなる。


そして、受付の男性はニヴァラの顔色を窺っていたが、

「 ああ、一般処理で構わないよ。 それじゃ、よろしく 」

と、ニヴァラは颯爽と去って行った。


「 ……………。 」


ニヴァラが去った後も、汗が止まらない受付の男性。


すると、?ーーーー…と唸りだした。






部下が心配して声を掛けると、


「 …本当に一般処理で構わないのだろうか…? ニヴァラ様が直々に手配された案件だぞ? しかも脱走した異界人の捜索なんて、直ぐに手配しなければならないことだ。 ……我々を試しておられるのだろうか? ……しかし…。 う~~~ん、分からん! 」


両手で頭を抱える。


「 主任! 他にも仕事が山積みなんですから、速くしてください。 窓口詰まってるじゃないですか 」


「 わかってるよ! 私は… “ 仕事は真面目に正確に速く、そして完璧な男 ” なのだ! ニヴァラ様のお言葉を守り、忖度そんたくせずに処理いたします! これは、一般処理だ! ……あぁ、いや、大丈夫かなぁ…い、いや、やっぱぁ…忖度ぅ…ではなくぅ…斟酌しんしゃくさせて頂きます!! 」


ハンカチで顔をワシャワシャ拭き、決死の顔になると、部下に指示を出した。


「  この書類を最優先で処理しろ! いかなる案件も後回しだ!!  」


カレン=エドワーズの書類とケリー=ウッドロゥの書類に最重要の印をダンダーン!と捺した。


誤ってニヴァラの書類ではない、シャインバーグ隊長が持って来たケリー=ウッドロゥの書類にも判を押してしまったが、そのまま一緒に処理され、早速ふたりの捜索が『 貴族権限きぞくけんげん 』で開始される。




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