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不思議図書館  作者: A-10
7/25

7・四人

急いで駆けつけると、空に相当数の小型飛竜が飛んでいた。


城下町にまで害獣が到来するケースは少なく、数えるほどだ。

騎士団の調査部隊が常に害獣の討伐、及び観察などを行い、人々の安全を守っている為、町まで来ないのだ。

ウッドは別部隊の隊長なので管轄が違う。


しかし今まさに、小型とはいえ竜族が大量に押し寄せて来たことは全く稀有けうで、初めてのことだった。

常に兵士が高い塔の上から360度見渡しているため、危険な飛竜が遠くを飛行している時点で普通であれば調査部隊が向かう。

鐘が鳴ったタイミングと、飛竜の大量出現。

ウッドは、現場へと向かいながら辺りを観察していた。



(  飛んで来たのではなく、突然現れたとしか思えない…。 その様なことが可能なのか? 飛竜に転移呪文が? …いや、聞いたことが無い。 不可能だ。  )



町中に肉食獣がうようよいるという状況は極めて危険なことである。

管轄外とはいえ、原因や痕跡こんせきが無いか気にしながら走る。

そうしている間にも、人々を次々に襲う飛竜。






赤銅せきどう黄土おうどの、色鮮やかな煉瓦れんがの街並み。

手入れの行き届いた樹木や花々。

キラキラ輝く噴水広場。



美しいそれらのものが、徐々に人間と飛竜の血で染まってゆく。

爽やかな風が流れ込んでいた家の中にも、蛇などに似た生臭い体臭と、何とも言えない生きた鉄の臭いのようなものが立ち込める。

この異様な空気も、恐怖心を更に強くしていく。


突然の事にさすがの騎士や兵士達ですら、惑っていたが、なんとか戦っていた。

だが、攻撃を繰り出しても空へと飛んで回避される為、疲労が溜まる。



人々の悲鳴。

飛竜の耳をつんざくようないななき。

兵士たちの戦う雄叫おたけび。



その全てが入り交じり、人々は混乱し、慌てふためいていた。

ウッドはそんな騒音の中へと飛び込んで行く。

そして直ぐさま飛竜駆除を開始する。


次から次へと確実に倒していく。

野生の生き物は、虫の息になった時が特に危険なのだ。

凶暴性が増す。

ウッドは声を張り上げて指示を出し、飛竜を倒していく。


「  重装備の者は下で迎え撃て! 軽装備の者は高い所から、迎撃されている飛竜に体重を乗せた一撃を与えろ! 弓兵は飛竜の翼の根本を狙え! 槍を所持している者は頭を攻撃しろ! いずれも高所から下へ向かって確実に当てるように! 上空への攻撃はするな!  」






彼の武器は普通の支給される騎士剣だが、斬撃剣術を得意とするウッドが使えば魔法剣にも匹敵する。

部下に指示を出しながら退治していくが、心中は穏やかではなかった。



(  なんなんだこの中2展開は! ダメだ! 俺はこういうのは苦手なんだよ!  )



ウッドはカッコつけながら戦っている。


実際はあまりカッコつけてはいないのだが、彼にはそう感じられた。

体が強制的に動いている間、本人の意識はハッキリとある。

この世界は、ケイダイにとって…厨二ちゅうに世界でしかなかった。



(  あぁ! 俺は中学2年生になるのが怖い!  )



全世界の中学2年生を敵に回すケイダイ。

そして彼はこの時22歳だが、学年は小学校6年生で止まっている為、訳が分からない状態になっていた……。


そんなことを考えながらも既に30匹もの飛竜を倒し、他の兵士達が返り血や体液で全身が汚れ、汗だくで呼吸が乱れていたにも関わらず、ウッドは軽い汚れ程度で済んでいる。



かれこれ飛竜退治が40分程経過した時だった。



「  ケリー!!  」



突然、自分を呼ぶ声がした。

怒声どせいの中でもよく通る、凛とした女性の声に反応し、そちらの方向を向く。






「 シャインバーグ隊長 」


調査部隊の騎士服に身を包んだ、大柄な女性が勢いよく登場した。


「 すまない、遅れた! 」


実はこの時、調査部隊の大部分は別任務で大規模な遠征調査へと向かい、他の調査部隊の兵士は、近隣の巡視じゅんしへとおもむいていた。

そもそも調査部隊の任務は城外での仕事がメインで、その調査内容を学者などが特別な施設で研究し、対応策や駆除方法、インフラ整備などを行う。

調査部隊の兵士は、専門的な知識と武力を有した精鋭せいえいそろっている。

そんな彼らが目的の場所まで移動している最中に、伝令が届き、隊長だけが急ぎ戻って来たのだ。


ウッドは、話をしようと声をだしたが、

「 シャ… 」

彼女の大きな声にさえぎられてしまう。


「  君の的確な指示のお陰で、なんとかなりそうだ。……しかし、クロフォード将軍がすわけだよ。飛竜への対処、兵の動かし方、完璧だ。ただ欲を言えば、民の避難を最優先し、飛竜の行動を観察すれば無駄に殺すこともなかっただろう…。いや、仕方のないことだ。このような事例聞いたことがないからな  」


マシンガンのように話すため、ウッドが話す隙が無い。


「 その… 」


後は専門家 (私) に任せてくれ!と、背丈ほどの大きさのある魔法銃を担ぎ直し、走って行ってしまった……。


嵐のように去る調査部隊隊長、シャインバーグ。






「 状況を……せつめ…い………。 」


ウッドは呆気あっけにとられると、

「 ……。話を何も聞かずに行ってしまうとは……。 参ったな…。 」

ポカンと彼女の後姿を見送る。


「  …害をなす飛竜を気にする…か。 いや生態系せいたいけい摂理せつりなどを考えておられるのか。 …俺もまだまだだな  」


しかし彼女がそこまで考えているかは、ナゾである。


はぁ…と、一息つきながら辺りを見回した。



すると、ビュウと一人の少年の姿が目に入る。

「 !! 」

高い場所にいたケイダイはそちらへ直ぐさま走って向かう。

「 まずいっ! 」

少年に飛竜が襲いかかるが、ビュウも少年も気づいていない。


ビュウは少年の手を握って走っている。

片手にはククリ刀を持ち、それで飛竜の攻撃をかわしていた。

後方からの飛竜の攻撃に、やっとビュウは気づいたが、

「 !!! 」

間に合わない!


キイィーーン…


その時、耳鳴りに似た音と共に空気の塊のような何かが、飛竜に襲い掛かった!


ゴアッ!!


体液と鮮血をき散らしながら、五体がバラバラに飛び散る。

ウッドが斬撃ざんげきで飛竜を倒したのだ。

高い所から飛び降りながらビュウ達のもとへと急いで近づく。


「 !! 」

飛び散った飛竜からカナタを庇っていた態勢から、攻撃が来た方角へ視線を移すと、ウッドがいることに気が付いたビュウは、驚きの声をあげる。


ウッドの斬撃が腕と顔を少しかすめ、斬り傷を一瞬で付けられながらもカナタの体に被さるようにした為、カナタの顔にビュウの顔から出た血の雫がかかってしまった。






「 あ !? 助けてくれたってことは、ケイダイの方か!? 」

「 ? 」

「 えっ……ケイダイ? 」

ディーは聞き覚えのある名前に、顔についた血を無意識に拭いながら首をかしげる。


「  大丈夫か! ビュウ!  」


ケイダイは声を張り上げながら自分に驚く。

「  あれ? 体が思い通りに動く  」

立ち止まって自分の手を見る。


しかし、飛竜は次から次へとビュウ達めがけて襲いかかっていく!


「 なぜ、ビュウ達ばかりを狙うんだ!? 」


町の人々も襲われていたが、明らかにビュウ達ばかり狙われていた。



「  ケイダイ! 必殺技やって! はやく!  」

「 何 !? 」

声のする方を見ると、思いもよらない人物がそこにはいた。



しかも、何故なぜかその人物は高い場所でポーズを決めてカッコつけている。


ケイダイは狼狽うろたえながら、

「 な…なんなんだそのポーズは! 馬鹿か! じゃなくて! お前、どうやって…… 」

斬撃を飛ばして飛竜を倒しつつも、尋ねる。





「 あんた、アタシをなめすぎ! アタシが黙って軟禁なんきんされてると思う? この時を待っていた! ほら、この本! 」


ビュウはククリ刀をもう一本抜き、出血した血液が片目に入り、視界が赤くボヤけながらも二刀使いで飛竜に応戦しながら、怒鳴った。

「  馬鹿野郎! カッコつけてる場合か! 自分は狙われねぇからって!  」


女は手に入れたモノを、ドヤっとばかりに見せつける。


カナタとケイダイは、

「  その本!  」

と、声がそろう。


重要な本に、自分以外の人間が反応したことに驚いた二人は顔を見合わせる。

「 !! 」

しかしケイダイはそれ以上に更に驚いた。


「 お前! 青山じゃないか! 」


「 ええっ!? なんで知ってるんですか? 」


「 話はあと! ここらにいるワイバーン(小型飛竜)を一気に倒して! 隙が出来たらツカサが転送の杖を使うから! 」


変なポーズは解除し、素早く無駄のない動きでこちらへと向かいながら指示をだす。


カナタは、

(  ツカサって……ケイダイって……じゃあ……  )

そして、本を手に持った女の顔を見る。


(  でも……全然似てないし…でも……あの変なポーズはカレンちゃんがよくしてた…  )

頭が混乱していた。

(  きっと違う…  )



「 分かった! いや、よく分からんが、やろう! 」

ケイダイは続ける。

「 中2っぽくて嫌だがやるしかないな! “ 風の契約、我が命により発動せん! ”  風陣剣! 」


ケイダイの左二の腕が光る。

騎士服で隠れているが、風の紋章が皮膚にきざまれていた。


風の円陣が辺り一帯の飛竜を粉々にして消滅させていく。


カナタの頭の中は混乱していたが、技の迫力に驚きの声をあげた。

「 すごっ! 」

気を取られていたカナタの腕をツカサが引っ張り、カレン、ケイダイも一時的に空いた円に入る。


そしてツカサが杖をかかげ、呪文を唱えると、4人は姿を消した。




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