水色の裸体
ちきゅうと書いてテラと読むって子供の頃に教わりました。
羅針盤の針のように水色の裸体を指し示すキャシークララなど意に介さずに、長い髪をかき上げた水色の形のよい胸がぷるんと揺れた。
「今回の転移では童貞はあなたひとりだけみたい。
過去の二回の転移でも、一緒に転移したのはみんな童貞だった。
責任が伴うと童貞ってとたんに尻込みしてしまう」
「わかります」
責任を考えてセックスするやつなんて下級市民にはいない。
「非童貞のやつらはどこに転移したんでしょう?」
「さあ」
きっとそれぞれが思い描く異世界に転移したんだろう。そう思うことにした。
魔法陣から弾かれて消滅してしまったなどとは、けっして考えないようにした。
水色の裸体から視線を外し、周囲を観察してみた。
砂浜はさほど広くはなく、どうやらここは島ようだ。
見渡す限り水平線が広がっていて、空にはぶ厚い灰色の雲がたれこめていた。
一見冬の空模様に見えるが、温度は暑くも寒くもなく、素っ裸でも問題なく過ごせていた。
世界にはこの島と海しかないような孤立感、ここはまさに絶海の孤島だ。
「見て」
と言われたので水色のカラダを見た。
大きすぎず小さすぎない理想的な胸。
視線は胸からどんどん下がっていっておへそから恥丘へ。そして前陰唇交連。転移時に頭髪以外は排除されたためツルツルだった。陰裂から陰核亀頭の一部が目視できた。
見てと言うだけあって適度に引き締まったたおやかなカラダだ。キャシークララが立ち上がり、百億の子供たちが再び出せと騒ぎ始めた。
「違う、丘の上」
キャシークララを無視して水色は指さした。
恥丘の緑の丘……もとい、孤島の緑の丘の上に小さな白い家が見えた。
家の横には大きな木が一本生えていて、家の周りは芝生になっていた。
「人が、いるんでしょうか?」
「行ってみる」
ふたりでなだらかな丘を登っていった。
木造建ての白い家の中に人はいなかった。
バスとトイレとキッチンが付いたワンルームの家だった。
部屋の真ん中にはダブルベッドが置いてあった。
「なんでしょうこれ? まるで誰かが用意したみたいですね」
「いつもこんな感じ」
「心当たりがありますか?」
「あると言えばあるし、ないと言えばない」
ベッドはクッションが剥き出しのままで、シーツはなかった。
カーテンでもあれば衣服代わりにできたんだろうけど、それもなかった。
暗にハダカで過ごせと言われているみたいだった。
とりあえずベッドに腰かけて一息ついた。
「どこの学校?」
水色が話しかけてきた。
「商業高等学園です」
「ああ、下級市民が通う高校ね」
「君は西南学園ですよね。上級市民たちが通う進学校の」
「いちおう」
二つの学校には全く接点がない。西南学園が銀河の中心なら、商業高等学園は銀河の外周部くらい離れている。
本来なら一生言葉を交わすことのない相手だ。
「僕と話して平気ですか?」
「西南といっても、私はEクラスで下級市民と呼ばれていた」
「西南のスクールカーストですか。厳しい世界なんでしょうね」
「ええ、成績トップの者が絶対者で、何人たりとも逆らえない」
真の下級市民の僕には全く想像もつかない。
下級市民が簡単に近づける相手じゃない。
上級市民は支配者階級、他人を従わせることに関しては超一流の人種だ。
「帰還の方法、わかりますか?」
「手っ取り早くもとの世界に帰りたければ、セックスをすればいい」
「前回の転移でも?」
「童貞とセックスしたら帰れた」
「それでよかったんですか?」
「良し悪しの問題じゃない。他に方法がないからそうする。準備が出来たら言って」
「準備と言われても、お互い何も知りませんし」
「知らないなら知ればいい。質問どうぞ」
と言うので水色にいろいろ質問をしてみた。
「何か好きなものはありますか?」
「漠然としすぎて答えられない。的を絞って」
「好きな科目は?」
「勉強は義務だからしてる。好きだからしているわけじゃない」
確かに、暗記に計算にレポート、好きになる理由が見当たらない。
「好きな食べ物は?」
「好き嫌いは無い。出された食事はすべて摂るようにしてる」
「好きな作家は?」
「本は課題や資料等必要に応じて読む」
「絵は好き?」
「私は美術部じゃない」
「好きなアニメとかラノベは?」
「西南にはオタクと呼ばれる人たちが一定数いるけれど特に交流はない」
「見たことは?」
「ある。だから存在自体は知ってる。ひらひらフリフリのドレスで戦ったり、ちびっこ大探偵が活躍したり、どこの宗教かと目を疑った」
「あ、あれは特定の信者を対象としたバイブル的な著作物でしょうね……」
「ファンタジーを語って信者からお金を集める手法はどこの宗教も大差ないと感じた」
「ま、まあ、形態を変えた宗教活動と言えなくもないですよね。お布施とか平気で言ってるわけだし……」
「信教の自由だからどうこう言うつもりはない。好きにすればって感じ」
上級市民との共通点が無さすぎる。下級市民は早くもギブアップぎみだ。
ちなみに下級市民はひらひらフリルのドレスを着て戦う女の子もちびっこ大探偵も大好きだ。本棚には肌色たっぷりのオカズ用のフィギュアが飾ってあり、ときどき手に取って愛でている。
「恋をしたことはありますか?」
「童貞とセックスしたことを咎めてるの?」
「す、すみません。初体験はいつ?」
「中学二年生で異世界転移に巻き込まれた時、嫌も応もなかった」
「ニートやひきこもりについてどう思いますか?」
「その人の人生なんだし好きにすればって感じ」
「不倫は?」
「前述の通り」
「将来何になりたい?」
「いずれ成績に応じた職に就く」
「セックスは好き?」
「面倒なことはさっさと終わらせたい」
「僕はこういうのには不慣れなものでして、できれば君の方から動いて頂くことはできませんか?」
「私はあなたに欲情していない」
ああ。
こちらが一方的に欲情しているだけであって、水色は何も感じてないんだ。
そんなセックスを水色が好きになるわけがないのは下級市民の僕にだって分かった。
上級市民に対して敬語は必須です。