第六話
「うどん美味いか?」
「うん。」
時はお昼休み。俺はクミと席を向かい合って座りともに食堂で学食をむさぼっていた。目の前でちゅるちゅるをすわれるうどんはこの夏には似つかわしくないほど湯気が立っており当のすすっている本人もすこし汗かき気味だ。
まったくこんな暑い中よく熱いうどんなんか食べれるもんだ。それにうどんと言っても冷やしうどんもメニュー表にあったのにな。まぁ本人が食いたいと望んでるんだからしょうがない。ちなみに俺は夏らしく冷やし中華を頼んでいた。ちゅるちゅる、ズズーと麺のすする音があまりにも対照的であるためちょっと恥ずかしくなった。麵をすするのでも男と女でこんなにも違うものだなぁとしみじみ目の前の同級生を麺をすすりながら眺めているとそこに
「おー、竜馬君じゃないか。」
「あ、先輩」
先輩が現れた。すると先輩は目下のクミに気づくと、ははーんと言いながらニヤニヤして
「クミも一緒だったのか。なるほどなるほど。お邪魔のようだからまた部室で。クミもね」
「あっ。」
瞬く間に逃げられてしまった、「一緒にどうですか?」とかいう暇もなく。くそ、まだなんか変な勘違いを受けているようだ。こういうのはクミにも迷惑だからやめてほしいのだがな。ちょっと今日の部活できっぱりと断っておいた方がいいだろうな。やれやれ、と肩をすくめていると、
「カニカマ頂戴」
とクミが乞うてきた。ふむ、無償提供はいささかなものか。いくら相手が女子だろうと食い物の事に関しては甘やかしてはやれん。俺だって育ち盛りの男子高校生なんだものな。
「トレードでどうだ。そのお揚げと交換で」
クミは箸でお揚げを持ち上げて見つめながら言った。
「食べかけだけどいいの?」
「(むしろご褒美だ)全然いいぞ」
ポッ、とそんな効果音が聞こえる気がした。それくらい急にクミは顔を赤らめて
「間接キス」
と言った。いやいや、小学生か。というかこのツッコミ前もしなかったか?
「だから気にしないって。ほれ」
となんだか間接キスを気にする人であるようなので箸をつけていないカニカマを箸の口を付けてない部分で分けてやった。
「じゃあ、はい」
といってクミが差し出したのはなんとかじりかけもあるのこったお揚げ丸ごとである。まさかこんなにくれるとはな。俺はロッテにあげた巨人の選手のトレードを思い出した。これはデカいな。かじりかけからいただこう。はむはむ。
「むっ、美味い」
なんだろう、さっきのクミの「間接キス」という発言により特別感が増したというかプラシーボ効果だろうか。いつも食べるお揚げの数段うまく感じる。
「こっちも美味しい」
といいながらクミはシャーペンの横幅くらいしかないカニカマを食べているが流石に足りないだろう。
もっと何か差し上げた方がいいだろうか。ふむ、と言ってもあまりもう具材はないな。しょうがない、
水でもくんできてやろう。
俺は初めて汁まで完食する女子を目の当たりにした。おかげで水汲み往復二十回もする羽目となった。
「きつねのお揚げの甘さがしみこんでおいしい」
「そうかい。よかったな」
満足気で何よりだ。俺はとうに食い終わっていたのだがせっかくだしクミが完食するまで待っていたので昼休みも残り少ない。俺の昼休みプランによると学食を食い終わった後は一緒に図書館でもと思っていたのだがもうチャイムがなりそうだ。ここらで解散になるだろう。
「また部室で」
「あぁ」
俺たちは一年生の教室前の廊下で別れた。なんとも心休まるに十分だった。