第四話
暗闇に吸い込まれたのだろうか、音が一切聞こえない。時々肘にぶつかって鳴るエナドリの缶の音。
時報が毎秒なっているかのように錯覚する平坦な同級生のアドバイスの声。高校生の身分で深夜勤務しているような気分だった。パソコンのタイピングはまだ音がなるほど上達していない。それもあるせいかな、
筆の進みが遅いのは。しかし心配なのはこんな遅くまで俺のために付き添ってくれるクミの事だ。
「なぁ、こんな遅くまで付き添ってもらったけど大丈夫か?寝たけりゃもういいぞ、切って。」
「いや、いい。完成するまで見守る」
「でももう結構アドバイスしてもらって方針もおおよそついたしな。ここからももう少しかかりそうだし付き合ってもらうのは申し訳ないよ。明日も学校があることだしさ。」
「いや、いい。気にしないで。それよりここ誤字。」
「あっ、いけね。それならいいんだが………ありがとうな。埋め合わせは明日学食でもおごるよ。」
「わかった。きつねうどん。」
「………え?いきなりどうした?」
「きつねうどん、奢り。」
「あぁ、きつねうどんが食べたいのか。わかったよ。」
どうやらギャグらしきものも平気な顔で言えるらしいから大丈夫そうだ。ただの天然の可能性もあるが。
しかしあれだな結構誤字多いな、俺。さっきから指摘されてばっかだ。物語の修正よりこっちの方が多いかもしれん。ちょっと指摘がなさすぎてこんな本筋でいいのか気になってきた。聞いてみよう。
「あのーこんな感じでいいのか?というのも本筋がさ、ラノベっぽいとかないか?」
しばらく沈黙があった。やがて返ってきたのは
「そもそもまだ千文字もいってない竜馬に物語がどうこうとかいうのは酷だと思ったからやめた。」
無慈悲である。しかしそれが実力なのだからしょうがない。しかしまだまだクミの小言は続く。
「あと口動かしてないで手を動かして。このままだらだらやっていると日が昇ってしまう。
というか本当にタイピングが遅すぎる。ホームポジションがなってない。これから文芸部で会誌作ると思うけどこの作品が完成したらタイピングの練習をした方がいい。期日に間に合わないと思う。」
キーボードとにらめっこしながら頭の中で浮かんだ文章を打つというのは骨が折れるものだがさらに加えて小言をグチグチ言われると余計に負担が増す。まぁでも仕方ないか。クミも眠くてピリピリしてるのだろう。やれやれ、こんなことになるんだったらパソコンでゲームばっかしてないでタイピングの練習でもすればよかった。
「また誤字」
はいはい、削除キー、削除キーっと。
タンッ!と深夜に快音響く。それは作品が完成した合図でもあった。
「できたぞっー!」
ついにかかった時間九時間弱の初めての小説作成が終わったのだ、深夜だろうが雄たけびを思わずあげてしまう。パチパチ、と手をたたきながらクミは
「おめでとう」
とお祝いの言葉を言ってくれた。
「ありがとう、全部お前のおかげだ!」
俺は素直に感謝の気持ちを述べる。本当にこの「シン・桃太郎」は俺一人では絶対に作れなかったからだ。しかしクミはむくれた顔をする。なんだろう?俺なんかしたかな?
「お前って言わないで。ちゃんと今度からいつも「クミ」って呼んで」
「ッッ!」
「なに?わかったら返事して。」
「ああ、わかったよ。本当にありがとうな、クミ」
「ふふ、どういたしまして。じゃあ切るわね。おやすみ。」
「ああ、おやすみ」
ぶつん、と切れる。俺はしばらく衝撃状態だった。だってそうだろう。無機質キャラかと思いきやまさかいきなりの「デレ」である。一瞬画面で話してるのもあってエロゲをやってるんじゃないかと思ったほどだ。最後の微笑もなかなかの萌え度があった。これは深夜による魔力かはたして………
「これは、、、フラグ立ってるか?」
思わず一人でそう呟いていた。しかし改めてそう意識すると明日の学食もなんだか緊張してきた。
しかしそんな興奮状態も長くは続かず睡魔の襲来により俺はなろうで「投稿」のボタンを押しパソコンをシャットアウトして、先輩へ証拠を送信するのも明日部室で見てもらえばいいかと思ったので取りやめてスマホの充電をしてベッドへインした。