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第三話

 パソコンの液晶ディスプレイを睨んでいるとスマホから通知音がなった。どれどれ………ん?

知らないアイコンだな。しかし俺は友達が少ないためすぐさま文芸部の誰かという推論にたどり着く。

文体は女子である。男がハートマークを付けた文章を男に送るなんてのも今のジェンダー社会で言えば女子であるからにして、まぁ女子認定でいいだろう。

「って、前田先輩じゃないか」

名前を知らなかったので誰かと思った。なろうの催促をしてくる人物を言えば前田先輩しかいない。


 正直に言えばピンチである。帰宅して速攻晩飯もくわないで一人パソコンの前で思案しながらキーボードをたたいているともう午後の九時、学校から帰ってきたのはなんと四時である。

こんなに長い時間をかけて編み出した文章はなんと五百文字も超えないという惨状であった。

いや短編とごまかしたら行けるか?いやしかしオチなんてものはつけてはいない。というか眠い!

そんなオチなんて書き下ろす時間があったらさっさと飯食って寝たい!でもまだまだ前田先輩は催促の文面で俺に連投し来ている。流石に集中できんので俺は

「ちょっと待ってくださいよ!」

と打つ。ポン。送信。

「ふー」

これで少しは落ち着いてかけるというものだ。しかしどうしようか、先輩の期待を裏切るわけにもいかない。そうだ、クミだ!クミに助けを乞おう。状況を説明すれば手伝ってくれるはずだ。


 早速クミに「いきなりで悪い」と最初に断っときながら早速俺のなろう小説の写真を投稿した。

すると秒で既読がついた。ふむ、こんなことで一喜一憂してたらなんだがこれは脈あ………

「これは台本?」

そんなクミの一言で俺は撃沈した。小説認定もされず、無念である。いやでも、それは違うかもしれない。俺は思ったよりすぐに既読がついたので状況説明ができていなかった。なので勘違いされた可能性もある………と信じたい。俺はすぐに状況説明をした。するとクミは

「それなら画面を移しながら電話した方が早い。もはや日の出は間近。間に合わない。電話できる?」

と申し出た。なるほど、その手があったか。アドバイスをいちいちチャットで待っていると埒が明かないというわけだな。

「うむ、一人暮らしだしできるぞ」

と返信するとすぐさま俺のスマホにクミの顔が映った。


「起承転結って知ってる?」

クミからの一言である。これは決してあおりではないことはわかるのだがやはりちょっと傷つく。

「あぁ、一応な」

「じゃあ言ってみて」

「う、うむ。えーと、序盤にきっかけが起こる。そして主人公は何かをしに行く。そして逆転やらをしてとにかく転換期が訪れる。そして勝利やら敗北になる、つまりオチだな。」

「………おおよそあっている。しかし竜馬の文章はきっかけがないしいつまでも物語が動いていない。

日常パートが多すぎる。きっかけを作って。話はそれから。」

「おー、そうだな。でもなぁ………主人公の揺れ動く気持ちとかも書きたいわけででもなかなかゆるぎない志というかそこから登場人物とであることによr………」

「今の竜馬の技量ではそんなのは書けない。」

ピシャリと言い切られた。あとそんなににらむなよ。これでも処女作ってことで俺としてもだな………

「いいから早くきっかけを」

「はいはい。しかしだなそう簡単に思いつくはずもないだろう。」

「地球に隕石が落ちるとか主人公と美少女がであるとか簡単なものでいい。」

「ふむ、なるほどな。じゃあアンドロイドの美少女と主人公がであるというきっかけでどうだ」

「………」

しばらくの間があった。なにやら思案している顔だ。

「なんだダメか?」

「ダメ」

「なにッ!?」

「流石にラノベっぽすぎる。私たちの所属する部は仮にも文芸部。そんな物語じゃ先輩は竜馬にドン引きしてしまう。」

ドン引きか………それもそうかもしれない。

「ならどうしろってんだ」

「もっと別のアイデアを。自分の書ける技量と照らし合わせて考えて」

そんな無茶な。俺は頭を抱え込む。スマホにいるクミ教授のと目を合わせたくないのもあった。

「竜馬………そんなに無茶ならパロディでいい。」

「!?」

俺は跳ね起きた。なるほど、パロディ!それなら確かに下手糞なオリジナルよりも評価されるだろう。

「それならできそうな気がする!流石だクミ!で、文学的な奴でパロディをするのにいいやつってなんだ?」

「桃太郎」

ふむ、桃太郎ね。確かに俺みたいな古典で赤点を取っているあほでも話の大筋はわかるし、桃太郎も普通に古典の範疇ではあるだろう………多分。

「よし、それでいくか!じゃあ書いていくから添削してくれ!」

「了解」

そうして「桃太郎パロディ大作戦」は夜更けまで続いた。

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