第一話
瞼を閉じるとかすかな光のようなものが見える。それを追っていくと宇宙旅行をしている気分になる。
宇宙でもどこでもいい、摩訶不思議なところへ行ってみたい。それが俺の夢だった。
ファンタジーや冒険物の物語では大抵主人公に「使命」という属性がついているものだ。
しかし俺は「怪物のような亀に攫われた姫に助けを求められるヒーロー」でも
「家の血筋からして怪盗としての血が騒ぐ三世」でもないのでただひたすらにコツコツと勉強。
それさえしていればいいのだ。いざとなれば小説を書いたりしてその夢を自分の作ったキャラクターにかなえてもらえればいい。
ということで俺は文芸部に入ることにした。中学数学でもヒーヒー言ってた俺が高校数学など運動系の部活を片手間にできるわけないだろうという入学当初に決めていた事柄を全うに達成したというわけだ。
今はもう入部しているのだが文芸部に体験入部をしてみた時の話だ。
部室は科学室の横にあり担任は科学を教えており成績の悪いときは「部活になんか行ってないで(以下略)」なんて言われそうでなんか嫌だなと思っていたところ
「おー竹田じゃないか、なんだ科学部に入るのか?」
本人が登場してきた。
「いや、その隣の文芸部室に興味があって………」
すると担任は苦い顔をして
「文芸部か………正直言ってあまりお勧めはせんぞ」
といきなりディスってきた。
「どうしてですか?」
「いや、だってほら。ここは(文芸部室を指さしながら)男子校出身のお前には刺激が強すぎる」
………は?何を言ってるのかさっぱりわからない。これでも第一回の定期テストを終え国語は平均点
プラス20点は取ってるから読解力には自信があるつもりだ。というかそもそもの話、
「よく僕が男子校出身なんて知ってましたね」
「いやいや、中高一貫を途中で抜けて共学高校に入ってくる生徒なんているにはいるがやはり珍しいものだからな。すぐお前の名前と顔は覚えたぞ。」
「そうですか………ってそっちの話じゃなくて文芸部室のどこに刺激が強い要素があるんですか?」
「おいおい、大声を出すな。「やつ」が現れてしまうだろうが。全く、俺はお前を心配していっとるっちゅーに。な?文芸部の事は忘れて科学部に入ろう。なにやら「チー牛」と言われている男子オンリーの部活だがなかなか楽しいぞ。でもな部員が少なくて部員が少なくて困ってるんだ、内申点もおまけしておくから。ささ、こっちへ来い」
やれやれ。後半の部員が少ないというのが科学部に誘う理由か。俺は言われるがままそして押されるがままそのまま科学室に誘拐されそうになるもそこに
「離しなさい、デッパハゲ。」
バチン!デスマッチをしたら一発目でギブと言いたくなるようなそんなしっぺが飛んできた。
というか俺の手にもあたったのだが………痛い。。。って腫れてる!?
「現れたな、前田ミリヤ………!」
「ふん、文芸部室に訪れようとする生徒を無理やり科学部に誘導するなんてね………さっきから部室前が騒がしいと思って耳を立てていたらこの始末。あなた教師でしょ?ズルするなんて馬鹿じゃないの?」
「う、ううう、うるさい!任意同行だ!うちだって卑怯な手とかなりふり構わずやっていかないと廃部になってしまうんだぞ!」
「知らないわよ、そんなの」
グイっ。手を引っ張られる。三年ぶりに繋いだ女子の手は生暖かく安心感があった、というか普通に気持ちいい。
「あっ、まて!竹田は科学部に………!」
前田さんはチラリと俺を見やり
「確かに無理やり連れだすのもあのデッパハゲと同じことしてるようで嫌ね。それでどうなの、竹田君。
行きたければ科学部に行ってもいいわよ?」
手をつないだ感触、そして整った顔から発せられる甘い息。こんな先輩がいるなんて知ると男子校の血が騒ぐ。答えは当たり前だ。
「僕、文芸部に入ります!」