表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄して日本を救うと決めました  作者: 佐藤 ココ
これは、きみたちを救うための物語
23/31

いた。

「ねぇ大和」


 紗奈は泣かないときめた。自分が泣くべきではないと信じたから。自分は、それを許されていないと思ったから。


 夕暮れ時。沈みゆく太陽が大和の顔を照らす。その美貌も相まって、光に照らされた大和は神々しさすら感じさせた。


 初めから、気づくべきだった。

 大和は、ずっと紗奈にヒントをくれていた。


『今までの人生で一番楽しい』


 いつだったか、紗奈と何気ない会話をしたときに彼は言っていた。本当に些細な会話だった。ただの軽口。普通に生きていれば、何百と何千とするような、くだらない話。


『嘘じゃないよ』


 彼は何度も言っていた。


『俺は沙奈に嘘はつかないよ』


 信じてほしいと叫ぶように。

 どうか気づいてと泣いているように。


 彼が嘘をつけないという事実に気がつくと、たくさんのことが一気にわかった。


 知ってしまえば、わかってしまえば、こんなにもわかりやすく、彼は沙奈に語りかけていた。


『18歳までは基本ボッチで生きてたよ』

 

 それがどういう意味か気づいたとき、青ざめた。

 

『今までの人生で一番楽しい』って、例えだって、冗談だって、思うじゃないか。


『宇宙でだって生きてられる?』

『余裕余裕』

『深海でだって生きられる?』

『簡単だな』

『マグマの中でも?』

『そりゃもちろん』


 あれが文字通りの意味しかないなんて思いもしなかった。冗談でもなんでもない事実をさしていることに気づいたとたん、吐き気がした。


『俺、紗奈のためなんでもするって決めてるし』


 ぐ、と涙をこらえる。思い出せば思い出すほど、一瞬でも疑ったことが恥ずかしくなった。


(何でもしすぎだ、馬鹿)


 紗奈は怒りで倒れそうだった。




「あの時と同じようにさ、私が言ったことがあってたら、首縦に振って」


 それは、出会って間がないころのデートの話。

 紗奈はあの日と同じように大和に尋ねるつもりだった。


 大和は泣きそうな顔で頷いた。

 


「大和はさ、研究をしてるの?」


 

 首は横に動いた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「研究はしていないけど研究所に顔を出さなければいけない?」


 首は縦に動いた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そんな存在は一つしかない。


 そんなの笑っちゃうくらい明白だ。


 答えなんて決まり切ってる。聞くまでもない。聞きたくもない。知りたく、ない。


「……………研究される側なんでしょ!?」


 この問いを発するまでには、長い長い時間がかかった。信じたくなかった。だけど全てが示唆していた。


 大和の異常なまでに整った顔も、

 驚異的な治癒能力も、

 AIを追随する頭脳も、


 大和が遺伝子操作の末に生み出された、怪物だと示している。


 斎藤教授から渡されたあの映像が示すことは、小鳥遊研究所で行われた人体実験。

 思い出せば、大和は一言も兄弟が一人だとは言わなかった。紗奈が勝手にそう思っただけ。


『同年代と関わりがあった』という言葉が指すのが、兄弟だとは思いもしなかった。


『多分、この世界のどの親よりも、両親は俺を大事にしているよ』というのが、研究対象としての意味だとは考えもしなかった。


【武蔵】

【日向】

【飛龍】

【伊吹】

【桃】

【千歳】

【白雪】

【響】

【潮】

【春日】

【若葉】

【弥生】

【嵐】

【那智】

【梅】

【加古】

【霞】

【涼風】

【瑞穂】

【麻耶】

【榛名】


 そして、

【時雨】と【大和】


 彼らは全員が全員人体実験の末にできた存在だと、すべてが紗奈に訴えかける。



「そうなんでしょ………!?」


 大和は泣き笑いのような顔をして、首を縦に動かした。

 縦。見間違いようもない。


 紗奈の予想は、これ以上ないほど当たっていた。黒いチョーカーが揺れる。忌々しい、黒いチョーカーが。


「大和は嘘をつかないんじゃなくて、()()()()。そうでしょ?」


 大和は頷いた。


「そして!」


 紗奈はチョーカーを握った。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。違う?」


 大和はもう泣いていた。

 ずっと前から、心の中では泣いていたのかもしれない。


 顔を覆って大和は頷く。


 大和はこの時をずっと待っていた。



()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の」


 言葉が詰まって出てこない。


「思考を、奪うんでしょ」


 大和は頷いた。何度も何度も。


 大和が嘘をつけないという前提で今までの会話を振り返ると、大和は基本死なない。死ねないとも言える。


 最強たる彼らの命を奪えないのなら、思考を奪うようになってもおかしくないと紗奈は予想した。


「そう、なんだね?」



 もうこれ以上何も聞きたくない。向き合いたくない。

 紗奈にはだけど、どうしても聞かないといけないことが一つある。







 己の罪に、向き合わなければいけなかった。









 紗奈は怒り狂っていた。

 誰でもない、自分自身に。









「大和が言ってた好きな人ってさ、」



 紗奈は涙を堪えようとお腹に力を込めた。嗚咽が漏れないように、普段通りに話せるように。



「私…………?」


 

『運動会とか文化祭とかの映像を見せてもらって』


 そうやって、紗奈のことを知ったのだと、彼は言っていた。


 実験体として扱われる中、誰とも関わらずに生きていく中、唯一として紹介された少女。

 食い入るように見つめたデータ。


 




 流石に気づいた。

 だって選択肢が一つしかない。

 1分の1で、答えは出る。

 大和が愛した、たった一人は。





「わたし、なんでしょう……?」


 一滴、涙がこぼれた。

 大和はそれをじっと見て、微動だにしなかった。


「違うの?」



 ゆっくりと大和は口を開く。



「ごめんな」



 そうして恥いるように笑った。


「全部うまくいってたのに」


 大和は、時雨は、彼らは。

 生きていることを許されないと知っていた。

 自分たちの存在が戦争の引き金になるとわかっていた。


 だから消えようと覚悟して、計画を練って、ここまできたのだ。命を賭して、紗奈と圭にこの計画を気づかせた。


「紗奈を好きになったことだけが、俺の誤算だ」


 大和は力無く笑う。


「紗奈は気づいたら気に病むってわかってたのに」


 



 紗奈は思う。

 この人はどこまで。

 一体どこまで、バカなのか。



「大丈夫だよ、紗奈。俺はちゃんと幸せだったから」





 稀代の愚か者は紗奈を元気づけようと言葉を紡ぐ。






「紗奈が笑ってくれるだけで、十分だ」




 だから、世界のために自分は消えるべきだと。






「もう、俺たちが消える算段はつけてるんだ」



 嘘ではないことはチョーカーが証明している。だけど信じられなかった。


(どうしてこの人は)



 紗奈は大和の体を起こした。



(自分がいない世界で私が笑ってられると思ってるんだろう)



 そんなはずがないのに、それに彼は気づけない。



「ほんっっっっとバカ!」


 紗奈は大和を抱きしめた。


「バカじゃないの」

 

 だから、紗奈が教えるのだ。

 この愚かな天才に、あなたはもう一人で抱え込まなくていいのだと。



「私は、守られるだけしか脳がない女じゃないの」


 守られるだけの存在ではない。

 紗奈は、守られたいなんて思わない。





 紗奈は強く、賢く、優しく、そして何より欲深かった。



 もう、大和がいない生活を許容できない。




 このまま大和を消して訪れる世界を、ハッピーエンドとはいえない。





「だから任せて。私を信じて」




 必ず助ける。


 そうして迎えた世界以外、紗奈は認めない。



「圭に会いに行くわ。今頃そのチョーカーを解析しているはず」


 紗奈は大和に言った。


「第三次世界大戦も大和は消える未来も許容できない。計画を練るわよ」

「でも、俺が生きてる限り……」

「科学は、不可能を可能にするために発展してきた」


 紗奈は笑う。本領発揮だった。


「戦争の道具にするためじゃない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ