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婚約破棄して日本を救うと決めました  作者: 佐藤 ココ
これは、きみたちを救うための物語
21/31

ただ

 はらはらと葉っぱが風に揺られていく姿を自分と重ねて、紗奈は日本庭園の前で立ちすくんでいた。赤色の着物が庭園の中でもよく映えた。


「紗奈、行くわよ」


 紗奈の母親は緑を基調とした着物に身を包んでいる。紗奈を無理やりエレベーターまで連れ出し、物思いに耽る我が子を急かしながら、彼女は夫に声をかけた。


「行きましょ。17階を押して」


 エレベーターの天井には星空が投影されている。17階までは一瞬でついた。エレベーターから一歩踏み出すと、大和がそこで立って待っていた。

 

「あら、もう小鳥遊家のみなさんはついているのね。ごめんなさいね」

「いえ、お忙しい中ありがとうございます」


 紗奈は差し出された大和の手を取る。


「ねぇ大和」

 

 歩幅を合わせてくれていることに気づく。


「どうした?」


 紗奈は今日の立ち回り方を思い付かずにいた。


「今日って何なの?誰も教えてくれないからわからなくて」

「ああ」


 大和はわかっているようだった。


「来年のパーティーの下見だね」

「パーティー?」

「そう。年越しパーティー。食事を先に確かめるってさ」


 来年は2099年になる。世間は2100年を迎える前に世界は滅びると言う、昔の誰かの予言に翻弄されていた。それが事実ならば、最後の年になる。


「そうなのね」

「うん、あとは宇宙資源についてじゃないかな」

「最近きな臭いものね」

 

 あれよあれよと紗奈は大和の横に座らせられる。反対側には母が座った。目の前には大和の母と父。両家の父は隣り合わせだ。


「あら、二人とも仲良くやってる? 大和はちゃんと紗奈ちゃんに優しいかしら?」


 大和の母が尋ねる。


「はい、大和くんはいつも優しいです」


 紗奈は答えた。まごうことなき事実。大和は優しい。


「あらやだ、うちの子の方が迷惑かけてるわ、絶対。大和くんも何かあったら言ってね」

「いえ、紗奈さんにはいつもお世話になっています」


 大和が優しく笑う。ちょうどその時アミューズが届いた。紗奈は口を挟むタイミングを失う。


「紗奈ちゃんは大和に直して欲しいとことかあったら、私に言うのよ。私は紗奈ちゃんの味方だから」


 大和の母が言う。紗奈は怒り出しそうだったのを辛うじて抑えた。


「いえ」


 持っていたナイフを置く。


「私は、大和が大好きです」


 普通に聞こえるように気をつけて。


「大和には直して欲しいところなんてありません」


 紗奈の言葉を聞いて、大和の母は分かりやすく喜んだ。大和は紗奈の隣で持っていたナイフを落とした。従業員が急いで拾いに向かう。大和は頭を下げて新しいナイフを受け取った。


「そう。よかったわ。二人が仲良しそうで」


 一瞬顔を赤くした大和は、すぐにその顔色を元に戻した。




 気づいたのだ。


()()()()』と紗奈が言ったことに。


「これからもよろしくね」

「はい。ずっと」


 大和の両親は頷いて見せた。満足したのだろう、それから話題は宇宙資源のことになった。


「富の均衡が」

「アメリカの出方は」

「インドがどちらにつくか」

「アフリカ各国はどうだ」

「日本の宇宙開発は」

「法整備がないから」

「国連がどこまで権威をもてるか」

「常任理事国は皆反対するに決まってる」


 所感を述べる両家の話を一言も聞き漏らさないように覚える。両家は戦争を止めるために動いているらしかった。






「このままでは、第三次世界対戦が起きるかもしれない」




 危機感。だが、国を背負うものとして、最悪を想定していることは確かだった。


「だから、我々は―――――――――――」





「紗奈」


 大和が紗奈に囁く。


「抜けよう」


 両親に指示されたことは明らかだった。大和の父親が大和を見ていた。


「うん」


 紗奈は頷き、その手を取って、ロビーに出た。


「紗奈、あのさ」

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