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婚約破棄して日本を救うと決めました  作者: 佐藤 ココ
これは、きみたちを救うための物語
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うた


 2099年 東京 星界ホテル


 年越しパーティーを前にドレスアップした女と男が日本一のホテルで邪悪に微笑む。階下には電子の海が広がっていた。


「さぁ婚約破棄と洒落込みましょう」


 女は男に手を伸ばした。拳を作って彼女は目を細める。


「このクソッタレな世界をぶち壊す第一歩」


 男は拳を合わせた。


「歴史を壊す夜にする」


 勇ましく、男と女は万雷の拍手の中を進んだ。


***


 2097年 北海道 統一中学校 3年102組


 教壇に立つ教育ロボットと教師を、中学生たちが見上げていた。先生が送信したデータを受け取り、今日の宿題をチェックする生徒もいれば、こっそり隠れて本を読んでいる生徒もいる。


「ショートホームルームを終わります、順番に出てね、また明日ー」


 彼らは全員、教師のその声に喜び勇んで立ち上がった。礼儀正しくロボットは礼をした。電子黒板に書いた文字を消去して、彼女は生徒たちを育児人と育児ロボットに引き渡す。


「今日は何かありましたか?」

「しょうまくんが今日は授業後に質問に来てくれたので、褒めてあげてください。まみちゃんがきりのちゃんを遊びに誘っていました。仲直りしたようです。その他データ送信してます」

「ありがとうございます」

 

 子供達の自己肯定感を高めるためには、些細なことでも見落とさずに褒めること。そのためには学校と寮の連携は欠かせない。 教師は育児人と育児ロボットについていく子供たちを笑顔で見送り、ロボットに向き直る。


「お疲れ様です」

「お疲れ様です」


 教育ロボットがフィードバックのために今日1日の動画を黒板に写した。生徒への接し方に目につく問題がなかったため、ロボットは本題に移ろうと、先日のテストの結果を提示した。


「先日のテストの結果、桜庭紗奈ちゃんが、東京行きが決定しました。その他、生徒のデータがこちらです」


 教師は震えながら桜庭紗奈のデータに触れた。


「さすがね」

「ええ。ただ……」

「鷹見圭くんは東京行きから外れたのね」

「はい」


 どうやって本人の精神をケアしようかと教師が頭を捻ると、教育ロボットが教師のメガネに精神ケアについての本のデータを送信する。阿吽の呼吸だった


「ありがとう。確認しておくわ。紗奈ちゃんを祝わないとね」


 教師は微笑んだ。


「圧倒的な頭脳に、美しい顔、両親政治家……婚約者も内定しているのでしょう?」

「そう伺っております」

「彼女の人生が、美しいものだといいわね」


 教師は心から願った。

 




 婚約者は2歳上の聡明な東京都民だと聞いていた。

 きっと彼女なら、全国4000万人の中の頂点が集う東京でも、その力を発揮できるだろう、と信じていた。






 そう、彼女なら。



「え?」


 桜庭紗奈は、誰かに呼ばれた気がして振り向いた。


「紗奈、どうかした?」


 紗奈の手を握って笑うのは、鷹見圭。紗奈の恋人である。


「んーにゃ、なんでもなーい」


 紗奈は圭にしなだれかかった。


「やだな」

「なにが?」

「離れがたくて」


 紗奈は不機嫌になって圭の両頬を押さえた。


「私だってやだし。圭がいないなら東京行きたくないのに」

「ごめんね、能力が足りなかったみたいだ」

「いや、圭が東京行きじゃないのおかしいでしょ!」


 圭は、はなから紗奈と一生一緒にいられるとは思っていなかった。紗奈は政治家の娘で、50年前なら出会えなかったであろう、上級国民だ。


 何より紗奈は、婚約者がいる。


(もっと、一緒にいたかったな)


 圭は紗奈を抱きしめながらその背を撫でた。東京行きは確実だと信じていた圭は、福岡行きに落胆していたが、恋人の前でそのような顔は見せられない。


「紗奈いい匂いする」


 ため息の代わりに圭は息を吸った。



 2050年代、少子化の一途を辿る世界は人口減少が著しく、空き家が溢れ、社会保障費の増加による増税があいまって、苦しい生活が送られていた。


 その現状を受けて世界各国が始めたのが「コンパクトシティ化」である。戦後広がりすぎた居住地をコンパクトにまとめ、森に戻すことで地球温暖化への抑止力をつくり、域内経済の活発化を目指した。この政策に加えて、再生可能エネルギーと磁力によって二酸化炭素排出量はずいぶん抑えられたのである。


 気温上昇は少しずつ緩やかになっていた。



 平等への意識についての議論が白熱したのは、2070年代。


 その裏側には、技術の進歩があった。人類はついに、子供を母体で育むことなく、子供が誕生するようになったのである。痛みを伴わない出産が可能になったのだ。技術自体は2060年時点で存在していたものの、議論が紛糾し、実行に打ち出せなかったそれが、合法となり試験運用ののちに実用化されたのである。


 しかし、依然として人口は増えなかった。育児による自身のキャリアの放棄や多額の出費をしてまで子供を欲する人が多くなくなっていた。


 そこで日本では、全ての子供は0歳児から一律に育児人と育児ロボットによって無償で理論上最適な育児を平等に施された。育児の負担をなくし、親の役割は子供を可愛がることのみになったのだ。


 その後、「人々の居住区域を15歳時の能力値によって確定させ、その地域に居住するものには補助金をだす」ことが決まった。15歳になると行われるテストにより、居住区域が決定されるのである。


 優秀な生徒は東京へ。

 それ以外は地方へ平等に。


 医療も裁判もロボットが主体で人間は補助のみとなったため、頭脳を必要としなくなり、問題はさほど起きなかった。起きた諸問題も、もうすでに改善されている。


 移動手段の発達により、地域間の移動はより早く、より安くなった。どれだけ移動しても良いし、他の県民との交流も禁じられていない。補助金を受け取れなくなってまで他の県に住みたがる人間はさほどいなかった。


 補助金さえあれば働かなくても生きて行けたし、補助金がなくなれば、家庭収入600万円ほどを強いられたからである。


 労働はもはや趣味の域に達していた。補助金での生活より豪華な生活を送りたいものや働きたいものだけが働く時代が来たのである。


 2080年代にもなると、その生活は当たり前になってきた。子供の数も順調に増え始め、世界はかつての繁栄を取り戻そうとしていた。

 





「絶対、絶対圭のこと忘れないから!」


 紗奈は圭にもたれかかったまま言う。だから忘れないでね、とこの可愛らしい恋人は圭に告げたいみたいだった。下手に約束をすると破られた時に辛いから、こんな不器用な言い方しかできない恋人が、圭は愛しかった。


「忘れないよ」

「本当?嘘つきは嫌いよ」


 圭は誰よりもそれを知っている。当然本気だった。忘れるなんてありえない。あるとしたら、脳を弄られた時くらいだ。


「圭、私のこと覚えていてね!婚約破棄して大阪まで迎えに行く!」


 圭は笑った。


「紗奈が迎えに行く方なの?」


 それが夢物語だと知っていた。結局最後まで、圭は迎えに行くとは言わなかった。言えなかった。










 それでも圭が忘れられるはずもなかった。

 紗奈は、圭の初恋だった。







 だから。





『あーあーあー、ごちゃごちゃうっさいわね』


 昔の面影を残しながらも美しく成長した彼女が電波をジャックしているところを見て、圭は大笑いした。宇宙船をジャックして、仲間と人を運びながら、彼女が暴れているのをコンタクトレンズから映し出した映像で知る。



『国のためですって? 本気で言ってるの?』



 黒髪をはためかせた真っ赤なマーメイドドレスに身を包んだ彼女は、まるで物語の悪役のようで。



『私桜庭紗奈は、小鳥遊大和との婚約を破棄します』



 圭はますます惚れ直した。

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