8 剣の女王、戦場に立つ。
【セフィ】
ハート・ウィンゾール
★1マジックファイター BP 248/3500
【大宗百樹】▽
シルバーアーマー
★3ファイター BP 7530/8000
「私は……、まだ負けない……!」
ステータスのBP値を見るまでもなく、息が上がっているハートが、それでもシルバーアーマーにロングブレードを向けている。
俺がカットを告げたことでできたわずかな時間で、ここからどう戦えばいいか考えているように見える。
ただ、たとえハートが戦う気十分であったとしても、戦闘不能になるのは時間の問題で、俺はその瞬間をいつ見るかということしか考えていなかった。
そんな修羅場シーンなのに、その場にいないはずのアリスが、俺にリモートで告げている。
「セフィさん、『チェンジ!』って叫んでください!」
「チェンジ……?」
いつものように言葉の意味を聞こうと思ったが、シルバーアーマーの鋭い一撃が、ハートのロングブレードに再び襲い掛かった。
ハートのBPは64。次の一撃で、終わろうとしている。
時間がなかった。俺は叫んだ。
「チェンジ!」
叫んだ瞬間、ハートの体は青い光に包まれ、今まさに振り下ろされようとしていたシルバーアーマーの剣をガードした。
そして、ハートの姿は光の中に消えていった。
後には、「未来の大勇者」を圧倒したシルバーアーマーと、百樹が俺の前で仁王立ちした。
「だろうな……。★1マジックファイターをここまで引っ張ったお前も、やっと当然の選択をしたか」
「あぁ……。頑張り屋のハートなら、倒せると思ったけどな……」
召喚バトルのプレイヤーとして、相手に向けて目を細めて、場つなぎの言葉を言うしかない。
だが、「チェンジ」と告げた後どうすればいいのかが、分からなかった。
直訳すれば交代ということにはなるが、ハートを飲み込んでいった青い光が次のアクションを待っている、ただそれだけの時間が過ぎていく。
くそぅ、ルールさえ分かっていれば……。
その時、アリスではない声が俺の頭を駆け巡った。
「ハートの敵は、私が討つわ」
トライブの声……。
そうだ、俺にはあと二人、凄腕の女剣士が残ってるじゃん!
その名を告げればいいってことか……。
よぉし……。
「剣の女王、召喚!」
自ら戦いたいと頼み込んだトライブを、俺はこの勝負で使ってみせる。
自創作最強キャラの初バトルだ!
★の数はこっちの方が上だから、楽勝に決まってるさ!
瞬く間に、青い光の中から長身の女剣士が、その姿を見せる。
空の光に照らされ、輝く金色の髪。
いくつもの強敵を倒してきた設定の剣、アルフェイオスの先を鋭く下に向けながら、女王が戦場に立った。
「★4ファイター、トライブ・ランスロット! BP9800!」
すげぇ……。
その名を告げるだけでも、俺のドキドキが止まらねぇ……。
ついに、トライブのバトルを間近で見るんだからな。
アニメにすらなったことのない、俺のメインキャラの姿を見てるだけでも、力が湧いてくる……。
それだけならまだしも、トライブが俺に振り向くんだ。
「見てなさい、マスター。私は、手加減しないから」
「分かった……。それが、トライブのバトルに臨む姿だから……」
あぁ~、表情がとっても凛々しいし、言葉がカッコいい~!
こんな美しくて強い女剣士を作り出して、本当によかったと思う!
「じゃあ、トライブ。そのシルバーアーマーに……」
「お前のターンは、そこまでだ」
攻撃指示を出そうとした俺を、百樹の低い声が貫いた。
「どういうことだよ。てか、今、俺のターンなのか……?」
くそぅ……、トライブの戦う気MAXなのに、攻撃指示を出せないのか。
まぁ、戦うべき相手は一人しかいないけどな。
「お前のターンだ。お前がチェンジを言った段階で、攻撃指示をされているオリキャラは交代だ。まずそこで、俺のターンが終わる」
「で、俺のターンでは、ハートの代わりのキャラを召喚しなきゃいけないから、呼んだ」
「そういうことだ。ただ、普通はオリキャラを召喚したら、そのまま攻撃指示を出せるが、チェンジの時はお前から攻撃指示は出せない。こっちは、待たされてるんだからな」
そうか……。
こっちの都合でチェンジしてるんだから、そこまでは認められないってことか。
また一つ、ルールが分かってきたぞ……。
「なら、ターンエンド!」
その宣言と同時に、百樹がフッと薄笑いを浮かべた。
俺の誇る最強剣士を目の前にして、どうして笑えるんだよ。
「セフィ。ビギナーのお前は、いくつもの誤算をやらかしたようだな」
「誤算なんかした覚えはない。★4のトライブを召喚すれば、俺は難なく勝てる」
まだバトルが始まらねぇのかよ……。
勝負は、どう考えても俺の勝ちのはずなのに……!
「まず、お前でもそれくらい分かってると思うが、トライブはオーダーヘッドだよな……。『OH』の文字が付いている」
「たしかに……」
俺よりも15cmくらい背が高いトライブの頭の上に、その文字がうっすら見える。
ただでさえ、真横に立っていたらトライブのステータスは見づらいが。
「そして、俺のシルバーアーマーにその文字があるか」
「あっ……!」
ミッションランク、★3ファイター。なのに、「OH」の文字がない。
シルバーアーマーがオーダーヘッドじゃねぇってことか!
向こうは一人だと、今の今まで思い込んでた……!
これは完全に、俺の悪い癖だ……。不慣れ以前に、何でそんな思い込みをするんだよ、俺。
「では、俺のターンに行かせてもらうか。追加召喚……」
少なくとも、★3ファイターはもう一人出てくる。
トライブの相手は、いきなり2体になるってことか。
「暗黒騎士の親衛、召喚!」
シルバーアーマーの横に、もう一つ青い光が解き放たれ、太くとげとげしい剣と、先程よりも頑丈な鎧に包まれた剣士が現れた。
「★3ファイター、パワードアーマー! BP8500!」
「8500……」
シルバーアーマーの残りBPは7380。二つ合わせれば、16000近くものBPが相手となる。
そして、パワードアーマーこそ、百樹のオーダーヘッドのようだ。
「さぁ、俺のターンは、ここから攻撃指示までだ。
いくらお前が★4だとしても、2対1では圧倒的不利な状況。
さらに、お前のそのキャラは、オーダーヘッド。
つまり、お前のオーダーは、このミッションからあっけなく消える」
「最後……、どういうことだよ!」
「それは、死んで学ぶんだな。オーダーヘッドは特別な存在。ヒントは、それだけだ」
くそっ……。やられれば終わりか……。
でも、俺は……。
トライブを信じるからな!
「さぁ、シルバーアーマーに、パワードアーマー。愚かな『剣の女王』に、鉄槌を下せ!」
トライブの初バトルは、俺の圧倒的不利な状況の中で始まった。