7 ★1マジックファイターが★3ファイターに立ち向かう!
「ちょっと待て。もしかして、エネミーか……」
冷静に考えれば、アホとしか思えない。
敵とはっきり書いてあるキャラに向かって、何で敬語が出ちゃうんだよ、俺。
ただ、大宗百樹の見た感じは普通の男。リーマンか。
武器を特に持っていないのに、★3ファイター。
これは……、〇真カラテとか通ってて、今から俺のオリキャラを瞬殺するんだよな……。
「あぁ、私はエネミーだ。つべこべ言わず、バトルをさせてもらおう」
すると、百樹は右腕を高く上げた。
「暗黒騎士の僕、召喚!」
あっ、敵もオリキャラ……、なのか分からないけど、召喚するんだ。
というか、敵も見た目普通の人間かよ。遠くからじゃ見分けつかないじゃん!
モンスターぽいものが見えたから逃げる、という手は、このゲームじゃ使えないな。
俺が状況を飲み込もうとしている間に、砂地の地面から青い光が解き放たれ、光の中から銀色に輝く鎧が見え始めた。
手には剣を持っており、手のひら以外の全ての部分が銀色の防具に覆われている。
「★3ファイター、シルバーアーマー! BP8000!」
「これが……、お前のバトルキャラか……。てか、なんでいきなり召喚するんだよ!」
これでは、ガチガチの騎士と生身の俺が戦わなきゃいけなくなる。
俺だって、出合頭にオリキャラを出した方がよかったか……。
「それがルールだ。セフィ、『オリキャラオーダーオンライン』のルールも知らないのか」
「これが初バトルで……、俺、何も聞かされてないし」
「そうか。それでも、ターンの意味は分かるよな」
「それくらいは分かる」
『ド〇クエ』をやっていた数十年前の記憶だと、キャラが一通り一つの動作を行うのをターンと呼んでた。
それに、カードゲームのマンガだと、「俺のターンだ!」とか「ターンエンド!」とか言ってる。
つまり、このゲームにも先攻と後攻があるわけか。
おそらく、バトルを仕掛けたほうが先攻――。
そこまで俺が気付いた瞬間、スーツの男の上に小さくついていた”▽”のマークが、俺の頭上に移動するのが分かった。
「セフィ、お前のターンだ。私が一人に留めたから、お前が呼べるのも1キャラだぞ」
「分かった」
くそぅ……。オーダーの3人でシルバーアーマーをボコりたかったが、そうはいかないか。
相手の人数に合わせるしかないわけだ。
無意識のうちに、俺は百樹と同じように右腕を高く上げていた。
「未来の大勇者、召喚!」
こんな感じでいいんだよな。
俺、ハートを思い浮かべたんだけど、相手もいきなりキャラ名を言わなかったし。
ただ、エタってる作品で、未来の大勇者になるシーンが予想できるかと言われれば、ちょっとだけど。
それでも、ハートは大勇者になれるはずなんだ!
青い光とともに、肩と胸がアーマーに包まれた茶髪の女戦士が、ロングブレードを手に持って、シルバーアーマーを睨みつける。
てか、さっき俺の横にいたハートとは全く違う、バトルモードだ。
「★1マジックファイター、ハート・ウィンゾール! BP3500!」
俺は、同じように言い放った。
だが、百樹の表情は笑いさえ見せていた。
「ほう……。私に向かって、★1をよこしてきたか。なめられたものだ。もちろん、お前のターンで攻撃指示を出すんだよな」
「勿論だ! ハート、シルバーアーマーに攻撃だ!」
「分かりました、マスター!」
右手にロングブレードを持ったハートが、その剣を後ろに回しながら、真正面からシルバーアーマーに向かっていく。
シルバーアーマーは、手に持った剣をハートが迫ってくる方に向けて真っ直ぐ伸ばす。まるで、ハートをおびき寄せているかのようだ。
これは、正面から行ったら返り討ちに遭うパターンだ。
それくらい、分かってるよな。剣の練習を少しは『Twin Braves』で書いてきたんだからさ!
「あっ……!」
シルバーアーマーの剣を目掛けてロングブレードを当てに行ったハートが、突然振り下ろされた相手の剣に、その動きを止められてしまった。
そして、勢いを失ったロングブレードに、シルバーアーマーの剣が、左から、右から、次々と叩きつけていく。
ハートは歯を食いしばるが、相手の剣を叩きつけられるたびに苦しそうな声を上げている。
「セフィさん……」
明らかにアリスのような声が、俺の耳に聞こえる。
オンライン会議システムによくある、若干機械を通した声だ。その段階で、リモートしかない。
バトルシーンに、アリスという邪魔が入るのか。それなら、シカトだ。
それでも、アリスは、まるで天の声のように俺に語り掛ける。
「セフィさん……。あの……、バトル中は、キャラの上に出ているステータスを見なきゃダメです!」
「ステータス……。あっ……!」
俺は、じりじりと引き下がっていくハートの頭の上を見た。
BP 1973/3500
「やべっ、半分近くになってるじゃん……!」
逆に、シルバーアーマーのBPは、初期状態の8000からほとんど減っていない。
ランクの違いを見せつけられたハートが、どんどんBPを減らしている。
その中で、ハートが徐々にシルバーアーマーの動きについて行けなくなり、同時にシルバーアーマーが剣を高く振り上げ、ハートの胸を目掛けて一気に振り下ろした。
「うわああああああっ!」
「あああああっ! ハート!」
シルバーアーマーのクリティカルヒットで、ハートのBPは一気に700近くまで下がった。
ていうか、ちょっと待て。俺のターン、いつ終わるんだよ……!
他のキャラ、呼びたいのに……!
「セフィさん。このターン、カットしませんか」
「カット……? どういうことだよ……」
目の前では、大ダメージを食らったハートが、よろけながらもシルバーアーマーを睨みつけ、もう一度足を踏み出そうとしている。だが、ハートの息は上がっていて、これ以上のバトル続行は厳しそうだ。
「カットというのは、自分のターンのときに攻撃を止めてターンエンドにすることです!
そもそも、攻撃は基本的に、どちらかが戦闘不能になるまで終わりません!」
なにいいいいいいいいいい!
オーダーの細かいルールなんかよりも、そっちの方が重要じゃねぇかよおおおおおお!
これ、ハートが戦闘不能になるまでターンエンドにならねぇってことかよ!
カードゲームのように、例えば攻撃力と守備力の差だけダメージを食らえばターンエンド、というわけじゃない。
これは、ガチで戦闘だ。
自分のオリキャラを使って、とんでもないバトルをさせられてるんだ。
「嫌だ、せっかくこの世界で蘇ったハートが、なすすべなく戦闘不能になるのは……!」
「なら、セフィさん。叫ぶしかないですね」
俺は、アリスに従うことにした。
「カット!」
俺が叫んだと同時に、▽のカーソルが百樹に移った。
ハートのBP、248。なんとか踏みとどまった。
いや、待て……。
「アリスさ。いくらカットして、相手のターンにしてもさ……」
残りBP248のハートが、BP7530も残っているシルバーアーマーと向き合っている。
ハートのBPが大きく減っただけで、戦況は何も変わっていない。
「シルバーアーマー、絶対にハートを戦闘不能に追い込むよな……」
「大丈夫です! 相手が攻撃指示を出したら、すぐに私の言うことに従ってください」
どういうことだよ、アリス……。
このままじゃ、一人のオリキャラが見殺しにされるぞ。
「セフィ、完全に焦ってるようだな。この女の命は、もう終わったに等しい……」
百樹が、俺に向かって右手を真っ直ぐ伸ばす。
次の一手は、どちらも分かっているかのように。
「シルバーアーマー、瀕死のハート・ウィンゾールを完膚なきまで叩き潰せ!」
ターンが始まった。
そこに、アリスが再び俺に語り掛ける。
「セフィさん! いいですか!」