6 ミッションの行われる世界が「な〇う」のようにカオスだった件
今日は、何かのお祭りか?
光を抜けた先には、そう思いたくなるくらいの人・人・人!
さっき見た、キャラハウスが立ち並ぶような空間は、スローライフ気分が味わえる、ある種典型的なナーロッパだったけど、ここは言ってしまえば「小説家になろ〇」そのもののように、カオスだ。
「てか、ここはどこだよ……」
見た感じ、ここが街であることは間違いない。
地図を見ると、アクセスポイントの周辺はシャインルーフの街と書かれていて、ブラックルーフ鉱山のふもとに位置する。
おそらく、正面に見えている、山肌の黒っぽい山が目指す鉱山だろう。
で、もう一つの疑問が、この人の多さだ。
近くでミッションが行われているはずなのに、武器を持ったような人がいない。どれも、普通の人間。
よく見ると、その半分以上の頭上に「★4ファイター」やら「★4マジックファイター」などの文字が見える。中には「★3」と表示されている人もいた。
もしかして……。
話し掛けようとしたが、知らない世界にいる人間に声を掛けて、俺自身に何かあったらいけない。
ただ、彼らは俺と同じように「プレイヤー」で、表示されているのはオーダーランクと、オーダーヘッドのクラスであることは間違いなさそうだ。
「俺の頭上にも、『★4ファイター』とか表示されてるのかな……」
「表示されてるよ、セフィさん」
ん……?
いま、名前を呼ばれたような……。
振り向くと、高校生か大学生のような体格をした、一人の男が俺を見ていた。
この男の上にも「★4ファイター 優月剣」と書かれていた。間違いなく、プレイヤーだ。
「初めまして……、優月さん……」
「初めまして。なんか、初めてこの世界にやって来たような雰囲気だったんで、声を掛けてみたんだ」
あぁ、そういうことまで一発で分かるんだ……。
「はい。今日が、初ログイン、初オーダーです。頭の上に書かれている文字に、面食らってます」
「ここまでゴチャゴチャしたステータス表示、ゲームの世界じゃないとなかなか見ないものね」
「たしかに、見ないですね……」
そもそも、ネトゲやソシャゲをやったことのない俺にとっては、こういう文字だらけの空間も、画像で知ってるだけの世界なんだが。慣れない間に、文字の洪水を前に何度か吐き気を催すかも知れない。
「優月さんも、今日はブラックルーフ鉱山のミッションなんですか?」
「そう。というか、ここにいるプレイヤーのかなりの数、同じミッションなんじゃないかな。★5はいないよね」
「★5だと……、ミッションランクが★4だから、このミッションには来られないってことですものね」
「そう。初ログインにしては、かなりのところまで知ってるんだね」
「ある程度のところまでは、プレイヤーサポーターから聞いたから……。でも、まだ分からないことだらけです」
全部、アリスが余計なルールまで口走ったせいだ。
「そうか……。でも、このゲーム、なかなか奥が深いから、ミッションやってるうちに学ぶといいよ」
優月が、一度うなずくと俺から目を反らし、その場を離れようとする。
「ちょっと待ってください、優月さん……」
「セフィさん……?」
「もしよかったら、一緒にミッションに挑みませんか? 俺、かなりの実力を持ったオリキャラがいますから」
優月が首を振るのが、はっきりと見えた。
「そういうのが実装されたら面白んだけどね……。あくまでも、ここは個人戦。どれだけ★5のオリキャラをキャラハウスに入れてるかで、リスペクトされるかされないかが決まるんだ」
「★5のオリキャラが多いと、トッププレイヤーってことなんですね」
「そういうこと。だから、みんな自分のオリキャラで戦うんだ。それに、バトルは1オーダー対1オーダーでしか行えないし……」
「そうですか……。でも、優月さんと話せて、少しだけ不安がなくなりました。ありがとうございます」
協力プレイは無理か……。
ただ、そうなると、さらなる疑問が湧いてくるんだ。
これだけブラックルーフ鉱山を目指すプレイヤーがいると、ミッションヘッドの暗黒騎士は一人だけだから、オーダーどうしでバトルをしなきゃいけなくならないか。
暗黒騎士への挑戦権、みたいな感じで……。
見える限り、勝ち上がり戦でも3回戦、準々決勝、準決勝、決勝まで必要になるオーダー数だぞ。
ただ、どうやらシャインルーフの街で何かバトルが起きているような雰囲気はなさそうだ。
1分間に数人、鉱山へと続く一本道を進み始めているプレイヤーがいるようだが。
俺も、その後を追うように、鉱山への道を歩き始めた。
すると、街の出口近くに貼紙がされていた。
――暗黒騎士(★4ファイター)を倒せ 実施中 数:無制限 期間:次回メンテまで
制約があったのは、人数よりも時間だったのか。
人数の多さにびっくりしたけど、鉱山に行けばいくらでも出現するってことか。
意外と、楽なミッションかも知れない。
「はぁ~、やっと冒険に出られたーっ!」
!????????
さっきからこの場所にいたとは思えない、ハートの声が聞こえてきたぞ?
「セフィさん、こういうダンジョンに続く道、ワクワクしませんか?」
今度は、声のする方角を捕らえた。右だ。
だが、俺が右を向こうとする前に、ハートの奴、俺の右腕を握りしめてきた。
「まだバトルにもなってねぇのに、なんでフィールドに出てきてるんだよ、ハート!」
キャラハウスのノリで俺に接近してるけど、ここはミッションが行われてる場だ。
俺が召喚して、オリキャラは初めてこの場に立てる……、という認識なんだよな。
てか、キャラハウスで見た時のように、剣を持っていない素のまんまの姿だし。
「てへへっ。だって世界を旅したいですもの」
「でもさ、ちょっと恥ずかしいよ。俺がオリキャラに腕を掴まれてるのを見られるの!」
「大丈夫です、セフィさん。だって、セフィさんにはセフィさんの作ったオリキャラしか見えないって、ちょっと前にアリスさんから聞きましたし……」
「なら、よかった……」
あれ……?
こうやってオリキャラのハートが普通に俺の近くで行動しているとすれば、トライブとソフィアは今頃どうしてるんだ?
軽く周りを見ても、二人がいるような雰囲気がないが。
てか、トライブが俺の目の届かないところに行ったら、それこそ厄介だよな。
トライブのもう一つの愛称が、俺の中で「戦うファッションモデル」だと思っているほど、トライブが街中を歩けば、即サイン・即撮影だもの。
オリキャラの居場所だけでも収拾つかない状況になったら、バトルの時どうなることやら。
「で、セフィさん……、この地図を見ても、ブラックルーフ鉱山までのルートが分かりません」
「この地図……? って、ああああああああ!」
知らない間に、アリスからもらった地図がハートに取られていた。
ハートが興味深そうな目で地図を見ているものの、西を上にして持ったと思ったら、今度は南を上に持ち替える。
見るからに、地図が読めないようだ。
てか、ハート。エタってなければ、女勇者に育ってるんだからな。たぶん。
こういう時、トライブなら地図を読み慣れているんだよな。
「あのね、地図は上が北。で、いま俺たちはここにいて、鉱山へと真っ直ぐ伸びていく道の上にいるの」
「あっ、ここだ……! セフィさん、ありがとうございます!」
そう言って、ハートが俺に地図を返そうと、体をさらに俺のほうに寄せる。
そして、俺の耳元まで顔を近づけてきた。
「私、セフィさんの優しいところ、みんな好きです。こんな優しい人間、私、ぜひとも守りたいです!」
「それは、俺のセリフ。俺が、バトルで下手な指示を出せば、オリキャラを守れないから」
その時、ハートとは全く違う声が耳に響いた。
「ターゲットにされました」
どう考えても、アリスの声だ。今のところ、いるかいないか分からないような存在が。
その声と同時に、俺の腕を掴んでいたはずのハートが、フェードアウトするように消えていく。
「戦闘だ……」
「★4ファイターを従えるセフィ。私が相手だ」
そこには、人差し指を俺に真っ直ぐ向けながら、黒いスーツを着た男が立っていた。
エネミー:大宗百樹
オーダーランク:★3ファイター
相手の上に、そう書かれている。
初めての戦闘が、始まろうとしていた。