18 本気 vs 本気 決着
【セフィ】
トライブ・ランスロット
★4ファイター BP 6873/9800 OH
【風月美里】▽
ゼクス
★4ファイター BP 5115/12800 MH
「我が復讐の力、鋭き刃に宿れ……」
「な……、なんだよ……!」
ゼクスが、マジックファイターかと思わせるほどに、高く振り上げた大剣の先に黒い光を集めていく。
これが、復讐の力、自らを苦しめる存在への憎しみの力なのか。
太い剣が、さらに太く見えてくる。
だが、トライブは目を細めるだけで、後に引く素振りすら見せない。
この隙にゼクス本体を斬り裂けるはずなのに、あえてその一撃を「楽しもう」という気だ。
ただ勝ちたいんじゃない。
本気を見せた相手に勝ちたい。
それが、トライブ・ランスロットという、一人の女ファイターだ。
「局面崩壊っ!」
振り上げられた大剣に黒い光を蓄えたまま、ゼクスがトライブに迫る。
ゼクスのほうから動き出したのは、これが初めてだ。
一歩遅れて、トライブもアルフェイオスをやや上に傾けた。
「死ねえええええええ!」
これまでで最も大きな金属音がその場に鳴り響き、わずか1秒でトライブの体がやや後ろに傾く。
ゼクスの勢いに任せるままに、アルフェイオスがトライブの手前に傾き、とっさにトライブが右足を1歩だけ後ろに下げた。
トライブの頭上に、2830というダメージが表示される。
だが……
「はああっ!」
ゼクスが、そのまま次の一撃をアルフェイオスにぶつけようとしたとき、そのわずかな隙を突いて、トライブがアルフェイオスを横から大剣に叩きつけた。
「パワーとパワーのぶつかり合い……。こんなバトル、見たことねぇ……!」
思わず叫んだ俺の前で、トライブがその力を見せつける。
一瞬だけ互角に見えたものの、黒く輝く大剣をアルフェイオスがゼクスの右に押しやった。
そして、ゼクスが大剣を戻したタイミングで、今度はアルフェイオスを高く上げ、魂から出たような叫びとともに力強く振り下ろす。
「はあああああああっ!」
「剣の女王」の名に恥じぬ力、ここに下される。
ゼクス:ダメージ5390
ゼクスの大剣が地に落ち、勝負は決した。
「復讐の力を……、止めるとは……。どこまでも、本気にさせてくる存在だ……」
「あなたこそ、私を本気にさせてくれた。十分、楽しませてもらったわ」
目を細めながら苦し紛れの声で言葉を放つゼクスとは対照的に、トライブの声はそれでも落ち着いていた。
トライブにとっては、決して「その程度」ではないものの、「まだ普通に勝てる存在」なのだろうか。
とにかく、俺の女剣士のほうが強いって、これで証明された。
青い光の中にゼクスが消え、続いて俺とトライブにも白い光が襲ってきた。
いよいよ、本当にキャラハウスに戻される時だ。
「なんか、たった4戦で終わったけど……、トライブの強さが目立ってたな」
その声に、トライブが振り向く。
「まだまだよ。『オリキャラオーダーオンライン』の世界に、もっと強い剣士がいてもおかしくないわ」
「たぶん、いると思う。そもそも、俺たちはまだ★5の世界を知らないわけだから……」
「そうね……。一度、★5ファイターと戦ってみたい。私なら、勝てるはずよ」
「無理すんなよ。俺の考えた最強剣士が、ボロボロにされる姿は見たくねぇからな」
トライブが、それはどうかしら、というような表情で俺を見つめている。
それを見て、俺は不思議と安心感さえ抱き始めた。
文字通り、俺の創作世界で一番頼りになる存在だ。
やがて、光が邪魔をして、俺の視界からトライブの姿も消えていった。
「セフィさん、お疲れ様です!」
突然、アリスの声が響いた。
まだ時空をさまよい、キャラハウスが見えていないのに、俺の目にアリスの姿がはっきりと見える。
「さっきからリモート出演ばっかりだったのに、どこから出てきたんだよ、アリス」
「えーっ! ずっと見てましたよー! 向こうの世界で」
アリスよ。それをリモートと言うんじゃないのか。
まぁ、とにかく、アリスが出てきたということは、これから業務連絡でもあるのか。
まさか、早速次のミッションを告げられるとかじゃないよな……。
「で、セフィさん、周りをよ~く見て下さい?」
「えっ……、周りって……」
アリスに言われるがまま、俺は首を左右に動かした。その瞬間、俺は息を飲み込んだ。
「トライブは一緒に来てるから分かるけど……、なんでソフィアとハートまでいるんだよ」
「だって、一緒のオーダーだったじゃないですか。もぅ、一人の剣士ばっかり扱い過ぎて、あとの二人のこと、忘れたんですか」
忘れてない、とは口が裂けても言えなかった。
特に、バトル間に一度も出てこなかったソフィアは、俺の中で最も印象が薄いと言っても過言ではない。
というか、ハートは「死んだ」のに、なんでいるんだよ……。
「では、このミッションの結果発表が公式から届きましたので、発表いたしますっ! ドコドコドコドコ……」
「そんな効果音はいらない。てか、俺の目の前でバトルが行われたんだから、全部分かるし」
「ドコッ!」
そんな効果音を流すなと言ったら、間が抜けた効果音に変わったぞオイ。
「では、★4ファイター、トライブ・ランスロットは……」
「よ、よ、呼び捨てなの? そこ、ものすごく違和感なんだけど……!」
アリスにとって、トライブは『Sword Masters』で面倒見てもらっている存在で、どんな状況でも必ず敬語を使ってくる。それが、この世界に来てプレイヤーサポーターになった瞬間、トライブに対してすら呼び捨てになるのは、創作した俺が絶対許せない案件になるぞ。
まぁ、許せないといっても、どう言えばいいか分からないんだけどさ。
「4勝0敗! ランクアップ要件、変わらず! 間違いないですね!」
「えぇ。4勝0敗で間違いないわ」
あれ、ハートが倒せなかったシルバーアーマーも勝敗に入れるのか。
続いて、アリスがソフィアの前に移る。
「★3ファイター、ソフィア・エリクールは……、1勝0敗! ランクアップ要件、4pt+★4×1!」
????????
トライブの時には完全にスルーしていたけど、ソフィアにいま何と言った?
横書きのWeb小説ならまだ読めるが、これ書籍化して縦書きになった瞬間に、編集担当者泣かせの数式が埋まってるじゃんかよ!
で、俺は記憶を思い起こしてみたんだが。
――ランクは、バトルを繰り返しているうちに上がったり下がったりするので……。
遠い昔に、アリスの奴が言ってたな。忘れてたぞ。
ただ、その条件は何一つ知らされていない。
そもそも、トライブもソフィアも、★4ばかり戦っていて、今回★5には挑んでいない。
にもかかわらず、ソフィアにだけポイントが付くのって何なんだ……。
そんな俺のモヤモヤをよそに、アリスがハートの前に立った。
「で、★1マジックファイター、ハート・ウィンゾール……」
「はい……」
「ボーッと戦ってんじゃねーよ!!!! プシューッ! なんてね……」
おい、いまのセリフ、完全に渋谷の某テレビ局から目を付けられるぞ……。
てか、いくら結果が結果だったとはいえ、ハート、うつむきかけたぞ……。
「すいません……。全く勝てなくて……」
「0勝2敗、そして戦闘不能。この責任は、当然ですが……、セフィさんにありますからね」
「俺……?」
突然、ビシッとアリスの手が伸びて、俺はもうビビるしかなかった。
「オーダー組んだの、誰だと思ってるんですか?」
「俺だよ……。ウィザードのいないオーダーを……」
「はい、というわけで、次は気を付けて下さい。ホームルーム終了!」
ホームルームかよ!
俺、学生じゃなくなって何十年経ったと思ってるんだ。
ただ、アリスがまた消える前に、一度聞いておくか。アレを。
「で、アリス。ちょっと聞きたいことがあるんだが」