17 ミッションヘッドとの本気バトル
【セフィ】
トライブ・ランスロット
★4ファイター BP 9800/9800 OH
【風月実里】▽
ゼクス
★4ファイター BP 12800/12800 MH
……って、いつもと▽のついてる場所が違う……?
普段なら、エネミーが俺のところにやってきて、エネミー→俺の順で召喚して、俺が攻撃指示を出すんだけど、▽が実里の名前の上に出ている。つまり、俺が暗黒騎士ゼクスに勝負を挑んだ形になる。
1対1で、俺が扉の中にトライブしか入れられなかったから、どっちが先攻でも実害はない。強いて言えば、俺からカットはできないことぐらいか。いや、そもそもカット自体ができないのかも知れないが。
まぁ、俺のトライブが負けるわけないけどな。
「愚かなプレイヤーが、女一匹をこっちによこしてきたか。
なら、思い知るがよい。復讐に満ちた我が力が、お前なんかよりもはるかに超越しているということをな」
「それほど強い剣士と言うわけね。面白いじゃない」
うわ、俺のトライブ、ミッションのラスボスに対して随分余裕なこと言ってる。
むしろ、この世界に降りてからまだ楽しんでいるとしか言いようがない。
とにかく、どちらが強いか、この後すぐ決まる。
俺は、女王を信じるからな……!
「はっ……!」
先に動いたのは、トライブの足だった。
ゆっくりとしたスピードで動き出したと思えば、徐々にスピードを上げながらゼクスに近づく。
これまでこの世界で二度もエネミーをフルボッコにしてきたアルフェイオスに反射する光が、黒と白に彩られたゼクスの体にかすかに当たった。
その光をゼクスが感じた瞬間、ゼクスも大剣を振り上げながらトライブに迫る。
「この剣は押せぬ!」
二人が同時に剣を振り、お互いの正面でぶつかった瞬間、これまでのバトルでは聞かれなかったほどの重い音が、俺の耳に入る。
おそらく、重厚感のあるゼクスの大剣が、剣と剣のぶつかった時の音を低くしているのだろう。
そしてそのまま、二人の間からギシギシという音が響く。両者一歩も引かない。
てか、ゼクスの大剣、アルフェイオスの2倍くらいの幅があるから、普通に考えればアルフェイオスに相当負担がかかってくるんだよな。
それを、何とか耐えているんぞ……。そう考えるだけでも、アルフェイオスの強さを感じるんだ。
「……っ!」
先に歯を食いしばりだしたのは、トライブのほうだ。
二人の正面で垂直に立っていた剣が、俺ですらはっきりと見えないほどのスピードで、徐々にトライブのほうに傾いていく。
やっぱり、BPを見るまでもなく、パワーはゼクスが上なのかよ。
そう思った瞬間、お互いの肩が動いた。
「あっ……!」
トライブが、一瞬アルフェイオスを引いたかと思えば、すぐさま右からゼクスの大剣に叩きつける。
わずかな隙を突いて、ゼクスの剣の勢いを失わせようとする作戦だ。
だが、それもやや体を右に傾けたゼクスが、力で止める。
「剣の軸を、わざと一直線にしていない……!」
てか、何で俺が剣の評論家やってないといけないんだよ。
それくらい、二人の目がマジなんだけど。
そして、軸が一直線になっていないことにトライブが気付き、アルフェイオスをやや下に傾けて力のかかり具合を動かそうとした瞬間、ゼクスの大剣がアルフェイオスを上から叩きつけた。
トライブ・ランスロット:ダメージ1300
剣を叩きつけられたと同時に後ろにジャンプしたトライブが、初めて「痛い」と言いたそうな表情を見せた。
かなりのパワーで大剣に立ち向かっていったこともあり、トライブのBPは早くも7350にまで落ちていた。
だが、そんな状況にもかかわらず、トライブはすぐに表情を戻し、アルフェイオスの向きを戻す。
「なかなかじゃない。でも、これくらいのダメージなら、いつも受けてるわ」
すげぇ。何てこと言ってくれるんだよ、トライブ。しかも、このポーカーフェイス。
だてに、「ボロボロになるまで戦った回数なら誰にも負けない」というような言葉を、小説で出してるわけじゃない。何と言っても、これがマジのトライブなんだ。
そして、俺がいつも書いてるように、相手の実力を知ったトライブはここから一気に畳みかけてくるはず!
「はあああああっ!」
再び、トライブがゼクスに立ち向かう。
今度は、上から振り下ろそうと、アルフェイオスを斜め右上に傾けた。
それを見たゼクスが、今度は大剣を横に向けて、手に力を溜めていく。
そして、アルフェイオスが振り下ろされるのを見て、一度下に動かしながらアルフェイオスの迫る方に振り上げた。
今度も重い音が響いた。
だが、今度は重力の差でトライブが押している。
というより、トライブの見せるパワーが、先程とは全く違う。守りに入ったゼクスの大剣を、一気に下に傾けていく。
「すげぇぜ……!」
俺がそう叫んだものつかの間、一時的に剣の制御が不能になったゼクスがもう一度大剣を振り上げようとするも、その軌跡が生まれる前に、トライブが再びアルフェイオスを大剣に叩きつけた。
今度は、アルフェイオスから響く高い音が、俺の耳に響いた。それは、トライブがゼクスを力で押している証拠だ。
そして、さらにもう一度――。
ひとたび女王の本気に入ったトライブが、攻撃の手を緩めない。
ゼクス:ダメージ1080
ゼクス:ダメージ1370
ゼクス:ダメージ850
3回連続攻撃で、合計ダメージ3300。
トライブの過去2回のバトルと比べれば低い数字で、ゼクスもそれなりにガードしているようだ。
「強いな、ゼクス……。さすが、ミッションヘッド……」
バトルが、俺がこのゲームにログインしてから一番長くなっている。
トライブが本気を見せた段階から長期戦に持ち込まれれば、トライブはかなり不利な状況に立たされる。
それは、俺自身が何度か書いている、トライブが大苦戦する展開だ。
行けると思った時に勝負を決める姿の、裏返しというべき設定だ。
だが、その不安をへし折るのも、またトライブだった。
一呼吸置いた後、トライブがさらにアルフェイオスをゼクスの大剣に叩きつけた。
「はあああっ!」
ゼクスが、体の向きを戻しながら半ば力ずくでアルフェイオスの勢いを止めようとしたが、今度はあっという間に大剣を下に傾けられ、それを無意識に振り上げたところにアルフェイオスの鋭い一撃が襲った。
ゼクス:ダメージ990
ゼクス:ダメージ1980
「ついに、半分以下だっ! これならもう楽勝だっ!」
ゼクスのBPがまた一つ削られ、ついに5115という数字を叩き出した。
かたやトライブは、あれだけ力いっぱいアルフェイオスを振り下ろしているように見えるにも関わらず、一度ダメージを食らってからBPをそこまで減らしていない。
俺は、この勝負、トライブの勝ちだとはっきりと確信した。
だが……。
「お遊びはここまでだ。我が復讐の力は、お前への憎しみへと変わった……」
ゼクスが大剣の先を上空に向けて、力を入れ始めた。
それをトライブが、アルフェイオスの先を真っ直ぐ正面に伸ばしたまま見つめている。
ゼクスの本気。それは、少なくともトライブ色に染まった俺の周りの空気を変えようとしていた。