16 ミッションヘッドへと続く光の扉
「な……、なんだよこれ……!」
俺の腰ぐらいまである草ばかりだぞ……?
トライブの見つけた道を見て、息を飲み込むしかなかった。
当のトライブは、少しでも踏み固められた跡を見つけながら、草をものともせずに進んでいく。
「なぁ、トライブ。『Sword Masters』の世界では、いつもこんなところ歩いてたっけ」
「普通に歩くわ。だって、オフの日はトレジャーハンターだもの。少しの危険は、何とかなるわ」
たしかに、トライブはトレジャーハントが趣味です、とは書いたけどさ。
それ、だいぶ前の設定だぞ。
『Sword Masters』のホント最初に、宝の眠るダンジョンで戦うトライブを書いたけど、トレジャーハントをする姿を書いたのはそれが最初で最後かもしれない。
何しろ、作っているうちにトライブの趣味を「トレジャーハント」から「強い相手と戦うこと」に変えちゃったからな。俺の中では。
「随分、大胆なことをするな。バトル以外でも……」
「そうね。少しくらい無理をしないと、私は勝てないから。今だって、多くのプレイヤーが暗黒騎士と戦ってるはずよ」
そう言ったときには、トライブが早くも草だらけの道を抜けていた。
そこには再び、ゴツゴツとした岩に挟まれた道が続いていた。
ていうか、鉱山なのにここだけ草が生えているっていうのもかなり異様なんだけど。
ただ、はっきりと感じるんだ。この先に暗黒騎士がいるという、確かな気配を。
「ショートカット、うまくいったな」
「えぇ。私の野生の勘、なかなかでしょ」
「まぁな……。『戦うファッションモデル』にしては、結構ワイルドな一面もあるって思ったよ」
10分もしないうちに、俺とトライブがもう一つの登山道に出た。
そこには、下から次々とプレイヤーが上がっていく。
この期に及んでエネミーと戦っているようなプレイヤーはほとんど見かけず、数十人のプレイヤーの誰もが、その先で待っている暗黒騎士に向かっていた。
「俺も、行くしかない。このミッションを終わらせるために!」
俺がそう言いながら、右の拳を握りしめた時、突然トライブの姿が消えた。
まさか……。
「ターゲットにされました……、って声、ないじゃん……!」
周りがみんな暗黒騎士の着弾した場所に進んでいるところで、ただ一人エネミーを無駄に待っていた俺。
すげぇ恥ずかしい。
でも、オリキャラが消えたということは、ここからそう遠くないところで俺を待っているはず。そう信じよう。
だが、そこから再び歩き始めた時、200メートルほど先で、青い光のドアがいくつも浮かんでいるのが見えた。
そのドアは、プレイヤーの前で止まり、数十秒から1分ほど経って開くのだった。
そして、ドアが開くと、例外なくプレイヤーがその中に吸い込まれていく。
「なんだ、あの人食いドア……」
別に口とか付いていないのに、俺はそう表現するしかなかった。
ただ、そこから奥に歩いているプレイヤーが見えないだけに、このドアこそ暗黒騎士と戦う場所への入口に違いない。
いよいよ、ミッションのクライマックスか……?
そう頭によぎった時だった。
「ようこそ、風月実里のWeb小説、『闇堕ち剣士の復讐劇』の世界へ」
甘い声が、俺の耳に響く。
どう考えても、アリスではない。
「だ、誰だよ……、お前……!」
「私は、ブラージュ。暗黒騎士ゼクスの秘書として、作品のヒロインになった、闇の世界の人間よ」
「作品……。ひょっとして、『闇落ち剣士の復讐劇』というWeb小説の……」
考えてみれば、そうだよな。
『オリキャラオーダーオンライン』というゲームなんだから、オリキャラのいる世界がそのままミッションやフィールドになってもおかしくないものな。
今回は、風月実里という人の書いた世界が、ミッションの舞台に選ばれたのか。
いずれは、俺の作品の世界がミッションになって欲しいけど。
「★4ファイターを携えたセフィ、私たちの作品の世界はどうだった……?」
「あぁ……。初めてのミッションにしては、空気も澄んでいて気持ちのいい場所だったよ」
「それはありがたい。でも、もうこの世界ともお別れ。あとは、生きて帰るか、死んで帰るかのどちらかね」
「えっ……?」
生きて帰るのは、暗黒騎士を倒した瞬間にミッションが終了して、元の世界に戻っていくから。それは分かる。
だが、死んで帰るというのは、どういうことなんだ。
「初めてのミッションだから、誰からも教わらなかったのかしら。なら、少しだけヒントをあげるわ」
「ヒント……。ありがたくもらうよ」
「それは、ここから先、もう後戻りはできないということ」
何となく分かった。
負けそうになっても、バトルから逃れることができない。
生きるか死ぬか。いずれにしても、もう次でキャラハウスに帰される。
しかも、だ。
それぞれのプレイヤーに扉が用意されているから、たとえ同じ、ゼクスという暗黒騎士が相手だとしても、他のプレイヤーのバトルを横から見ることが出来ない。
だから、本当に誰からもラスボスの情報を手に入れられないってことか。
だけど、これだけは分かっている。
ゼクスが★4ファイターだということ。
なら、俺の★4ファイターが負けるわけがない。しかも、そのライバルの★3ファイターだって付いている。
「覚悟はできた?」
「できた。ここまで来たんだ! ミッションクリアのために、俺は全ての戦力を扉の中に送り込む!」
俺がそう言い放った瞬間、すぐ横で同じように扉の前に立っていたプレイヤーが、突然俺を睨みつけてきた。まるで「なんだこいつ」と言っているかのような目で。
「ここから先に進めるのは、オリキャラ1体だけ。そういうルールのはずよ」
「ごめん、知らねぇ……」
1体って何だよ。
まぁ、中にいる暗黒騎士がゼクスだけだとすれば1対1が妥当だし、何より残り人数で最終バトルが不公平になりかねないものな。
「セフィ。最終バトルには、オーダーヘッドか、ここまでのバトルで飛びぬけて活躍したと認められる存在だけが入れることになっているの」
「あぁ。それだったら……、俺には一人しかいない……」
「それなら、話は簡単ね。そのオリキャラを、扉に向かって召喚しなさい」
よぉし……。
まだ3戦しかしてないのに、最終バトルだと思うと、なんかワクワクしてくる。
今まで敵を圧倒してきた、俺のオリキャラなら、絶対倒してくれるって信じるからな。
「剣の女王、召喚!」
そう叫んだ瞬間、これまで閉ざされていた青い光の扉が、何の前触れもなく開いた。
その先には、暗黒騎士が待っているとは思えない、眩い光の通路が続いている。
というより、扉そのものが俺のところに近づいて、周りの景色を消してしまった。
そんな不思議な出来事が続いた後、光が徐々に消えていき、その中に俺の最強女剣士が立っていた。
ここで、ゲームの決め台詞を言わないとな。
「★4ファイター、トライブ・ランスロット! BP9800!」
その時、俺から100メートルほど離れたところに、一人の騎士が立っているのが見えた。ゼクスだ。
黒と白に彩られた兜と鎧をつけ、灰色に塗られた大剣を俺に向けている。
その隣にプレイヤーの姿はない。ただ、オリキャラの作者である風月実里の名前はゼクスの隣に表示されていて、この作者がプレイヤーとみて間違いなさそうだ。
すると、その風月実里と思われる声が、その場に響いた。
一応、男っぽい声だ。
「★4ファイター、ゼクス! BP12800!」
9999でカンストじゃねぇのかよ……!
さすがは、ミッションのラスボス。ボリュームのあるバトルになりそうだ……!