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15 暗黒騎士を探せ!

 限りなく俺のポカでハートを失って、残り女剣士2名となった俺のオーダー。

 エネミーに人数まで悟られているか、それとも短時間で3回もバトルをさせられたことがこの世界に伝わっているからなのか、それから俺のところにアリスの声で「ターゲットに」云々の言葉は全くなかった。


 でも、内心少し不気味なんだよな……。

 アクセスポイント周辺では、ネトゲのスクショでよく見るようなごちゃごちゃした空間で、ブラックルーフ鉱山を上り始めたときにも数多くのプレイヤーがいた。

 だが、標高が少しずつ上がっていくにつれ、プレイヤーの数がどんどん減っている。

 というより、俺の目の前で、次々とプレイヤーが消えていっているんだ。

 そう考えると、ウィザードのいるエネミーから絶対にターゲットにされない俺のオーダーは、狙われる可能性が限りなく少ないのでは。

 いや……、それは錯覚で、実際のエンカ率とか、ミッションクリアのための最低エンカ数とかは、ゲームマスターが決めてるんじゃねぇかな。


 そんなことを考えてはみたものの、今の俺にはもう一つ言いたいことがある。



「この空気、最高だああああああああ!」



 というか、ここ鉱山でいいんだよな、ってくらい空気が澄んでいる。

 動画チャンネルのロケで、石灰石の採れる鉱山まで行ったことがあるけど、たしか異様な臭いがしたはずだ。

 なのに、ここは鉱山と言っておきながら、山肌が茶色いだけで、特段採掘の作業をしているわけではないし、鉱山特有の臭いだってない。

 異世界の鉱山、こんな感じなんだろうな。


 で、こんなところで叫んでもいいくらい、俺の周囲10メートルに誰もプレイヤーがいないのだ。

 あと100メートルも進めば山頂に到達するというのに。

 とりあえず、プレイヤーが踏んだと思われる轍はあるので、上っていくとするか。



「本当に上にいるのかしら、マスター」



 あれ、なんか今、トライブぽい声がしなかったか……?

 振り返ると、さっき俺が叫んだ場所にトライブが立っていて、顔だけこちらに回している。


 てか、戦闘と戦闘の間にトライブが出てくるの、なんかものすごく新鮮なんだが。

 これは、神様がずっと未婚の俺に、本当に愛してるキャラと付き合いなさいって言ってくれてるのかも。



「トライブ、何か気になるんか?」


「暗黒騎士がいたという情報、私、全く耳にしないのよね」


「そうだね。普通は……、暗黒騎士から逃げてきたプレイヤーや、暗黒騎士に勝ったプレイヤーが、後から来るプレイヤーのために場所を教えてくれるはずなんだよな……」



 そこまでトライブに告げて……、あれ?

 そう言えば、この世界からキャラハウスにはどうやって戻るんだろう?

 アクセスポイントに降り立った時、そこに入口のようなものはなかったし、キャラハウスに戻るための白い光も周辺で見ていない。


 そうなると、考えられるのはただ一つ。

 暗黒騎士を倒せばミッションクリアで、プレイヤーはもうその世界にいられない。

 だから、暗黒騎士に勝ったプレイヤーから全く情報を聞けない。その可能性が出てきた。



「もしかしたら、暗黒騎士に勝ったプレイヤーは、元の世界に戻ってるのかも知れない……」


「マスター。私も、そう思う。だって、キャラもプレイヤーも、全部光に乗って移動しているから」


 そう言うなり、トライブは山頂へと続いていく土の一本道に目線を落とした。


「トライブ、下を見てどうするんだよ」


「足跡よ。マスターの言った仮説が正しいとすれば、ここに両方向の足跡があったら、どういうことか分かるわよね」


 ちょっと待った。

 トライブは、既に答えが分かってそうだぞ。


「両方向に足跡があるってことは……、ここを大量のプレイヤーが通ってるっていうことで、この先に暗黒騎士がいるってことになるんだよ」


「一見、そう見えるのよ。でも、マスターの言った仮説を入れると、結論は真逆になる」


「えっ……? あっ……!」


「分かったみたいね。暗黒騎士に勝てば山を下りてくる必要がないから、足跡の数が変わるはずよ」


 俺も、トライブと同じように目線を下げて、土に刻まれた足跡を見た。

 ほぼ同数だった。

 つまり、この先に行っても暗黒騎士と戦うことはできない……。


「じゃあ、こんな高いところまで登って来たの、ある意味で無駄足じゃん……」


「そういうことになってしまうわ……。

 このミッション、『ブラックルーフ鉱山にいる』で、一言も山頂という言葉がないのよ」


「そう言えば……」



 俺は、もう手を叩かずにはいられなかった。

 今まで、トライブが何かを推理・考察するような場面は書いてきたものの、小説の中以上にトライブの推理力が冴えわたっているようだ。


 そうなると、暗黒騎士がいるのは、山頂じゃなくて今まで登ってきた道のどこかから分岐するってことか……。

 それとも……。


 で、俺はたまらなくなって空を見上げた。

 ……って、あれ?



「なぁ、トライブ。いつの間にか空が暗くなってるんだけど。夕焼けって見えた?」


「見えなかった。なんか、急に昼から夜に変わったような気がするのよね」



 パソコンの画面を見ながらこの世界に転移した。

 だから、スマホも時計もなく、突然暗くなっても今の時間が読めなくなっている。

 Web小説でいう異世界では、夜に移るのに夕焼けを挟まない、というのもあるのかも知れないけど。


 それか、何者かが空の光を遮ったか……。


 その時だった。



――この世界に生ける者よ、思い知るがよい。

  闇に堕ち、破滅の心に満ちた我が力を。



「闇に堕ち、破滅の心に満ちた……。それって……」


「間違いなく、暗黒騎士ね」


 怯える俺の横で、トライブがずっと闇夜を見つめていた。

 いや、今は本当に夜の時間帯なのか。

 暗黒騎士が、夜の世界を作り出しているわけじゃないのだろうか。


 やがて、暗黒騎士と思われる声が響かなくなると、空全体を覆っていた闇が一つにまとまって、鉱山中腹の岩肌に向かって一気に落ちていった。

 そして後には、再び昼の明るい空が戻ってきた。

 一瞬で暗くなり、一瞬で明るくなるような日食。そう表現してもおかしくないほどだ。


「ここから見て右のほう。マスターが登ってきた道とは、また別の登山道なのかも知れない」


「かもな……」



 くそー。

 ここまで登ってきて、結構足に負担がきてるのに、もう一度他の登山道を登らないといけねぇのかよ……。

 バトルはしないけれど、オリキャラを連れて行くのに実際に動いているの、俺なんだからな……。


 だが、周りにいた他のプレイヤーも、一斉に鉱山を下り始める。

 下りだからって、駆け足で降りる人もいた。

 いくら、次回メンテまで無制限に出現する相手だからと言っても、誰もが早くこのミッションをクリアしたいという気持ちになるのは間違いないようだ。


「俺も、出来る限り早く暗黒騎士のところに辿り着きたい!」


「私、先に行って、ショートカットできる道を探してくるわ!」


「ありがとう!」



 ……って、トライブ?

 これからまだ戦うんじゃねぇのか?

 なのに、ここで体力を使っていいのかよ。


 そう言いたくても、俺はトライブに何も言えない。

 いくら俺が作者だと言っても、俺自身がこういう行動力あるトライブの姿を書いてきてるものな。



「マスター! ここよ!」


 トライブが、俺に向かって手を振っている。

 ものの1分もしないうちに、ショートカットルートを見つけ出したようだ。

 オリキャラの姿は、バトル中以外周囲に見えないはずなので、ショートカットという言葉を使ってもいいはずだが……。

 とりあえず、俺はトライブが止まったところまで、気が付くと全速力で走り出していた。

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