14 エタったオリキャラの涙 そしてオーダーの敗北
【セフィ】▽
ハート・ウィンゾール
★1マジックファイター BP 2094/3500
【ふまじめ部下】
ホワイトハリケーン
★4ウィザード BP 6233/8000
★1 vs ★4。
ほんの何分か前に「★4ファイターと戦いたい」と言い出したハートが、本当に★4と戦うことになるなんて、思っていなかった。
とにかく、この状況ではカットもチェンジもできない。
つまり、ハートは倒すか倒されるかどちらかだ。
「よし、ハート。出せる限りの力をフルに出して、ホワイトハリケーンを倒してこい!」
「分かりました! セフィさん!」
相変わらず、ハートはロングブレードを手に持っている。
最初は剣で立ち向かうつもりなのか。
そう俺が思い浮かべた瞬間、ハートが剣の先を真っ直ぐ前に向けたまま走り出した。
「相手がウィザードだって、私は頑張るんだから!」
ハートの足は、早くもホワイトハリケーンから15メートルのところまで迫っていた。
だが、その時、ホワイトハリケーンの手が空に伸びた。
「無限なる力を携えし、天空の疾風よ。いま裁きの鉄槌を下せ……」
やべつ……!
これは、本当に剣士に魔術が襲い掛かるような形になってしまう!
それは明らかにファイターに分が悪いことになってしまうので、ルール上戦えないことになっているのに!
てか、何でハートはこの期に及んで魔術を使わず、剣を持ってるんだよ……!
「下降爆風!」
ホワイトハリケーンが叫んだ瞬間、まるで空からハートの動きを監視していたかのように、ハートの真上だけ気流が変わった。そして、それはたちまち巨大な白い柱となりながら地面へと迫った。
ていうか、俺のほうだって目を開けて立っていられないほどの、分かりやすく言えば台風並みの風だぞ!
「危ない! ハート!」
ホワイトハリケーンから5メートルのところで、周りの空気の変化に気付いたのか、ハートが足を止めた。
そこに向かって、白い柱が一気に襲い掛かった。
「うわああああああああああ!!!!!!!!!」
ハート・ウィンゾール:ダメージ1730
ロングブレードを手にしたまま、ハートは最初に立っていたあたりまで投げ飛ばされ、背中から叩きつけられた。これだけで、BP的に言ってもほぼ瀕死のダメージだ。
狙った突風がほぼ正確すぎる。相手はかなりの実力を持った風使いだ。
これ、全く勝ち目ねぇじゃん……。
正攻法で戦ったら、絶対に勝てない相手だ。何とかしなきゃ。
「ハート! 聞こえるか……!」
「セフィさん……」
まだ吹き荒れる風の中、俺は懸命に目を開けてハートの顔色を伺った。
立ち上がる意思はありそうだ。
だが、ハートの体は、真上から降りかかった風をまともに受け、ボロボロだった。
次が、最後の攻撃かも知れない。そんなつもりで、俺はハートに告げるしかなかった。
「相手は、ウィザード。剣で戦っても、無理だと思う。だから、出せる限りの魔術で対抗するしかない」
マジックファイター。そのクラスは、魔術での攻撃も武器での攻撃もできる。
俺は、この時まで信じていた。
そう、ハートの表情が曇るのを見るまでは。
「私……、マジックファイターですが……、魔術使えないんです……」
「えっ……? ど、どういうことだよ……?」
マジックファイターなのに、魔術が使えないってどういうことなんだよおおおおおお!
ハート、マジックファイターじゃないのかよ!
ショックだ……。
クラスがマジックファイターだから、ただ一人バトルに出せたのに、そんなのないよ……!
俺は、クラスを「偽った」ハートを本気で怒ろうとしたんだ。
でも、その前にハートが涙声になった。
「だって……、セフィさん、私が魔術を使えるようになる前に、私の作品をエタらせたじゃないですか……」
……はい。
ハートが悪いんじゃなくて、俺が悪いってことじゃん。
たしかに、大勇者を目指しながら成長するという作品で、そのうちどこかで魔術も習得するという設定のはずだった。
けれど、その魔術を覚えさせる前にエタってしまえば、ハートは何も魔術を使えない存在でキャラハウスにやって来ることになる。
「ごめん……、ハート……。俺が怒っちゃいけないんだよな……」
「いいんです、セフィさん。『オリキャラオーダー』の中で、私が使える魔術を実装させてくれれば、私は本当にマジックファイターとして戦えますから」
だが、俺がハートの言葉に対する答えを考えようとする間に、ホワイトハリケーンの手が大きく開いたのが俺の目に映った。
「疾風砲撃!」
俺から目を反らしたハートが、とっさに右に逃げた。
だが、ハートの逃れた方向にも複数の爆風が襲い掛かる。
「うわああああああああああ!」
「ハート!」
ハート・ウィンゾール、BP0。戦闘不能。
バトル敗北。
地面に叩きつけられたままのハートが赤い光に飲み込まれていくのを、俺は近くで寄り添うこともできないまま、見つめるしかなかった。
ごめん……。全部、俺のせいだ……。
「俺のミッション、こんな形で終わるのか……」
トライブという、絶対的な剣士に支えられてここまで来た。
でも、このエネミーには剣士が使えない上に、魔術が使えないマジックファイターだけで戦うしかなかった。
結果、そのハートも★4ウィザードを倒せず、敗北。
というか、最後にアリスに答えて欲しいんだ。
「なんで、ミッションヘッドが★4ファイターなのに、★4ウィザードが出てくるんだよ……」
すると、最初のバトルのように、アリスがリモートで「ん?」と言いながら語り掛けてきた。
「私、ファイターがウィザードと戦えないとは言いました。
ファイターのオーダーがウィザードのオーダーに勝負を挑めないとも言いました」
「だろ。だから……、俺、このオーダーからウィザードを外したんだよ……」
「セフィさん、それは思い込みです。このミッションにファイターしか出てこないとは、一言も言ってません」
あ、たしかに言ってねぇな、アリス……。
つまり、たとえミッションヘッドがファイターだったとしても、暗黒騎士を守る立場のエネミーはファイターではないものも扱ってくる。
だから、オーダーを結成する時にそこを注意しないといけなかったんだ……。
それを言わないアリスもアリスだけど、ファイター以外のエネミーが出てくるか確認しない俺の方が100倍悪いんだよな。
とりあえず、初ミッションはここで終わり……。
「あれ……? そう言えば、俺、いつ消えるんだろう……」
さっき、ホワイトハリケーンに負けて全滅した女プレイヤー、俺の前で消えていったのに、全滅から3分以上経っている俺はどうして消えないんだ……。
しかも、エネミーも俺の前からいなくなってるし。
バグでも起こって、キャラハウスに帰れなくなったとかじゃないよな……。
「セフィさん。まだミッション終わりじゃないですよ。なに頭抱えてるんですか……!」
「アリス……?」
俺は、空から聞こえるアリスの声に誘われるように、思わず空を見上げた。
「セフィさんは、一人オーダーから除外されただけです。まだ二人残ってます」
「あっ、そうか。このバトルでトライブとソフィアが使えなかっただけなんだ!」
「そうですよ。だから、まだミッションをクリアできます! しかも、ウィザードのいるエネミーと会わずに」
「分かった。ありがとう」
終わったと思ったのに、終わってなかったんだ。
なんで、女剣士二人を残して終わったなんて言い出しちゃったんだろう、俺。
そうと分かったからには、ミッションヘッドまで突き進むしかない!