13 ファイターが使えない!
俺のオーダーに立て続けに二度も襲ってきたエネミーとのバトルも終わった。
同じ★4オーダー相手でも、俺のオーダーが負けるような感じではない。
だから、このミッション、エネミーさえ出てこなくなれば、あっさりと暗黒騎士を倒せるんじゃないか。
「てか、これから何度エネミーと戦わなきゃいけないんだろう……」
他のプレイヤーからバトルを見られているのは、さっきのバトルが始まる前に分かった。
一方で、他のプレイヤーがバトルしているシーンを、それほど見ていない。
俺が15分で二つ目のエネミーに襲われたんだから、フィールド上をたくさんのエネミーがウロウロしていてもおかしくないはずなのに。
てか、アクセスポイントのあった街で他のプレイヤーとイチャイチャやっていたように見えるチャラ男が、いつの間にか俺の前にいるわけだし。
クマよけの鈴じゃなくて、エネミーよけの鈴が欲しいよ。
あるいは、「エネミーが近寄らないスプレー」とか……。
一つのミッションに、そんな長い時間かけたくないんだから。
「セフィさ~ん」
気が付くと、俺の前にハートが立っていて、俺を見上げている。
「ハート。また出てきたんかよ」
「だって、さっきのエネミー、私だけ呼んでもらえなかったから、セフィさんに会えずに悲しかったです」
声はともかく、内容が少しキモくないか。
てか、俺に会う会わないで召喚してるわけじゃないような気がするんだが……。
だいいち、ハートを召喚できなかったのはランクの差よりもBPが3割くらいしか回復してなかったからだぞ。
「てか、俺に会える会えないはともかく、ダメージのほうは大丈夫かよ。さっきのバトル、そんな回復してなかったから」
「なんか、★1だと、バトルとバトルの間でもそんな回復しないみたいです……。ソフィアさんのほうが、回復速そうですし……」
ランクによって、そんなところまで変わるのか?
てか、安政にしてないといけないハートが、お祭り気分で出歩いてるだけじゃなくて?
で、肝心のハートのBPは、この時点で2094。
初期BPの3500から見れば6割ほどまで回復したことになるようだ。
「ハートのBP、やっと6割くらいか……。意外と時間かかるよな……」
「そうです。でも……、ソフィアさんがランクの高い相手に勝てたので、私だって不可能じゃないと思うんです!」
すげー前向きだな、ハート。
言葉遣いはさておいて、バトルに臨む姿勢はトライブとほぼ同じだぞ。
まぁ、俺がよく主人公にする「強い女」キャラが、だいたいトライブのコピーみたいな性格になってるっつーのもあるんだけどな。クリエイターとしてよろしくないことだが。
「どう? ハート、次のバトルで★4ファイターとか出てきたら、少しでも戦いたい? チェンジ前提で」
「……戦いたいです」
「分かった。なるべく今度は、ハートを召喚するようにするから」
こんなこと、やっていいのかな……。
金銭授受を伴ってはいないものの、バトル前に口約束してることには変わらないはず。
そこらへんルールで禁止されてるなんてのは、アリスから聞いてねぇけどな。
俺がぼんやりと考えている真横で、ハートの腕がまっすぐ伸びた。
「あっ! あのエネミー、★4って書いてある!」
「おいおいおいおい! こっちがエネミーを選ぶんじゃないんだぞ、ハート」
いくら★4と書いてあっても、そのエネミー、他のプレイヤーと戦ってるんだぞ。
茶髪の女プレイヤーと戦ってるじゃん……。プレイヤーがやられそうだけど。
そこまで確かめた俺が、次の瞬間真っ青になった。
「★4ウィザード……?」
さっきまで2戦連続でファイターだったけど、今度はウィザードかよ。
俺のオーダー、剣がメインだから、ウィザードが来られるとなかなか辛いんだよな。
なるべく、あのウィザードから離れた場所を歩こう。
ブラックルーフ鉱山を登り詰めないと、このミッション、終わらねぇからな。
だが、俺がその女プレイヤーから50メートルほど離れた場所を通った時、女プレイヤーが「負けた……」と言うのを耳にして、つい振り向いた。
ちょうど、プレイヤーが消える瞬間を見てしまった。
それどころか、さらに遠くで睨みつける、エネミーともばったり目が合ってしまった。
「やべっ……!」
俺は、早足で頂上へと続く上り坂を進もうとした。
だが、3秒も経たないうちに、エネミーが駆け足で上がってくる音が聞こえ、その音が大きくなる。
まるで、『逃〇中』のハンターだ。
そして、捕まった。
「ターゲットにされました」
さっきの場所から700メートルも進んでないのに、これで3度目のバトルか……。
「さっき、僕と目が合った。だから、君は僕の攻撃を受けてもらわないといけない」
エネミー:ふまじめ部下
オーダーランク:★4マジックファイター
オーダーヘッドはマジックファイターのようだが、やっぱりさっき俺が見た、ウィザードを召喚した男だ。
目が合ったから、俺のオーダーに攻撃を仕掛けたのか。
「あぁ。どんな攻撃が来ようとも、俺のオーダーはどんな強敵にだって打ち勝つさ!」
「それはどうかな。まず、オーダーヘッドの他に、僕といい勝負のできる★4キャラはいるかな?」
「ん……? オーダーヘッドの他に……?」
一瞬、俺は考えた。
いつものように、どんな状況だって最後はトライブが勝負を決めてくれるはずだぞ……。
「どういうことだよ。俺のオーダー、★4は最強女剣士だぞ!」
「つまり、★4ファイターだね。でも僕には、★4のウィザードだっているんだよ」
それは、さっき見たとおりだ。
俺の目の前で女プレイヤーを打ち負かしたほどの実力を持っている。
自信たっぷりに俺に告げるエネミーが、俺に一歩近づいた。
「もし、そのウィザードを僕が先に出してきたら、君はどうする……?」
――ファイターはウィザードをバトルで指名できない。逆も同じ。
しまった……!
トライブもソフィアも、★4ウィザードを指名できねぇってことじゃん!
とんでもねぇルールを思い出しちゃったじゃねぇか……!
「くそぅ……」
第1戦、第2戦ではほぼ強気でバトルに臨んでいたのとは比べ物にならないほど、お先真っ暗な展開に、俺は首を横に振るしかなかった。
「いないってことだね。もしかして、君、全員ファイター?」
「全員じゃないけど……」
「なら、僕の勝ちだね……。闇夜を駆ける風使い、召喚!」
エネミーが叫ぶと、その横で青い光が浮かび上がり、全身が白い服で覆われた、目がくらむような衣装の男が現れた。
さっき俺が遠目で見た、女プレイヤーを打ち負かした相手に間違いなかった。
「★4ウィザード、ホワイトハリケーン! BP6233!」
★4にしてはBPが低いのは、おそらく、ついさっきまでホワイトハリケーンがバトルをやっていたからだ。
それはともかくとして、既にホワイトハリケーンが手を前に伸ばして、軽い風を起こしてるんだけど。
そして、エネミーが勝ち誇ったように告げた。
「ターンエンド。お前のターンだ」
★4ウィザードとしか戦えないこの状況で出せるのは、クラスがファイターではない唯一のオリキャラしかいなかった。
というか、俺の前にうっすら見えてるキャラリストも、トライブとソフィアは網掛けになって見えないぞ。
とにかく、俺は選ぶしかなかった。
「未来の大勇者、召喚!」
俺が叫ぶと、青い光の中から茶髪のハートが浮かび上がり、早くもロングブレードを前に立った。
ソフィアもトライブもいない状況で、自分が立ち向かわければならないという強い意思さえ見せている。
ランクが三つも上だって、行けるかも知れない……。
「★1マジックファイター、ハート・ウィンゾール! BP2094!」