6 水槽に潜って
マリーは目を見開いた。
「ママの居場所?!」
と叫んだ。
「どうして?今ママはどこにいるの!」
「落ち着けよマリー。まだ近くにいるかもしれないじゃないか」
ハンリ―は何とかマリーをなだめようとしたが、マリーはそんなことはお構いなしにウィリアムに迫った。
「どこ?どこなの?」
するとウィリアムは目を輝かせて
「凄いぞ、ロンドンの住宅街だ」
と言った。
「街のどこにいるの?」
マリーが聞くと、ウィリアムは首を横に振る。
「どこかはまだわからない。だから探すんだったら、家を一つずつ見て回るしかない」
「おい、マリー、家に帰る気はないよな」
ハンリ―が心配そうにマリーの顔を覗き込んだ。
「もちろん、帰る気はないわ」
マリーはこくんとうなずく。
「ただ、どうして私を追い出したのか聞こうと思ってるだけ」
「それじゃあ、まさかロンドンに行く気なのか?」
ハンリ―が聞くと、マリーは
「そうよ」
と答えた。
「ママに会うのよ。あの人の腰を抜かしてやるわ」
そう意気揚々と拳を握った後、かくっと首をかしげて
「何で移動するのかしら」
とつぶやいた。
「車か何か?」
「水槽だ」
ハンリ―が急に言うので、マリーは驚いてオウム返しした。
「え?水槽?」
すると、ハンリ―がマリーに説明をしてくれた。
「水槽の中に入ってから、行きたい場所を念じるんだ。しばらく間を置いてから水面に顔を出す。そしたらロンドンに到着さ!でも出る場所は決まってて、水槽の出入り口用の小屋なんだ。まあ、ヒューマン(普通の人間)には気づかれないけどね」
ヒューマンとは普通の人間のことを言い、ウィザードヒューマンが魔法使いのことを言う。
マリーが
「じゃあ水槽があるのね」
と言った。
「もちろんさ。今すぐ用意出来るよ。ちょっと待っててくれ」
ハンリ―はそう言って、部屋の奥に行ってしまった。
しばらくすると、ハンリ―が大きな水が入った水槽を押してきた。よく見ると下にはタイヤが付いていた。
「よし、準備出来たぜ。親父、お袋を呼んで来いよ。家族みんなで行こう」
「ということは、メアリーも行くのね?」
マリーが言った。
メアリーはもう十一歳になっていた。前ほど騒ぐことはなくなったし、ウィザードヒューマンについての勉強もするようになった。
「ああ、メアリーもだ。勉強にもなるだろ?」
さ、入ろうとハンリ―は言って、水槽の中の冷たい水に浸かった。
そしてメアリーとサレンも合流した。
「ママ、早く!」
メアリーはそう言って、じゃぼんと水の中に入った。
そして人が入るごとに水槽は大きくなっていき、全員が入ってもちょうどよいくらいになった。
マリーも最後に水槽に入る。ハンリ―に助けてもらいながら、少し不慣れな形で水槽の水に浸かった。
「行くわよ」
マリーが言った。そして、家族全員一斉に水面の中へと身を沈ませ、消えていったのだ。
水槽には、水以外何も入っていなかった。
先程まで人が入っていたことを示すように、水面が揺れているだけだった。