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ルリとレンさんが、私の前に立ち戦闘態勢に入る。
「あっ、二人とも待って」
私はその集団へ向かって駆け出す。見間違えるはずもない、頼もしいその姿。
「アダム隊長!」
向こうから来たのは、獣人たちの集団だ。
先頭にいるのは虎の獣人のアダム隊長。
一個隊の隊長だけれど、正当な評価をされていれば、将軍クラスの実力だと私は思っている。
「どうしてここに?」
「水臭いじゃないか、姫さん。俺たちは姫さんに忠誠を誓って戦ってきたんだ」
王城内での礼儀をわきまえた言葉遣いに対し、素の言葉遣いのアダム隊長。
アダム隊長の渋い声で「姫さん」と呼ばれるの、好きだ。
「アダム隊長……でも、私は」
「砂漠の国は、獣人を差別しない。そこの使者殿がそれを証明している。……違うか?」
ここにいる人たちは、みんな獣人であるという理由だけで正当な評価をされていない。
でも、どう考えてもグリフィス国王の許可を得たとも思えない。
勝手に抜け出てきて、もしも捕まってしまったら……。
「まさか姫さんは俺らの心配をしているのか? ……どちらにしろ、姫さんが居なければあの国では奴隷のような扱いだ」
たしかに、アダム隊長が言うことは事実でしかない。今まで援助してきた、獣人族の孤児たちも……。一緒に全員連れてきたかった。
「――――そうだとしても、私が砂漠の国で受け入れられるかなんて分からないのに」
追い返されてしまうかもしれないし、もしかしたら人質のような扱いかもしれない。
第十六王子の側妃くらいの、いても居なくても関係ないような位置づけかもしれないし。
あれ? ……むしろそのポジション美味しい。
「姫さんなら大丈夫だ。まあ、もしダメなら俺と冒険者になればいい」
獣人たちとパーティーを組んで、冒険者の回復要員として生きていく。
それはものすごく素敵な提案に思えた。
「――だ、ダメです」
そこに割り込む少し慌てたような声。
いつのまにか私たちの間にレンさんが割り込んでいた。目の前に割り込まれるまで気配が感じられなかった。アダム隊長すら瞠目している。
「我が姫は、砂漠の国で王太子妃になるんです! だから、あなたと冒険者にはなりません」
「んん? あんた、腕が立つな。それにそんな必死になるなんて」
長い尻尾を振りながらニヤリと笑うアダム隊長。
尻尾と耳をピンと立てたレンさん。
桃源郷かここは。
まあ、使者であるレンさんが私を連れて行かなければ、お咎めがあるかもしれない。まずは、砂漠の国で王子様に会ってから決めよう。
それにしても王子様と思っていたら、王太子……? 砂漠の国だし第十六王子くらいかと勝手に思ってた。聞いていない。ああ、もしかして八番目の側妃候補とかなのかな?
特に役割ないなら聖女として活動しながらスローライフできないかな? 砂漠の国で、知識チートで一財産稼いじゃおうかな?
そんなことを思いながら勝手に私は納得した。うん、ベストポジション。
この時、レンさんを問い詰めて真実を確認しなかったことを後で後悔するなんて、この時の私は知らなかった。
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