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時は少し前にさかのぼる。
「亜人の分際で姫を拐かそうとは!」
貴族人族至上主義の第一騎士団長が、砂漠の国の使者、レンさんに斬りかかる。誰もそれを止めようともしない。
「やめなさい! 戦争を起こす気ですか」
私は、レンさんの前に走りこんで、光魔法の障壁を張った。
硬質な音を立てて、第一騎士団長の剣が障壁に弾かれる。
第一騎士団長は、公爵家の人間。確かに、剣の腕は高いけれど一流とまではいかない。何とか防ぎきることができてホッとする。
私が全力で庇ったおかげでレンさんには傷一つない。
こんなの国際問題だ。
レンさんの腕なら返り討ちだって簡単だろう。でも、使者に騎士団長が返り討ちにされたとしても国際問題だよ!?
さすがに、騎士団長を斬られてしまえば私もレンさんの側に立つことはできない。
アダム隊長とレンさんを戦わせたくない。
そういえば、シナリオ通りならこの事件がきっかけで、砂漠の国と戦争が起こる。
でも、画面上の使者は獣人ではなかった気がする。どこかでシナリオが変わったのだろうか。
私個人的には、犬耳の使者とかポイント高すぎるけれど、私が立てていた予定が大幅に狂ったのも事実で……。
ちなみに、乙女ゲームでは使者を斬るよう命じたのが、悪徳聖女シエラだった。
乙女ゲームの方の私とは仲良くなれそうもない。
慌てて私の傍に来たアダム隊長が「姫に刃を向けるとは何事か!」と間に入ってくれて事なきを得たけれど。
「下がりなさい」
「……獣人の肩を持つ、愚かな聖女が」
そう言って、第一騎士団長が冷たい瞳で私に侮蔑の言葉を投げかけて去っていく。
この出来事で、私の追放が確定したらしい。
王女に向かって不敬を働いたとしても、獣人を庇った王女に手を差しのべる人間はいない。
私はこの国に完全に見切りをつけた。
ざまぁして、やろうじゃないの。
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広大な砂漠の向こうにあるオアシスに王都を持つ、砂漠の国ラビアン。
レンさんとは、さすがに別の天幕だけれどたき火を囲んで会話を楽しむ。
侍女のルリが、猫の特性を生かして気配を消して私の後ろに控えている。夜目がきく猫族の獣人は夜間の戦闘にとても有利だ。
「……そういえば、なぜあなたが使者に選ばれたの? この国では獣人の差別が強いなんて有名だったでしょうに」
「……それは」
「――――砂漠の国は、わざと使者を殺させて、戦争を起こそうとした?」
私はずっと気になっていたことを聞いてみる。
乙女ゲームでは、使者が斬られてしまったことを理由に、私の国と砂漠の国の間で戦争が起こるのだ。
聖女であるヒロインが、悪徳聖女シエラを断罪するまでその戦争は続く。
それにもうひとつ、ヒロインは何か砂漠の国にあった問題を解決したような気がした。
残念なことに「そこ大事!」と思う部分に限って靄がかかったように思い出せない。
レンさんが、私の手を掴んで真剣な瞳で見つめる。ヘーゼルナッツのような澄んだ瞳に見つめられ、何故か私は体温が高まるのを感じた。
「それは違います!我が国にはどうしても、聖女様の力が必要だから。それに……」
「……違うならいいの。あなたみたいな優秀な人を犠牲にできる王子様とは、仲良く出来ないかもしれないって不安になっただけだから」
「優秀……などと」
目を逸らしたレンさんの頬が少しだけ赤い。
それを見た私も、何故か耳が熱くなる。
二人で見つめ合っていると、急に瞳を厳しくしたレンさんが私を庇うように前に出た。同時に、護衛も兼ねている侍女のルリも、私の背後を守るように立つ。
向こうから砂埃を上げながらラクダに乗った集団が近づいてきた。
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