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 * * *



 言うまでもなくレン様は、武芸にも政務にも秀でていて有能だ。でも、それら全ては努力で支えられているのだと、近くにいれば思い知らされる。


 多分ほとんどの人たちは、レン様の能力は、持って生まれたものだと思っているに違いない。


「シエラ? こんなの参加して楽しい?」


 レン様の朝は、基礎訓練から始まる。レン様はいつも騎士たちが起きるよりもずっと早くから鍛錬している。


 いつのまにか、レン様の鍛錬にアダム隊長改め将軍が加わった。異例の人事に周囲からは反対の声が起こったものの、アダム将軍は全ての反対意見を物理的に叩き伏せ、その実力を認めさせた。


 ついでとばかりに、なぜかレン様と一騎討ちしていたけれど、勝負は引き分けになった。


 まあ、アダム将軍が誰よりも軍人として高い統率力と実力を持っているのはわかっていたから驚きはしなかったけれど。


「楽しいです!」


 私も日々、鍛錬しているうちに、少しは強くなったような気がする。聖女が戦うなんてとんでもないと、グリフィス王国では剣を握らせてもらえなかった。


 そして私の隣では、侍女兼護衛の猫獣人のルリがレン様に教えを乞うている。


 猫獣人独特の身のこなしは、諜報活動にも斥候にも役に立つらしい。羨ましい。


「王太子殿下は素晴らしく強いです。やはりシエラ様の見る目は確かです!」


 ルリはことあるごとに褒めてくれる、クリクリとした茶色の瞳が私を見つめる。可愛い。そばにいてくれるだけでも充分なのに、侍女としても護衛としても有能なんて、素晴らしい。


「そろそろ、講師の先生と約束がありますので失礼します」


 この後は、ラビアン王国の伝承について学ぶ予定だ。もともと、歴史が大好きな私としては王族が学ぶ伝承なんて、猛烈に興味深い。


「頑張りすぎていない?」


 犬耳がペタリとしているレン様。今までの生活を思えば、ぬるすぎるくらいなのに。


「大丈夫ですよ。レン様こそ頑張りすぎではないですか?」

「まだ、足りないと思ってるくらいだから」


 そう言いながら、犬耳がペタリとしているのが気になる。少し休んでもらいたい。


「――――あとでレン様とお茶がしたいです。お時間取れそうですか?」


 その瞬間、レン様の尻尾がパタッと揺れた。ペタンとなっていた耳も元通りだ。心なしかその表情も嬉しそうだ。


 感情の変化が分かりやすいレン様。でも、王族としてこんなに分かりやすくて大丈夫なのだろうか?指摘した方が良いだろうか。


 個人的には指摘してしまうのはもったいないのだけれど。レン様が心配だ。


「そんな心配そうな顔しなくても、王太子殿は切り替えていると思うぞ?」

「まあ、そうですよね」


 流石に、感情をそんなに簡単に読み取られたら、王族として生きていけないだろう。


 私は、これからも耳と尻尾を愛でるため、あえて指摘はしないことに決めた。


 

最後までご覧いただきありがとうございました。

誤字報告ありがとうございます。


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