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04.そんなことが起きてましたのね

 アル兄様から聞いた話が予想外すぎて、間抜けな受け答えをしました。貴族令嬢らしからぬ反応ですが、彼も気にする余裕はなさそうです。


「謝罪もせずに僕を追いかけ回して注意され、アーサー王子殿下に「ヘンリー様と会わせて」とお願いして終わり」


「……アル兄様、途中を省きすぎよ」


 意味がわからないわ。いくら宮廷医師であっても、雑談をするなら扉を開けておく。診察中は侍女が同席し、絶対に2人きりにならないよう注意していた。


「同席するぞ」


 それでも心配するお兄様がベッドの端に腰掛け、私の髪をさらりと撫でる。男女の噂を潰す、お兄様の同席は助かります。


「何の話をしていたの?」


 甘い眼差しで頬に手を滑らせるタイミングは完璧です。さすが一二を争う人気者だけのことはありますが、私は妹ですのよ? それも双子でばっちり血が繋がっていますから、色気を振り撒かれるのは困りますわ。


「ピンクの話だよ」


 口調の砕けたアル兄様は、侍女が運んできたお茶をぐいっと飲み干した。マナー違反ですが、まあ見なかったことにしましょう。お兄様と顔を見合わせて笑いました。


「ああ、あの失礼な男爵令嬢だね」


「失礼? 非礼の間違いだろ」


 礼儀を知らないと断言するアル兄様は、まるで吐き捨てるような口調でした。よほど酷い目に遭ったのでしょう。そういえば、先ほど追い回されたとか。


「何がありましたの?」


「まず第二王子殿下を「アーサー様」と呼んで、人前で腕を組んだり胸を押し付けたり、抱きついた」


「浮気ですわね」


 まぁ……知らなかったわ。やっぱり先に卒業して正解でした。そんな非常識な男爵令嬢なら、私は絶対に注意したと思います。きっと「意地悪を言われた。虐められた」と悪者にされたでしょう。


「セラには辛い話でごめんね」


 謝るお兄様に、私は明るい表情で首を横に振りました。お気になさらず。巻き込まれずに済んで、ほっとしておりますから。


「元婚約者の話ですし、私は政略結婚の相手に惚れるほど情熱的ではありませんわ」


 遠回しに、政略結婚だから我慢したけど惚れる要素がない王子と言い切る。情熱的ではないと自分を否定したところで、貴族階級の皆様は真意を汲み取ると思いますけれど。


「それをあの王子殿下は許してしまってね。貴族階級が崩壊すると大騒ぎになったんだ」


 くすくす笑いながらお兄様が続きを教えてくれました。貴族令息や令嬢にとって、学院は社交界の演習を兼ねています。よくある乙女ゲームなら「学院にいる間の学生に身分制度は適用されない」なんてご都合主義が適用されますが、現実社会は違いました。


 非難されるたび、第二王子殿下が庇う。繰り返される状況に教師も頭を抱え、王太子殿下に相談が届いたのは当然でしょう。兄上様に注意され、さぞ不貞腐れたと思われますが、なんとピンクのヒロインに慰められたそうです。あなたが言うな! という状況ですね。


「僕は攻略対象と呼ばれて追い回された」


「それなら僕もだ」


 アル兄様とお兄様は、『満開の花が咲く丘』でも人気が高い。ヒロインとしては是非落としたかったでしょうね。嫌そうな顔をするお二人の様子から、手酷く振ったのは間違いなさそう。


「なんて断りましたの?」


「僕は公爵家の跡取りだ。君と話すことは僕の名誉を地に落とす、と言ってやった」


 さすがはお兄様。とりつく島もないとは、この返答を示す諺でしょう。ヒロインに話しかけるな、虫唾が走ると言い放ったんですね。


 微笑みながら「まぁ」と相槌を打つと、お兄様は少し得意げに笑ってくださいました。


「僕はもっと端的だよ。嫌いだ、近づくな、だけさ」


 直球なだけに、ゲーム脳のお馬鹿ヒロインにも通じたと思います。では情けなくも落とされた攻略対象は、アーサー第二王子殿下だけなの?

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