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02.今は放っておいて

 視線が集まる。貴族の興味本位な視線と、心配するお兄様やヘンリー様達の眼差し。何を言うか息を飲んで緊迫する当事者……私が対処しなければならない状況ではありませんわ。婚約解約の理由もありませんし、この場面で私を断罪するヒロイン不在なのも納得できません。


「私……あっ」


 逃げるが勝ち。ここは失神するのが淑女らしいのではなくて? もちろんフリですわ。隣のお兄様が受け止めるのも間に合う距離……ふらっと後ろに倒れた私は、ゴンという情け容赦ない音で本当に昏倒しました。






 ベッドの中で目覚めてすぐ「ここは?」と尋ねるほど、世間知らずでもありません。薄目を開けて人の有無を確認し、耳をよく澄ませた。部屋にいた侍女が動く気配はあるものの、薄目で確認した範囲では天蓋のレースが下りています。


 これでも公爵令嬢なので、当然の配慮よ。いくら女性だけの状況でも、未婚の淑女の寝顔を晒したら殴るから。気づかれないよう注意を払い、痛む頭を探った。あらやだ、大きなコブが……。額や頬じゃなくて良かったけど。


 お兄様ったら、まさか支え損なったの? 鍛えていると普段から豪語するくせに、肝心な時に役に立たないなんて、もうっ! 痛みも手伝って、少し言葉や考えが荒れている自覚はあります。プライドが傷つくだろうから、お兄様に言うのは我慢しましょう。


 このベッドが私の寝室ではないことを考えると、王宮内の客間――おかしいわね。こんな設定あったかしら?


 私、セラフィーナ・ラファエル・スプリングフィールドは、乙女ゲーム『満開の花が咲く丘』の悪役令嬢だ。定番のお話は攻略対象4人をクリアしていく、ありきたりなもの。最後に隠しキャラが1人増えたっけ。


 男爵令嬢のヒロインが、悪役令嬢達に虐められながらも幸せを掴む! よくある普通のゲームなのに人気が高かったのは、神絵師と呼ばれる方がイケメンを量産してた影響ね。スチルと呼ばれる絵がとにかく美しかったの。


 私は前世にそのゲームにハマり、隠しスチル探しに夢中になった。友人と一緒に隠されたルートがないか探り、あらゆる選択肢を試す日々。死因は日向ぼっこ中の交通事故――庭で愛猫を膝に乗せて惚ける日曜日のお昼過ぎ、うとうとしていたら塀を突き破ったトラックに轢かれた。


 何も他人の家に飛び込んでまで轢かなくてもいいじゃない? 目が覚めた私の最初の呟きだけど、赤ちゃんの「あぶぅ」に変わっていた。この時点で悪役令嬢セラフィーナに生まれたことを知り、私は決意したの。


 絶対にヒロインとは絡まない、と。そのため5歳から必死で勉強し、飛び級で学院を卒業した。私が卒業した年に、ヒロインが入学した筈よ。


 侍女に気づかれないよう、私は寝返りを打った。おかしい。ヒロインがいないのに婚約破棄、ならぬ解消が行われた。まあ虐めるどころか接点がないんだから、断罪シーンは省かれたのかも。でも婚約破棄にはヒロインが、浮気王子の横にいるべきよね。


 生まれた時から私なので、セラフィーナの魂がどこにいるかわからないけど、公爵令嬢の器が空っぽで提供されるのも変だわ。


 攻略対象は隠しキャラを入れて5人。お兄様、アーサー第二王子、隣国の王太子イアン、隠しキャラの王太子ヘンリー。あら? 誰か忘れてる。唸っていた私は、天蓋が開く音に気づくのが遅れた。


「え?」


「起きてましたね」


 寝たフリがバレた居心地の悪さと、寝起きの顔を見られたバツの悪さに、上掛けを引っ張って潜り込む。その上からぽんぽんと軽く叩かれた。


「ほら、起きて。セラ」


 従兄弟のアルバート、思い出した! 最後の攻略キャラは彼だったわ。侯爵家の跡取りで宰相の息子、医者の資格を持ってる。宮廷医師として務める傍ら、ヒロインの相談役を……なるほど。これで全員揃ったってわけね。


「アル兄様、うるさい」


「頭のコブ、治療したのは僕なのにね」


 文句を言われてちらりと顔を出し、ありがとうと礼を言って引っ込む。大人げないけど、今は放っておいて。

*******************

宣伝です。


【今度こそ幸せを掴みます! ~大切だったあなたから死の宣告を受けたこと、忘れませんわ~】

「首を刎ねよ」

 大切な婚約者の冷えた声。愛を囁いた唇が紡ぐ、死の宣告に項垂れた。もう助けてと叫ぶ気力もない。冤罪と知ってなお、あなたは別の女性を選んだ。

 偉大なる神カオスに最期の祈りを捧げた私は、愛する家族の前で首を落とされ――目覚めたのは6歳の私。

 今度こそ幸せになります!!




【彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ】

「貴様のような下賤な魔女が、のうのうと我が妻の座を狙い画策するなど! 恥を知れ」

 味方のない夜会で、婚約者に罵られた少女の毅然とした横顔。

 欲しい――理性ではなく感情で心が埋め尽くされた。愚かな王太子からこの子を奪って、傷ついた心を癒したい。僕だけを見て、僕の声だけ聞いて、僕への愛だけ口にしてくれたら……さあ、この手に堕ちておいで。


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