18.残り物件は訳あり
咀嚼した桃を飲み込み、ほっと一息ついてから紅茶を口に運びます。その間ずっと緊迫した様子で、私の発言を待つ家族に向き直りました。
「イアン王太子殿下は」
ごくりと皆が喉を鳴らします。生唾を飲み込む音って、結構響くんですのね。
「リアルお人形遊びが大好きなんですの」
「はぁ?」
「人形……」
「つまり?」
理解できなかったお父様とお兄様、眉を顰めるお母様。この国では淑女の鑑とされるお母様は、情報通です。何か思い当たることがあったようですね。眉を寄せたあと、大きく息を吐き出しました。
「殿下はよいお年になっても『お人形遊び』が大好きで、『様々な女性にドレスをプレゼントする』と聞いたことがあります。女性遊びが激しいと捉えていましたが、文字通り受け取ればよかったのですね」
「着せ替え人形がお好きなのですわ。以前にコレクションの一部を見せていただきました。その際に褒めてしまったので、趣味を理解してくれるとお考えなのです。リアルお人形として、私で着せ替えをしたいと仰っていました」
しんと場が静まり返った。お父様は我に返ったように果物に手を伸ばし、お兄様は動揺も露わに紅茶に蜂蜜を入れます。普段はお使いにならないのにね。
実害はないのだが、なんとも困る趣味です。いえ、着せ替え人形になれば実害はあるでしょうが……着飾ることがお好きなご令嬢をお迎えしたらいいと思います。宝石でもドレスでも、望むだけ購入してくれそうですもの。趣味を否定されると激怒しますので、そこだけ要注意でしょうか。
ちなみに女性にプレゼントするドレスが、王太子殿下のデザインなのは言うまでもありません。あの方、意外な才能をお持ちでした。いっそ王太子の地位を降りて、デザイナーになられた方が幸せなのでは?
「……結局、良い物件は残っていないのだな」
「売れ残って申し訳ないですわ」
うふふと口元を押さえて笑えば、お父様は複雑そうにしながらも微笑んでくださいました。
「まあ、可愛い娘がずっと居てくれるのも、父としては幸せだが」
「僕は大歓迎です」
お兄様はお嫁さんをもらわないといけません。小姑が残るのは、お嫁さんに気が引けますね。どこか別邸か領地内の使ってないお屋敷をいただきましょう。
「お客様がお見えです。精霊王と名乗っておられますが」
侍女がそっと声をかける。執事が客間に案内しているというので、最後の客人と対面すべく屋敷を再び移動します。靴を履き替えるのを忘れました。靴擦れが出来て、少し痛いです。
「お待たせしました」
部屋に入った私は驚いて目を見開きました。あら、増えていらっしゃる? いえ、見覚えのある方ばかりなのですが……。
「すまない、押しかけてしまった」
詫びるのは魔王陛下で、お隣で竜帝陛下もぺこりと頭を下げます。彼らの斜め前に立つ精霊王様が微笑んで一礼しました。
共同戦線でしょうか。理解できない状況に、曖昧な笑みを浮かべて会釈しました。
「提案がある」
そう切り出した精霊王様の真剣な眼差しに、椅子を勧めるのも忘れて立ったまま「どうぞ、お話になって」と応じてしまいました。淑女失格です。




