14.予約優先です
かちゃ、侍女が運んできたお茶のカップが軽く音を立てます。隣に並んだお茶菓子は焼き菓子と果物でした。そういえば、朝食のデザートのヨーグルトを食べ忘れていますね。
代わりに果物を引き寄せると、嬉しそうな兄が「あーん」を要求しました。フォークに刺した大きめの梨を容赦なく突っ込みます。これでしばらく話せませんね。
「……考えてみたのだが、やはり紫水晶の乙女に関係なく、そなたを嫁にもらいたい」
「お断りします」
「頷いてくれるまで通おう。それまで、これを愛の証に」
「ちょ……っ、何をなさいます!」
危うく「何しやがる」と叫ぶところでした。そんな粗雑な言葉、淑女失格の烙印を押されますわ。手に触れることもなく、右手首にアメジストのブレスレットが嵌っていました。指輪なら大事件ですが、いえ……腕輪も問題ありますね。
「外してください」
引っ張っても取れないので、早々に諦めて魔王陛下にお願いしてみる。この辺の切り替えは早いのが私です。
「セラフィーナ嬢が婚姻するまで外れぬ」
「婚姻相手に関わらず、ですか?」
「そうだ」
つまり魔王陛下と結婚しなくても、誰かと結婚すれば外れるのですね。うーんと唸りますが、ここは妥協しましょう。この後も予定が詰まっておりますので、あまり長居されても困ります。
「一時的にお預かりしますわ。でも結婚相手は私が決めます」
「わかった。また明日伺おう」
「「「え?」」」
お父様達とハモってしまいました。お兄様はやっと梨を飲み込むところです。優雅に立ち上がり、マントを揺らした魔王陛下はその場で消えました。よくある「どろん」の煙もなく、まるでいなかったように姿がなくなったのです。
「さすが魔王陛下」
「これが魔法なら便利だ」
「危険です」
さまざまな感想が飛び交う中、私は時計を確認しました。まだ時間はありそうです。行儀悪いですが、指先で梨を摘んで口に放り込みました。
もぐもぐと口を動かす間に、侍女が皿を片付けます。間に合ってよかった。朝のデザート抜きは気分が落ち込みます。これから疲れることが待っているのに……。
「第一王子殿下ヘンリー様がお見えです」
「「なんで(よ)」」
お兄様と重なった文句ですが、すぐに理由に思い当たりました。もしかして、第二王子のオスカー様を回収に来られたのでは?
攻略対象の中で、私とくっつく可能性がないのは婚約者ソフィア様と仲のいいヘンリー様くらい。あとはお兄様ですが、こちらは溺愛しても実の兄ですからあり得ません。アル兄様も事実上対象外ですね。
あら、意外と少ない。あっという間に半分以下です。悪役令嬢と位置付けられた割りに、結婚相手が限られるのはどうしてでしょう。
「アーサー王子殿下をお渡しして、引き上げていただきましょう。本日は予約優先です」
私の宣言は、まるで人気の繁盛店の店主のようですが、間違っていません。大きく頷いた家族と侍従達によって、第二王子アーサー様は兄上に引き渡されました。
来た時よりズタボロになってるですって? 私は知りませんわ。




