11.成仏なさってください
食事中にお兄様と私で手短に状況を説明します。早朝から慌ただしい理由も、理解していただけました。問題があるとすれば、お父様の怒りが収まらなかったこと……でしょうか。
「まず王家は潰す。第二王子はミンチにして荒れ地に撒いてくれるわ」
まあ、魔王陛下が言いそうなお言葉ですこと。あらいけない。もうすっかり日が昇ったではありませんか。侍女を手招きして、来客予定を伝えます。茶菓子やお茶の種類は、私の好みに合わせて構わないでしょう。反論は受け付けませんわ。これでも悪役令嬢ですもの!
「お兄様、お父様の説得はお任せします」
「僕としては父上を止めずに、同行したいんだが」
「おやめください。王家を潰した後、誰がこの国の面倒を見るのですか?」
「「なるほど」」
怒りに任せて王族を排除するのは簡単ですが、その後の面倒ごとがすべて我が家に降りかかるのですよ? 各貴族家の揉め事や、他国との交渉から始まり……民の不平不満を抑え、税額を調整する。考えるだけでぞっとしますわ。そのうえ、王族だから我慢を強いられるのです。
現在時点で我慢を強いられてないとは言いませんが、今より対処する問題が増える事態は憂慮しなくてはなりません。しっかり現実を突きつけ、短慮で動かないようお父様とお兄様の手綱を握ります。お母様がいらっしゃれば、こんな苦労は……。
「お父様、お母様はどうなさいましたの?」
「一緒に行こうと暴れるので、ちょっと……閉じ込めてきた。あと馬の鞍も隠したが」
間違いなく、裸馬に跨って向かってると思われる案件です。どうしましょう、淑女の鑑として知られるお母様ですが、実はかなりお転婆だった過去をお持ちですの。裸馬を乗りこなす流浪の民の出身ですが……お父様の対応はまずかったですね。
怒り心頭でかっとんで来る……あ、玄関のベルが取れそうな勢いで鳴らされてます。これは確実に魔王陛下ではなくお母様です。怯えるお父様を放置し、私は足早に玄関へ向かいました。
「お母様……っ」
「よかった。無事ね……あの人はどこ?」
抱き締められ、軽くぼきっと音がしました。力加減が調整出来ておりませんわよ、お母様。痛む肩を撫でながら、お母様にも手短に事情を説明しました。足元がかつかつと高い音を立てるのは、足早に歩く私達の靴音です。お母様が各部屋を隈なく確認するのを、必死に追いかけました。
かつ……靴音が止まります。はあはあと肩で息をする私は、運動不足を感じておりました。鍛え直した方がいいかも知れません。朝からいい運動ですね、大量の汗が額を伝います。もう一度着替えないとダメかしら。
「いたわ」
にやりと笑うお母様は、整った顔が般若のように変化しました。この世界だと悪魔に憑りつかれたと表現すべきでしょう。奥の部屋で震えるお父様に歩み寄り、胸倉を掴みます。身長はお母様の方が低いのですが、怯えて背を丸めたお父様が引きずられました。
「お、穏便に……」
勇気を振り絞ったお兄様ですが、ぎろりと睨んだお母様の眼差しにすごすご退散です。お父様、成仏なさってくださいませ。両手を合わせて、祈るというより拝みました。




