10.悪女っぽいですわね
「精霊王ユリシーズだよ、僕の精霊姫」
「世界違いですわ」
人違いを通り越して、世界が混線しています。これって運営のミスでは!? 悪役令嬢らしからぬ私の行動で話が脱線するのは分かりますけど、よその話が混入したら収集がつかなくなりますわよ!
キョトンとした顔の精霊王をそっちのけで、私は心の中で絶叫しました。もちろん、この世界でいう神であるはずの運営は返事もしません。バグ修正をサボるおつもりね。
なら、私が好きにしますわよ? これだけのイケメンが並んでる状況で、乙女ゲーム大好きな私が暴走したら、責任持てませんからね。
……最優先すべきはこれです。
「私、眠りますので明日にしてくださいます? 魔王陛下は午前中、その後に竜帝陛下でしたわね。時間が余れば、その後に精霊王様のお話を伺いしますわ。ではご機嫌よう」
微笑んで、手でしっしと彼らを追い出す。魔王陛下はしょんぼり出ていくし、精霊王は絶句したまま外へ引き摺り出されました。翌朝聞いた話では、屋敷の上空をドラゴンが飛んでいたとかいないとか。
何にしろ、私は眠いのです。頭のコブが痛いし、休まないと回復できません。心配そうに私をベッドに横たえたお兄様は、朝まで寝ずの番をしてくださいました。
おかげで私はすっきりと目覚め、朝一番に自分によく似た双子の兄の隈が残る微笑みを拝見しました。美形は陰があっても素敵ですのね。自画自賛ではありませんので悪しからず。
魔王陛下が何時にいらっしゃるか、確認し忘れました。直前でもいいので先触れをくださると助かります。そんなことを考えながら、夜明け直後の部屋で着替えを行います。頭のコブはまだ少し痛いですが、触らなければ平気になりました。侍女も気を遣って、髪型をハーフアップにしてくれましたので、楽です。
お兄様と一緒に朝食を食べているところに、駆け込んできたのは執事でした。
「大変です! 若様、お嬢様」
「もう来られたの?」
魔王陛下、やっぱり早かったのね。非常識なくらいよ。朝日が顔を覗かせ始めたばかりなのに。そういえば、魔族って陽光の下でも平気だったかしら。魔王陛下が面会の時間変更を要請なさらなかったんだから、問題ないわね、たぶん。
「旦那様がお戻りに……」
「なんですって?」
「用件から先に言え」
大変ですは用件ではありませんもの。お兄様、正しいです。大急ぎで食べていたパンを皿に戻し、立ち上がりました。お兄様のエスコートで玄関へ向かうと、凄い勢いでお父様が走ってきます。ちょっと怖いですわ。
「セラっ! 婚約破棄と求婚と、生贄の指名は本当か」
あらあら。情報が錯綜しております。こちらも混線ですか。普段はダンディなお父様が髪を振り乱し、胸元のボタンを2つも外して、ワイルドになってます。
「父上、領地におられたのでは」
「早馬があった! それに嫌な予感がして途中まで帰っておったのだ」
野生のカンと呼んだら失礼かしら。お父様の嗅覚、いえ直感は侮れませんでした。落ち着いていただくのと、私の食事を優先しましょう。
「お父様、お食事しながらお話ししますわ」
「こんな夜明けに食事か? そうか、辛くて眠れなかったのだな、かわいそうに。いますぐ王子の首を刎ねて」
「お父様。話を聞いてくださいませ」
強い口調で言い聞かせると、しょんぼりした様子で肩を落としてしまいました。お兄様の手を離し、お父様と腕を組みます。それだけで機嫌が直るのですから、お父様はちょろいですわ。
あら、私――悪女っぽいですわね。




