追憶に駆ける
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ありがとうございます。
目を覚ますと見知らぬ場所。
直ぐに保健室のベッドで寝ていたのを思い出す。
隣には藍里がまだ寝息を立てていた。
『本当に綺麗になったなぁ』
最初あったときは短髪だった。だからって、
男の子と勘違いしていた自分が恥ずかしい。
藍里の寝顔を眺めながら
出会った頃のことを思い出し始めてていた―――
―――あれは父さんがいなくなった年だった。
母さんに連れられて
昨日、引っ越してきた人達の所へ挨拶に向う。
チャイムを鳴らして出てきたのは
綺麗な金色の髪をした男の子?だった。
「美月さん、こんにちは」
「こんにちは藍里ちゃん」
挨拶を交わした二人はもう、すでに知り合いのようで
父さんのことがあってから、少しピリピリしていた
母さんが笑顔を見せていた。
「母さん、この子は?」
僕は珍しい髪と瞳の子を遠慮なしに眺めて言った。
「昨日、引っ越してきた『白川藍里』ちゃんよ
まだ、来たばかりで、
知らない事も多くて困る時もあるはずだから
『暁斗』もちゃんと助けてあげてね」
母さんに言われるまでもなく、困った人がいれば
助けるのは当然だ。
だから目の前の不思議な雰囲気の藍里って子が
困っているのなら助けようと思った。
「当たり前だよ、僕は『朝比奈暁斗』よろしくね!」
僕は自己紹介をして、戸惑う藍里の手を握り
半ば無理矢理握手をした。
「これで僕達友達だよ、いつでも頼っていいからね」
少し強引に友達にしたが
藍里も満更でもない表情に見えた。
母さんは、藍里の父さんと話があるからと
奥のリビングで話し始めた。
大人の会話は退屈なので
ここぞとばかりに藍里を遊びに誘う。
僕の突然の提案に藍里は困惑して
助けを求めるように視線をリビングにむけた。
残念ながら藍里の父さんは話に集中していて
藍里の視線に気付いていなかった。
僕は先手を打って、母さんに藍里を連れて
ご近所を案内してくからと、またしても
強引に藍里の手を引いて外に連れ出した。
まずは、近所の公園の場所を教えて
次にお菓子とか玩具を売ってるお店。
他に学校で使う物が売ってる文房具屋さん
後は漫画が売ってる本屋さんとか
主要な場所は一通り教えていった。
途中で藍里が疲れた様子だったので
母さんが良く行く喫茶店に寄る。
流石に子供だけでは店内は利用できないけど
ソフトクリームを持ち帰り出来るので
二人分をお願いして受け取る。
「はいこれ、僕のオゴリだから気にしないで」
二つもらった分の一つを藍里に手渡すと
お店の外にあるベンチに座った。
大勢じゃなければこの場所は子供でも大丈夫だ。
黙って受け取ったソフトクリームを食べながら
やっと、藍里の口が開いた。
「君って、いつも、こう、強引なの?」
「藍里だからじゃないかな、何かフワフワしてて
放っておけない感じがする」
「なにそれ、君って変人?」
「違うよ、あと、君って言うのはやめて
何か背中がムズムズする
友達なんだし暁斗で良いよ」
「………分かった。暁斗」
それが初めて藍里が僕の名前を読んでくれた瞬間だった。
次の日、今日から藍里も学校に行くとの事なので
母さんから直々に案内役として指名された。
なんか母さんは藍里に甘い気がする。
まあ、母さんに言われなくても学校には一緒に
行くつもりだったけれども。
玄関先で藍里と合流して
母さんと藍里の父さんに見送られて出発。
途中で幼馴染の千歳を回収しお互いに紹介した。
この頃の千歳は人見知りがつよかったので
おどおどしながら藍里に挨拶していた。
藍里の方はというと表情が乏しかったけど
キチンと挨拶はしていた。
そのまま三人で学校まで登校し
藍里を職員室まで付き添った後
千歳と自分の教室に行く。
朝礼の時に藍里が紹介されクラスメイトになった。
余りに出来すぎていて、
母さんが裏で動いたんじゃないかと疑った。
それからの藍里はと言うと
僕と千歳とは馴染んで、一緒によく遊ぶようになった。
意外に藍里は活動的で昆虫採集や
鬼ごっこ、ビニールボールと
プラスチックバットで野球なんかもした。
千歳も一緒に加わるが
運動神経が壊滅的なので最後はよく泣いて
僕と藍里に慰められていた。
そんな日々が一年続き、進級してクラス替えがあった。
僕達三人は同じクラスになることが出きた。
藍里は僕と千歳にはすっかり心を許してくれたようで
よく笑顔も見せるようになっていた。
ただ、他にはまだ壁があるようで新しいクラスでも
中々馴染めずにいた。
それとなく理由を聞いてみると
「お母さんを馬鹿にする人たちは赦さない」と言った。
藍里の金色の髪と青い瞳はお母さん譲りで
この事を凄く大事に想っている。
だから、それをからかってくる連中が許せないようだ
みんながみんな、そんな子達ではないけれど
最初にからかわれたのが尾を引いているみたいだ。
その時に僕が居なかったのが悔やまれる。
だいたい、どうしてからかう必要があるのだろう
藍里の薄い金色の髪と淡い青色の瞳はとても綺麗で
整った顔立ちの藍里にはとても良く似合っている。
きっと髪を伸ばせばゲームに出てくる
エルフのお姫様みたいだと思うのに。
そこで僕は思いついた。
男の子っぽい格好を止めて女の子っぽくすれば
みんな同じように藍里の綺麗さに気付くのではないかと
早速、僕は思いついた案を実行するべく
藍里に髪を伸ばすように提案してみる。
藍里は気が進まないようで最初は断ったが
僕以上に乗る気になっていた千歳にも説得され
髪を伸ばし始めてくれた。
劇的に状況が変化したのは夏休み明けだった。
髪は伸ばし始めたけど服装は男の子っぽいままだった服装を
可愛らしい女の子っぽい服装に替えた。
最初に食いついたのはクラスの女子達だった。
やっぱり、女の子は可愛いものや綺麗なものが好きなようで
まるで何処かのお姫様のようになった藍里と話をしたがった。
千歳もそれを後押ししてくれたようで、少しずつ
クラスの女の子達とも仲良くなる事が出きた。
一部、嫉妬した人達も居たみたいだけど
主流はこちらが掴んでいたので
手出しは、しづらかったのだろう
陰口を言って遠目で見ているだけだった。
あとは、流れに乗るだけ、
女子の中で確固たる立場を築けた藍里には
男子もちょっかいを出しにくい。
もしも、何かやらかしたら
藍里と仲良くなった女子達が敵に回るからだ
集団の力は恐ろしいのである。
そうして平穏を得た僕達は何事もなく
小学校の最高学年になり、藍里と知り合って三年目。
すっかり女の子らしくなった藍里に『ドキッ』と
させられる事が増えてきて何だか話しかけづらく
なってきた頃。
僕の父さんがいなくなって三年目を迎えた日
藍里が急に倒れてしまった事があった―――
藍里の寝顔を眺めながら
過去の僕たちのことを思い返していると
寝言で藍里が僕に謝ってきた。
「…ごめんね、ごめんね、暁斗」
藍里の目から一筋涙が零れる。
僕は凄く胸が締め付けられる感覚がした。
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