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アイリ・イン・ワンダーランド (Side藍里)

いつも読んでいただき


ありがとうございます

 一言でいうのなら、『やらかしてしまった』


 本当は千歳のことを伝えて

今後のことを話し合うだけのつもりだった。


 けれど、暁斗のあんな辛そうな表情を見ていたら

放って置くことができなかった。


 本当はもっとゆっくりと時間をかけて

暁斗の心を癒すつもりだった。


 でも、私が中途半端に傷口を治し始めたせいで

逆に暁斗の傷を刺激してしまった。

見ないようにしていた傷口から痛みがあふれ出し

暁斗を苦しめた。だから我慢できなかった。

感情に流されてしまった。


 その結果、荒療治という形になってしまった。


 最後は素の自分まで、さらけ出していた。


 思い返すだけで恥ずかしい。


 いや、まあ、この状況も十分恥ずかしいけど……


 二人で泣き晴らした後の手芸部の部室は

恥ずかしい気まずさに充ち満ちていた。


「どうしようか?」

「流石に教室には戻り辛いかな」


 目を真っ赤にした

 暁斗が気まずそうにしながら言う


「そうね、それなら保健室で

 休んで行きましょう」


 私は気を取り直して提案した。


 すぐさま暁斗が疑問を呈する。


「養護教諭になんて言うのさ」


「大丈夫、生徒のメンタルケアだって重要な仕事よ」


「はぁ、大丈夫かな?」


「あら、それなら暁斗だけ教室に戻る」


 悪戯っぽく私が笑いかけると、暁斗は照れたのか

そっぽを向いて答えた。


「ごめん。全面的に藍里の意見を支持するよ」


「ありがとう、それじゃあ行きましょう」


 そうして私と暁斗は昼休みが終わる直前に

保健室に駆け込み、養護教諭をチョロっと説得して

二人でベッドで休む権利を確保した。


「ねえ、暁斗。続きは帰ってから話すわね」


「うん、分かった」


 そう言うと、色々疲れてたのか

 静かな寝息をたてはじめた。

 

 私は少しだけ寝顔を拝見させてもらい

 仮眠を取るために目を閉じた。


 思ったより疲れていたようで

 早々に意識を手放してしまっていた。



―――懐かしい夢を見た。

 子供の頃の暁斗と会う前後の私の記憶の欠片――


 最初に映し出された光景は火の海。

 その炎と煙に包まれた中で

私はお母さんに抱きしめられていた。


 熱くて怖くて

 お母さんに何度も呼びかけるけど

いつもの優しい返事をしてくれなくて。


 それが悲しくなって更に泣き喚く

そうすると段々と息苦しくなってきて。


 そこに私達を見つけた知らないおじさんが

傷だらけになりながら駆けつけてくれた。


 私はそこで意識を失った。



 次に気付いたときには病院のベッドで寝ていた。


 私の意識が戻るとお父さんが急いで来てくれた。

でも、お母さんは来てくれなかった。


 私は背中に大きな火傷をしたため

しばらく入院が続いた。


 やっぱりお母さんは来てくれなくて

その事をお父さんに尋ねたら


「どんなに遠くにいても、

 いつでも藍里のことを見守ってくれているよ」


 そう言って寂しそうに微笑んでくれた。


 ようやく退院ができ、お家に戻ることが出きた。

でも。やっぱりお母さんは居なくて

写真のお母さんだけが笑って私を見ていた。


 お父さんは私を抱きしめると

お母さんが亡くなったことを教えてくれた。


 あの時、火災の中でお母さんは

ずっと私を庇って守ってくれていた。

消防士さんが駆けつけてくれた時にはもう、

私だけを助けるのが精一杯だったと知った。


 その時、私は絶対に思ってはいけない想いを

抱いてしまった。


『どうしてお母さんを助けてくれなかったの』と


 助けてくれた消防士さんの事も憎んでしまった。

その想いがどれほど罪深いかを知りもせずに……


 それからの私は無気力な日々を過ごしていた。


 お父さんもお母さんがいなくなって悲しいはずなのに

私の為に色々頑張ってくれていたのに……


 そんな無気力な日々を過ごす中

お父さんが突然引っ越しをすると言いだした。


 私はお母さんと一緒に過ごした家から

離れたくなくて泣き喚いて反対した。


 お父さんはそんな私を優しく諭して


「前に言ったよね。どんな時もお母さんは

 藍里のことを見守っているよって

 だから場所なんて関係ないよ

 ほら写真のお母さんだって

 藍里のことを笑って見守ってくれているだろう」


 そう言って、ずっと私の頭を撫で続けてくれた。


 嫌々だったけど、私は引っ越すことに頷いた。


 引越し先はお父さんから聞いた。


 火災に巻き込まれた後、色々とお世話になった人の

持ち家のひとつでお隣さんになるそうだ。


 私のことも凄く心配してくれていたみたい。


 新しく越してきたお家は前のお家より広くて

二人で住むには少し広かった。


 これから、お世話になるお隣の大家さんに

お父さんと連れだって、ご挨拶へ伺った。


 玄関から出てきた女の人はお母さん位の年齢で

着物を着ていてとても綺麗な人だった。


 お父さんが大家さんに挨拶して私を紹介してくれた。


「そう、この子が……」


 そう言って大家さんはしゃがんで私を見詰める。

 

 お父さんと同じように寂しそうに微笑むと


「…良かった……本当によかった……」


 そう言って、私をそっと抱きしめてくれた。

 なんだかお母さんと同じような匂いがして

 思わず涙ぐんでしまった。


 そんな私を見て大家さんは

私がビックリしたと勘違いして

 慌てて謝ってきた。


「ごめんなさい。驚かせてしまったわね」


「違うの…お母さんが…お母さんが…」

 

 そう言った自分の言葉でまた、お母さんを思い出して。

我慢していた涙が止まらくなって泣き出してしまう。


 大家さんは泣きはじめた私を優しく見詰めると 

ごんどは『ギュッ』と強く私を抱きしめてくれた。


「いいのよ、たくさん泣いて

 貴方はまだ悲しい事を我慢する必要なんてないのよ」


 大家さんが難しい事を言っていたけど

その声が優しくて、やっぱり匂いはお母さんに似ていて

涙が止まらなくなった私は泣きつかれて眠るまで

大家さんに抱きしめられていた。


 目を覚ますといつの間にかベッド寝ていた。


お父さんは私が目を覚ましたことに気付くと

優しく頭を撫でてくれて謝ってきた。


「ごめんね藍里、無理させてたね」


「いいの、私こっちに来て良かったよ」


 現金なもので、すっかりお隣の大家さんが

好きになった私はそう言って答えた。


 ちなみに大家さんの名前は

朝比奈美月(アサヒナ ミツキ)』さんと言うそうで

お父さんから教えてもらった。


 美月さんに抱きしめられたこの日

少しだけお母さんのことを思い出にできた気がした。


 次の日、今度は美月さんから私達を訪ねて来てくれた。


 その隣には私と同じ年くらいの男の子が連れそっていた―――




少しでも楽しめましたら

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― 新着の感想 ―
[一言] 自己犠牲をいとわないほどの、「恩」は感じていたのかあ。 彼の想いは、堰を解放した結果、何か変わったのかな。 元サヤでも、タイトル破壊にはならないかもしれないけど。
[一言] 千歳は暁人と復縁したいけど比留間とイチャイチャするのもやめたくなくて比留間と別れたフリをして堂々浮気からコッソリ浮気に切り替えようとするんだろうなあ…
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