幼馴染は時に醜く、儚く、そして尊く
誤字、脱字報告、感想、評価、応援、叱咤激励
本当に皆様の優しさに助けられて
何とか書くことが出来ております。
ありがとうございます。
朝、いつもの時間に目覚ましが鳴る。
僕はパチリと目を覚ます。
最近の目覚めの悪さも少しづつ
改善されてきているように思える。
これも藍里のおかげだろう。
あの日から僕を何かと気にかけてくれる親友に
感謝しつつ、朝の身支度を整える。
朝食の準備を続けて奪えば、
藍里が拗ねるかもしれないので、今日は任せようと思う。
最近、恒例になりつつある
と言っても実質、まだ三度目なのだが
インターホンが鳴らされ、藍里が来たことを報せてくれる。
リビングまでやって来た藍里が
いつも通り『おはよう』と笑顔で挨拶する。
僕も『おはよう』と微笑み返す。
その表情から、昨日見た憂いを感じなかったことに
ひとまず安堵する。
藍里はテーブルに目をやり、満足そうに頷くと、
朝食の準備に取り掛かった。
僕も準備を手伝う。まあ、手伝うといっても
お茶を入れるだけなんだけれど……
今日は何となく気分が良いので、
母さん秘蔵のちょっと良いお茶を拝借する。
二人で手際よく朝食の準備を整えると、
一緒に『いただきます』をする。
やっぱり、誰かと一緒の食事はいい物だと実感…
昨日の昼と夜は一人だったので尚更そう思う。
藍里の作った朝食は文句なしに美味しくて、
あっという間に平らげると、お茶を飲んで一息つく。
お茶を飲んだ藍里が切れ長の目を見開いて言う。
「ちょっと、このお茶美味しすぎるわよ!!」
僕はそんなにお茶の違いが分かるほど
舌は肥えていないので、
藍里が喜んでくれたのなら良かった。
「そう言ってくれるなら、
母さんのお茶を拝借した甲斐もあるってものだね」
「えっ、もしかして、おばさまの秘蔵品使ったの?」
「うん、ちょっと良いやつだと思うけど
そんなに味が違うかな?」
「はぁ、暁斗は美味しいお茶に慣れすぎているのよ、
まったく、後で絶対怒られるわよ!
だって、これ多分、ちょっとどころじゃないわ…
…値段も含めてだけど」
最後の言い回しを悪戯っぽくして、僕の動揺を誘う。
「………大丈夫だよ、藍里のために淹れたって言えば、
許してくれると思う……多分…」
母さんは藍里に甘いところがあるし。
「まあいいわ。美味しいお茶をありがとう」
藍里はそう言って、もう一度嬉しそうにすると、
ゆっくり、味わいながらお茶を飲み干した。
「ごちそうさま。それで……こんなに
良いお茶を振る舞った理由は何?」
「勿論、一番は藍里が喜んでくれると思ったから」
「で、その心は」
「気分が上がれば、重い口も軽くなるかなと思って」
「まったく、そんな小細工しなくたって…
昨日のことでしょう、ちゃんと話すわよ」
「うん、やっぱり気になって」
「分かったわ、昼休みで良いわよね」
「ありがとう」
「いいわよ、暁斗にも関係ある事だもの」
そう言った藍里の表情に、翳りは見えなかった。
まだ流れは、悪い方に向かっていないようなので、
ひとまず安心した。
恒例の朝食が終われば、平和な登校タイム。
少しずつ穏やかな日常に戻って来ているのを感じる。
教室に着くと康太に目配せする。
僕の視線に気が付くと、爽やかにサムズアップする。
……なんか目配せした意味がなかった。
昼休みになり、約束の話を聞くため藍里に付いて行く。
向かった先は、何故か手芸部の部室だった。
「何故に手芸部」と思わず疑問を口にする。
「大丈夫、許可は得ているから」
藍里はそう言うと、扉のプラカードをひっくり返した。
可愛らしいカーテンやら、ぬいぐるみやらが
飾られた部屋で、僕は藍里と向き合って座る。
藍里は持ってきたお弁当を取り出すと
「まずはご飯を食べましょう」
そう言って僕にも食事を勧める。
恒例になりつつある、一緒の『いただきます』をして、
お弁当を食べ始める。
やっぱり藍里の用意してくれていたお弁当は美味しく、
玉子焼は定番のおふくろの味だった。
食事を終えると、一息つく。
本題に入るために、藍里は真っ直ぐ僕を見詰めた。
僕は目を逸らさずに頷いた。
「まずは結論から言うと
千歳は例のあの男とは縁を切ったわ」
にわかに信じられない話だったけど、
藍里がそう言うのなら、信じてみたかった。
でも、そう思うと何故だか
胸の奥がチクリと痛んだような気がした。
「相手の男の事、知りたい?」
「一応知ってるよ、比留間陽介だろ!!」
言葉が少し強くなってしまう。
「そう、知っていたのね」
「直接見てるし、それなりに有名だから」
そう言って、あの時の光景がフラッシュバックする。
もう千歳のことなんて、
なんとも思っていないはずなのに、
何故だか胸の痛みが強くなっている気がした。
「暁斗、無理しないで――」
僕を見ていた藍里が心配そうな表情に変わる。
「大丈夫だよ、それで千歳はなんて言ってるの?」
「………まずは、失った信頼を取り戻したいって」
「そうなんだ」
いきなり復縁を迫らないだけの分別は取り戻したようで、
少し安心する。
どうやって信頼を取り戻すつもりかは知らないけど………
そう思うと、またズキリと胸の奥が痛んだ気がした。
藍里は心配そうな表情のまま僕に尋ねた。
「暁斗はどうしたい?」
改めて尋ねられた僕は、
千歳に対して今どう思っているのだろう?
なるべく俯瞰して自身の思いについて考える。
でも結局出てきた答えは何も思わない、
まるで『凪』のような気持ちだった。
「藍里……正直に言うと僕はもう、千歳と一緒に
笑ったり、怒ったり、悲しんだり、喜んだりする姿が
全く思い描けなくなったんだよ」
そう自分で言っておきながら
また、ズキズキと胸の奥が痛む。
「………分かってはいたけど…暁斗は本当に
千歳のことが大好きだったのね」
藍里の表情が悲しげに変わる。
どうしてそんな表情をさせてしまったのか分からない。
「いや、だから千歳のことは
もう、何とも思ってなくて、思ってないはずで…」
必死に藍里の言葉を否定する。
先程から胸の奥が痛みが続いて止まない。
「そんなわけない……ずっと二人を見てきた
だから。偽らなくていい、自分を騙さなくてもいい!」
珍しく藍里が感情的になり立ち上がる。
その目は悲しさを増していて
僕は何で藍里を悲しませているのかわからず
ただ、千歳への思いだけを再度、強く否定する。
「それは違う、偽ってなんかいない!
本当に千歳のことは吹っ切れたんだ!
もう何も感じないんだ!
感じるわけないんだ!!」
だって僕はあの時、
千歳に対する感情を一切合財、捨てたはずだから。
だから胸の痛みなんて感じるはずがない
そう、痛いはずなんてないんだ。
僕がそうやって千歳への想いを否定する度に
自分が傷付いたように悲しい顔をして、
藍里は僕の言葉を『否定』して詰め寄る。
追い詰められるように僕は後退る。
否定されるたびに胸の奥が痛む、苦しかった。
僕は我慢できずに声を荒げて叫んでしまう。
「本当だ!!
……本当に…何も感じてなんか……いないんだ!!」
そんな僕の言葉に、
藍里の顔は悲しみを通り越して
折角の美人が台無しになるくらいクシャクシャで…
それでも言葉は止まることはなくて……
「……違うよ、だってあんなに…大切だった千歳が
暁斗を裏切ったんだよ!
大好きだった人に裏切られて、そんな辛い事、
平気な人なんていないよ…
傷付かない人なんていないよ…
悲しまない人なんていないんだよ!」
「…何…が?」
もう僕は、言葉を紡ぐことが出来なくなっていた。
「だから暁斗はもっと、もっと怒っていい!
裏切られたことを悔しがっていい!
大切な絆が断たれたんだから
もっと悲しんで良いんだよ!!
泣いて、泣いたっていいんだよ………」
今まで一度も見せたことのない藍里の激情。
そんな藍里の姿に、
胸の奥で続いていた痛みが限界を迎えそうになる。
「何でそう言ってる藍里が泣いてるのさ」
「だって……だって……
暁斗が…暁斗が辛そうで……」
あぁ、やっと分かった。
藍里を悲しい顔にさせた理由。
藍里は想いを否定して自身を傷付ける
僕の代わりに悲しんでくれていたんだ。
こんなにも胸の奥が痛くて辛いのに泣くことの出来ない
僕のために泣いてくれたんだ。
藍里…なんで君は……
「どうして………
………どうして、そこまで優しくなれるの?」
「………貴方のことが誰よりも大切だから」
飾りっ気のない、だからこそ真摯な想いを感じる
その言葉と共に藍里は僕のことを優しく抱きしめた。
自然と涙が零れだし、
胸の奥の痛みが限界を迎え、
失くした感情が一気にあふれてくる。
本当は、僕は……
『千歳に浮気されて悔しかった』
『千歳の迂闊さが腹立たしかった』
『千歳の嘘に悲しくなった』
『長年の想いを踏みにじられ赦せなかった』
『簡単に僕達の絆を手放したことに絶望した』
だからあの日、僕は壊れた。
大好きで、恋人だった幼馴染の裏切りによって―――
でも、僕には寄り添ってくれる人が居てくれた。
いつも僕のことを気遣ってくれて、微笑んでくれて
美味しいご飯を作ってくれて、朝一緒に登校してくれて
一緒にいただきますをしてくれて
自分を省みないで動こうとしてくれて
僕のために悲しんでくれて、泣いてくれて…
壊れかけた僕を癒やしてくれた…
大切で、親友でいてくれた幼馴染。
そんな掛け替えの無い存在が居てくれるから
『僕は何とか立ち直って行けそうです!!』
終わりではないですよ。
最後まで頑張りますので応援よろしくです。
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