裏切りは茜色に輝く
短編のつもりが思ったより長くなってしまったので
長編にしました。
少しでも楽しんで頂けたら幸いてす。
夕暮れの公園で幼馴染を見た。
見間違えようがない僕が好きと言った長い黒髪に
アイドルにも引けを取らないだろう可愛らしい容姿。
そんな彼女が
僕ではない男と楽しそうに腕を組み
幸せに満ちた笑顔でお喋りに夢中で
二人は僕に気づかないまま
最後は別れ際にキスまでしていた。
恋人同士がするような熱いやつを―――
今日、彼女とはデートの約束をしていたが
友達とどうしても外せない用事が出来たと
直前に断られていた。
告白して付き合いだして3ヶ月目
幼馴染から恋人になったばかり
家が近所で幼稚園からいつも一緒に歩んできた。
信頼していた。一番大切な人だった。
でも、彼女は違ったようだ…
茫然自失のまま、気付いたら家まで戻っていた。
まだ、頭の中はグルグルと落ち着いてくれない。
どれだけ時間が経過したか分からない
インターホンの呼び鈴がようやく現実に引き戻してくれた。
同時にインターホンのモニタに映し出された顔に
胃が締め付けられるような不快感を感じた。
努めて冷静に返事をすると
幼馴染で彼女の「烏丸千歳」は
いつもの様に気兼ねなく家に上がりこむ。
「おじゃましまーす」
彼女にとっても勝手知ったる幼馴染の家で
リビングまでやってくると僕と顔を合わせるなり
「今日はごめんね。
どうしても今日が良いって友達が譲らなくて」
そう、申し訳なさそうな顔をして
…………平気で嘘を吐いた。
この時点で怒りどうにかなりそうな筈なのに
思ったより普通に話しかけることが出来た。
「そうなんだ―――ところで夕御飯は食べたの?」
「うーん、まだだよ」
「それじゃあ、食べてく?」
「ありがとう
今日はお母さん帰りが遅いみたい助かるかな」
当たり障りのない、僕と彼女の日常の光景
もしかしたら、最後になるかもしれないな
漠然とそう思いながら、僕の心は何故か静かだった。
何時もと変わらない夕食を済まし
話があるからと彼女を部屋へと誘う
「改まってどうしたの?」
雰囲気から察したのか心配そうな顔を浮かべている。
僕は話を始めるために、ひと呼吸おくと
彼女の目をしっかりと見据えて話を切り出した。
「…………実は今日、僕も公園にいたんだ」
そう伝えると彼女は一瞬目を見開くと
僕から視線を逸らした。
「そっ、そうなんだ」
「うん、夕方頃たまたま散歩してたんだけどね」
「へっ、へー珍しいね」
「うん、本当に偶然だったけどね。見たんだ――――」
そう言ったあと気まずい沈黙が続くと
しばらくして彼女は諦めたのか一息溜息を吐く。
「そう、見ちゃったのね」
「うん」
「一応、彼はまだ友達だよ」
「キスまでして?」
「うん、好きなのはアッ君だから」
「ごめん、理解できないよ」
「なんて言ったら良いのかなー?」
彼女は本当に困ったような顔をするが
言葉が思いついたのか笑顔で答える。
「アッ君は凄く安心する。ずっと側にいてほしい人」
こんな状況でなければ凄く嬉しい言葉だった。
次の言葉を聞くまでは。
「彼は、一緒に居ると凄くドキドキするし、楽しいの」
その言葉に僕はもっと怒りを覚えるかと思った。
でも、不思議と僕は酷く冷静に受けとめていた。
「そうなんだ、分かった」
「うん、分かってくれて良かったよ」
彼女は僕がこの関係を受け入れたと勘違いしたようだ
ありえない、好きな人が1番は貴方だからと言って
他の人とイチャつく姿を誰が見たがると思うのだろうか?
「そういう意味では無いんだよ」
「それって……」
首を傾げる彼女の仕草。
普段なら可愛らしく映っただろう―――
でも、もう無理だった。だから―――
「別れよう」
「えっ、どうして?」
本当に不思議そうに彼女が驚いた。
「自分で言ったでしょう、結論は出てるよ」
「だから、アッ君のことはまだ好きだよ」
「ごめん、僕が無理だよ
好きな人が他の人とキスしてるのは嫌だ」
「どうして?、心はアッ君だよ」
「それじゃあ、彼はどうするの?」
「だから、大切な友達だよ」
いまはキスだけ、でも今後体を許してその理由が
セフレだから、ただの友達だから、とでも言うのだろうか?
彼女は理解したくないのか、してないのか
同じ内容を繰り返すばかりで埒が明かない。
だから、最後は僕が懇願する形になった。
「その大切な友達と僕に内緒でコソコソ付き合って
平気で嘘を吐く君のことがもう信用出来ないんだ
だから、お願いだから僕と別れて下さい」
感情に任せた言葉にはならなかったと思う。
「………」
彼女は無言のまま俯くと
来たときとは逆に静かなまま家から出ていった。
いつも一緒に居たはずの幼馴染。
お互い分かり合っていたと思っていた。
でも、そんな幻想は打ち砕かれて、出てきた中身は
僕の理解出来ない得体のしれない何かだった。
少しでも楽しんで頂けましたら。
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