渡る戦場は女児ばかり
注意。
この作品? はとにかく狂っております。
特に倫理面で良識は崩壊しており、人間を資源や物資として扱う事すら問題とならない世界です。
人によってはあとがきまで行かず、気分が悪くなる可能性もあります。 無理はせず、バックするかあとがきまでスクロールして読み飛ばすかで、回避をも視野に入れてくださいませ。
あと、主人公の登場はあとがきまでありません。
この世界の人類は狂っている。
効率、合理性を突き詰めた結果、良識や倫理観などは滅び去った。
その結果として人類のおよそ半分は、自身が欲しいものは持っている者から奪えば良い。 そこまで行ってしまった。
そしてその奪い合う手段として様々な兵器が造られたが、ここでも合理性を発揮。
製造されたのは、戦闘兵器“JJ”と呼ばれる、高さ3メートル級のコックピット搭乗・有人型ロボット。
体は足を抱える体操座りになる形で胴のコックピットへ乗り込むので、ずんぐりむっくり気味な外見が、どことなく愛嬌を感じさせる。
JJの正式名称はとうに忘れ去られた。 最近さらに合理化されて、ジョジィとなりそうだ。
このJJは頭・胴・腕・足・動力・武器・補助機器。 様々な共通規格パーツを選び組み上げる、高いカスタム性を持つ。
お手軽かつ合理的に自分専用機が造れると、大変な人気を得ている。
そして次に語るはもっとも闇が深い、3メートル級ロボのコックピット事情。
身長が有ってはコックピットが大きくなってしまい、無駄に機体サイズアップしてしまうので、小さい方が合理的。
視界確保や操作は脳波送受信式なら、体を動かして操縦する必要もないので、筋力は不要。 むしろ筋肉で余計な機体重量となる。
それでどうしたか?
パイロットは無茶な機動で受けるGにも耐えられる様改造され、ついでにJJとの接続端子や生体センサーを始めとした補助機器も埋め込まれている、
女児・幼女を使用した。
他からJJ乗りへと転向するものも、脳改造と移植を受け女児・幼女の肉体にされる。
幼いなら男女どちらでも良いのではないか?
そう言われた事もあったが、食事量を主として“維持費”の節約に有利。 そう言った観念(ほぼ偏見)で受け入れられた。
真実は不明だが、どこかの変態技術者が振りかざした屁理屈がまかり通り、男女どちらかの肉体のみにした方が規格化に有利と結論付けられた噂。
と言うかそもそも、なぜ合理性を求めたのに有人ロボを使うのか、疑問だろう。
だがそれについての説明は簡単だ。 通信妨害技術。 それとAIパイロットにのみ影響を与える、撹乱電波や罠。
負けじと産み出される対抗手段。
そんないたちごっこばかりして、お互い資源や技術の無駄だと合理化されたからだ。
お分かり頂けただろうか。 この世は狂っている。
そんな狂った世界で、自身の身を女児へと変えて、あなたはJJ乗りとして駆け抜ける。
~~~~~~
そこは工業区域の荒れ地。
道路やぽつぽつと建設中の建物はあるが、緑が無いのでとても寂しい空間。
JJ乗りネーム“瀬破拓郎”は、そこを戦場として標準二脚JJで駆けている。
シルエットはなんと言うか……茶系色で統一されたスーツ風カジュアルファッションを着せて、一般的な突撃小銃と縦に長めの五角形盾を持たせたどこぞの一般男性。
背には安価なミサイル1基と、安価なレーダー装置を背負っていた。
脚部は浮遊型でない限り、接地面に車輪が付いていて、高速移動ができる。
例外は無限軌道型。 方式が方式だけに、ローラー程度で速度は変わらないので。
背中につけているダッシュブースターを使えば、より高速機動になるが、今使うのはローラーだけ。
ブースターを使うには、蓄えた動力の余剰エネルギーを消費する。 少し待てばまた溜まるが、今はそれを使いたくないのだ。
「JJ乗りが来たぞ! 俺達は会社から切り捨てられたんだ!!」
通信妨害が頻発する世界では、拡声器の方が主流だ。
そして野太い嘆きの声を響かせたのは、この区画の労働者が乗る、工業用重機に簡易的な武装をむりやり付けた物。
クレーン車らしき物の先端に溶解バーナー、二足歩行型多目的フォークリフトへは大型の釘打ち機。
労働者達の待遇改善を訴えるべく、使うつもりもなかった武装を振り回して、ストライキを敢行していただけの一般労働者。
それが戦闘用として製造されたJJの突撃してくる姿を、前情報無しに見てしまえば一発で理解してしまう。
会社に反抗する者は排除してしまった方が、会社運営で合理的だと判断した。
「ここまで迫られては逃げられない! 各自散開して敵JJの隙を見て攻撃をかけろ!」
ストライキのリーダーが理知的な命令を下し、それぞれは散らばる。
「ぐわっ!?」
散開して隠れる間もなくJJに追い付かれたクレーン車が、JJの左腕に内蔵されたKDM粒子発振ブレードで溶断された。
これで残った重機は7。
「仲間をよくもやりやがったな!」
少し離れた物陰から、しゃがれた声と釘弾が飛んで来る。
そんな今から攻撃するぞと叫ばれて、わざわざ当たってやる義理もなく、JJは脚部のローラーですいっと下がり回避。
「があ゛ぁ゛っっ!!」
鈍重な重機がまた物陰へ隠れる前に、右腕へと持たせたライフルで撃ち抜く。
「くそう、くそう!! やっぱりこんな武装重機じゃ、JJに勝てねぇ!!」
泣き言と恨み言を混ぜた悲鳴は、重機の爆発や弾丸の着弾音と交ざり、戦場らしさに華をそえる。
既に残った武装重機は3台ばかり。 つまり半分未満。
全てクレーン車で、溶解バーナーでは遠距離攻撃が狙えず。
ネイルガンでさえあまり遠くは飛ばないと言うのに、それ以下なのだから手も足も出せない。
「リーダーが!! くそっ! くそっ! 金が勿体ないとか言ってられねぇ! 先生、先生っ!」
さっき破壊した重機に、ストライキリーダーが乗っていたらしい。
叫ぶガラガラ声は既にやけっぱちと言えるもので、狂気までうっすらと感じ取れる。
がしゃん!!
そんな音と前後して荒野にぱっかり開いた穴から、リフトらしき物に載ってせり上がって来たのは、1機のJJ。
とにかく細身。 頭だけ丸いドーム状。 見ただけでわかる武器は、携えている拳銃のみ。 背中にミサイル1基すら積んでいない。
敵JJは二脚軽量、軽武装。 軽快な動きで翻弄し、チマチマネチネチ敵を削る戦法がお好みらしい。
…………そのJJを端から見ている者なら、機体はゴーグル付けたペンギン頭で胸筋と背筋だけが凄い、奇妙な細マッチョと見えるだろう。
少々引くシルエットだが、そんな外見は威圧効果も狙えて良いかもしれない。
「先生! お願いします!!」
その口ぶりから、元々依頼をしていたのだろう。
取っておきの戦力として、依頼を。
だが実際には使わず、襲撃者の撃退による追加報酬を払いたくなかったのだろう。
それが、今のタイミングで出てきた理由。
「よう会社の犬。 JJ乗りらしく、金の奪い合いしようぜ?」
さすがJJ乗り。 右腕に持ったハンドガンをこちらへ向け、ニヒルに決めようとしているだろうが、聞こえるのは幼い声。
それはどう見ても、ドラマかなにかの影響を受けた真似っこ、はしゃいでいる子供。
そう思ってしまえば、自然と警戒心が薄れる。
パァンッ!
と同時に銃弾が発射された。
どうやら可愛くニヒルなセリフは、相手の油断や混乱を呼び込んで、その銃撃を当てるためにする為だったようだ。
JJの胴が、コックピットが揺れる。
装甲の曲面で直撃はしなかったが、衝撃を受けた以上どこかにダメージが入っているだろう。
幼女は言動で油断した事に歯噛しつつも、次弾回避の為に乗機を動かす。
「はははっ。 こんなのに騙されるなんざ、お前さんはルーキーだな?」
軽量=快速機であるはずなのに、敵JJの動きは遅く、女児の心を掻き乱す口撃に力を入れている。
実際、瀬破は支援されて基本セットを支給されたばかりの、新米女児だ。 見抜かれた以上、敵は幼女先輩だろう。
口撃に乗せられ何も考えず照準を合わせて銃撃しても、ヌルヌルゆらりと躱され、逆に撃ち込まれる。
「はははっ、さすがルーキー! 厄介な攻撃や武器も無い、戦い方も未熟。 新人いびりが出来て、金ももらえる! こんな良い仕事はないぜっ!」
幼女らしからぬ歪な笑い声とともに、不規則なJJ捌きで女児を惑わせ狙いをつけさせない。
背負っているミサイルを撃ち込もうにも、ロックオンする前に照準から逃げていて、まったく使えない。
どうする、どうすれば幼女先輩へ攻撃できる?
JJを操作しながら考えるが、先輩と言う存在によって乱され、なにもまとまらない。
「おうおうおう、こんな軽量軽武装軽装甲のJJに、追加装甲で盾持った標準機体が負けるって情けないにも程があるぜ?」
瀬破はこの依頼中で1番のダメージを受けた。
物理的に、ではない。 標準型JJの装甲ならまだまだ耐えられる。
だからそうじゃない。 先輩幼女の言葉だ。
基本セットと共に支給された支度金。 それで盾を買って持たせていたのを忘れていたのだ。
女児はハンドガンから逃れようとして行っていた、ジグザグ走行どころか全ての動きを止めた。
「なんだ? 勝てないからって依頼放棄か? ルーキーがそれやると、地獄の未来しかないぜ?」
実際ルーキーが失敗や放棄をすると借金地獄一直線だが、そうではない。 瀬破は勝機を見いだしたのだから。
ゆっくり右腕を下げ、左腕に取り付けた盾を前面へ出して、前傾姿勢となる。
ブースター点火、ローラー最大回転。
狙うは敵JJ!
「はははっ! ようやく気付いたか! 火力と装甲の違いから、強引に突撃してブレード攻撃! 活路はそれしか無いんだよ!」
そう。 今まで銃撃戦をしていた。 でも全然当たらないのだ。
狙うはそれしかない。
「来いよルーキー! ライフルなんか捨てて、かかって来い!!」
幼女先輩のJJを壊してやる!
とても楽しそうに挑発してくる幼女先輩へ、女児は気合い満タンに突撃する!
「うはははっ!」
笑い声のまま構えられた盾へ撃ち込み続ける敵JJだが、いつでも動ける様足回りの準備をしており油断はしていない。
瀬破は負けたくない一心で突撃している。
そして、お互いのブレード有効距離直前で、幼女先輩が動く!
「甘ぇんだよ!」
女児が新人だと見越し、ブレード距離まで入ってから振るうだろうと、先読みし“置く”ように左腕のブレードを逆袈裟軌道で振るう。
いつもなら、これで決まる。 お互い足が止まっているなら空振りするが、向こうから無防備に近づいてくれるのだ。
女児JJには盾がある、しかし先輩幼女JJのブレードは新人が選ぶ盾程度なら壊せる高威力を持っていた。 つまり必中でトドメの一撃となる!
「あ゛ぁ゛!?」
はずだった。
瀬破のJJは強引な足捌きでむりやり方向転換、敵JJの右腕側へ円運動で回り込み、盾の付いた左腕をボディーブローする準備かの様に引き絞る。
今更の解説となるが、先輩の機体は物理耐性より、KDM粒子耐性を重視したJJである。
ブレードは基本KDM粒子で形成された非実体兵器。 もしここで新人の低威力ブレードを受けても生き残って、こちらのブレードで反撃して終わり。
となるはずだった。
「まさか! まさかまさかまさか! お前はアレを買ったのか!?」
引き絞られる腕に装着された盾に、特徴のある物が装着されていると知ってしまい、焦る幼女先輩の心にはとある盾が浮かんでいた。
通称【新人殺し】と呼ばれるロマン盾。
支給金満額を突っ込むと買える、最強物理兵器が搭載された、一見するとそこらの安い盾。
しかしロマン盾と言う言葉で分かるだろう。
いわゆる帯電式のパイルバンカー盾。
現在確認されているJJ武器の中でも最上位グループに位置する攻撃力を持つが、
新人の技量ではここぞと言う場面で盾が壊れていて使えない、動く敵へ当てられない、当てる前に発射可能数を使いきる、元を取る前に修理費ばかりかかる非合理性の塊。
だが当たりさえすれば極大ダメージ。
新人が極めて高い攻撃力を知り、一撃一殺の高機動・高効率戦闘を夢見て使い、理論値は机上の空論だったと夢破れるただのゴミ。
パイル盾を売る商人からすれば、黙ってても儲かる新人ホイホイの集金アイテム。
それが牙を向いた!
足が止まってしまっている機体の、後ろ脇腹へと杭の先端が当たる。
「待て待て待て! それは駄目だ! 待ってくれ!!」
今までの余裕たっぷりだった幼女先輩が、今は焦りに焦っている。
その点パイルバンカーは凄ぇよな、最後までロマンたっぷりだもん。
いかにもク○ガキだった先輩は、己の運命をわからされて本気で慌てているのだろう。
先輩が頼む待ったの声に耳を貸さない新米女児は、愚直に杭を撃ち込む。
「ぎぇぴーっっ!!」
敵が出す断末魔の悲鳴は苦い。
「ちくしょう! 先生までやられちまった! 俺らは終わりだぁ!!!」
残っていた3台の重機がバーナーをメチャクチャに振り回し、むせてしまいそうな空気の中、瀬破が依頼の仕上げにかかる。
「ふう」
僕はVRヘッドセットを、息と一緒に外す。
外して、ヘッドセットを脇に抱えて、このゲームについて一言。
「なんだこれ」
学校のゲーム好きから勧められた物だ。
これは世相的に難しいと言われて久しい、合法的にょぅι゛ょと遊べるゲームだと説明されたから、言われるまま買ったのだ。
「遊ぶってこれ、意味が違うじゃん!」
僕はただの子供好きで、小さい子と平和な遊びがしたかっただけだ。
変態達の思想なんかどうでも良く、子供たちと一緒に遊んで笑ってはしゃげれば、それで幸せなのだ。
可愛い子供達が平和で幸せに遊んで、すくすく元気に育つ様子を見守れれば良いのだ。
「なのに、なんでこんな殺伐としたゲームを勧めたんだよ、アイツは……!!」
明日学校で、一発叱り飛ばしてやろう。 そう心に決めた少年だった。
※瀬破拓郎は昔自分が付けてた、プレイヤーネームから引っ張ってきたもの。 本当なら、瀬破拓郎被告で完成形。
別に競技を悪く言うつもりはない、ただ思い付いて、なんかしっくり来て名付けてしまっただけ。
※※モチーフとしたゲームとは、ルールやシステムが違います。 「アレ持ってたらコレ積めねーぞ」等の意見を受けても、違うゲームです。 としか返せませんのでご了承願います。