本日はここをキャンプ地とする!
崩壊していくリサラス。僕はどうすればいいのだろうか。
ガーロスに着くまでに僕は船内で農業にいそしんでいた。
念願かなってうれしいが、知らない植物ばかりで手ごたえないのもまた事実。果物のような甘い香りを放っているものもあるのだが、ハルさんが自室に籠りっきりのために聞くに聞けない状況なのである。
おや、ふと見たらスキルが増えている。
【育成】
動植物の育成スピードが若干上がる。味は少し落ちる。(生命力ー1)
世の中二者択一、二兎追うものは一兎をも得ずである。完全に戦闘向きのスキルではないが職種に関係なくスキルを獲得できるのはこの世界のいいところである。
ただしスキルのレベルを上げるためには試行回数が必要になる。僕個人としては簡単にチート能力を手に入れられるよりは地道に強くなるほうが好きなのでちょうどいい。別に負け惜しみではないぞ。
それから僕は船内で戦闘の訓練を重ねた。突き、蹴り、投げ。
格闘技らしきものの技を記憶を頼りに実践していたらいくつかスキルを習得できたというわけだ。
すべてにおいてレベルこそ低いもののダメージ量が増えたり連撃スピードが上がったりするようだ。
これらの技はすべて僕の動きと連動し勝手に発動するらしい。何を当たり前のことを、と思うかもしれないがここには一つ注意点がある。
技の判定はこの世界の何者か(おそらくは神だろう)が行う。要するに僕の動きが少しでも違えば意図しないスキルが発動されるのだ。洗練された動きをする必要があるという少々面倒くさい仕様があるようだ。
体感一週間ほどたったころ、引きこもっていたハルさんが部屋から出てきた。
「久しぶりだねライラ君。間もなく目的地付近に到着する。しかし、ここからは航空機等の使用が禁止されているので歩いていくよ」
飛行船が離陸し、上空を見上げその訳がわかった。周辺の灰色の雲が渦巻いているのだ。それも見える限りで十はあるだろうか。
気味が悪い。明らかな異常気象である。
「大丈夫、大丈夫。ここらでは日常茶飯事だから。むしろ今は少ないほうだよ」
こういう景色を見るたびに異世界であることを痛感させられる。それにしても恐ろしいなこの光景。
果たしてこの先に国があるのだろうか。たとえあったとしてもなぜこのような場所に住み続けるのか。
防衛のためである。誰しもがこれ以上の侵入を拒む。故に争いのない平和な土地が成立する。ここはまさに要害である。
「それにしても、こんなところに街を作ろうなんて考えた人間は本当に何を考えていたんだろうね」
今、森の中にいる。薄暗いうえに雨林のようで足元はどこもかしこもぬかるんでいて足を取られる。
もちろん僕の考え通りだと思う。しかし、いくら要害として機能しそうだと踏んでも、この森を突き進む勇気はない。よほどの馬鹿だったのだろう。
そのうえ、所々に大穴が口を開けていて、足を滑らせれば助かりはしないだろう。
「そうそう、この辺りには魔窟が複数確認されているから気を付けてね。特に今ライラ君がいるあたりは結構有名どこだね」
ハルさんはからから笑いながら、僕のほうを気にかける様子もなくずんずん進んでいく。
それに対し僕は慎重に進む。僕がいるところはと言ってたが、ハルさんとはそれほど距離が離れているわけではない。それならば彼女も足をつっこむ可能性もあるのではないだろうか。
彼女の足元を見ると少し浮いていた。魔女、ずる!
体感五時間は歩いた気がする。しかしまだ町らしきものは見えない。それどころか薄暗い森ゆえに近場ですら目を凝らさないと危険である。
この五時間の間に僕は魔窟の入り口を見分ける能力を手に入れた。と言ってもスキルが増えたわけではなく経験則からなる予知と言った方が正しいな。
「だいぶ日が暮れてきたね。本日はここをキャンプ地とする!それじゃ私は寝るから。おやすみ」
おいおいおい、じょうだんだろ?ここ何もないぞ。野営するにしても洞窟とか雨風凌げる場所でするでしょ?えっ!もう寝息たててるんでけど!?
夕飯もまだ食べてないよ。完全に夢の世界です。仕方ない。そこらをほっつき歩いて獲物を探すか。
『おい、ライラ。緊急事態だ。応答せよ!』
この声はヒバナさんである。緊急の連絡と言われても僕は今深い森の中にいる。しかも僕自身が現在地を把握していないのだ。手助けできることはほとんどないだろう。それでも返事はしなければならない気がする。
「はい、来羅です」
『ライラがこのリサラスを去ってからほどなくしてここは完全に魔導士の手に落ちた。ほとんどの人間が、紛争犯罪として処刑された。どうやらリサラスとジアスの間で秘密協定が結ばれていたようだ。人間との結託などただの口約束に過ぎなかったそうだ』
『それと例の椅子のことなんだけど、マインドコントロールなんていう生易しいものではなさそうなの。あれは魔導士の基礎能力を座者の保有する魔力量に応じて上昇させるものである可能性が高いことが分かったんだ。もしかしたら彼女たちは世界を巻き込んだ戦争でも計画しているかもしれないんだよ』
あれ?僕のスローライフ計画はどこへ行った?いやいやいやそれどころではない。戦争計画?僕のせいか?僕が彼女らに手を貸してしまったがために世界を破壊へ向かわせてしまった言うのか?
『いや、ライラは悪くない。俺たちが穏便に君と接触を図っていれば良かったんだが……』
『過去のことを悔やんでも仕方ないよ。それにまだ戦争が開始したわけではない。私たちにできることは未然に防ぐこと、ね』
確かにメナミさんの言うとおりである。かわいい顔で寝ているハルさんを見やる。
彼女は一体どこまでことを知っているのだろうか。僕と出会った瞬間からこれを狙っていたのか。
「一つお伺いしたいのですが……」
思わず超絶丁寧語になってしまった。『なんだ』ヒバナさんが答える。
「魔導師側が協定を破った場合の処罰はあるのですか?」
『協会を追い出される。それくらいだな。だが、協会からの追放は魔道士にとっては死活問題であることは知ってるな。そこに派閥問題が絡んだら?そしてそいつが優秀な魔導士だったら?』
つまり現協会のトップが一党派であり、サウナさんの行動を黙認するとなれば、戦争も可能だというのか。
しかし、協会本体に対して罰則がないのであればとうの昔に反故にされていたはずだ。
一度破棄された約定が今なお適応されているはずがない。
要するにいままで破られたことがないのだ。それが、今綻び始めている。
『間もなく百年になる』
百年?この協定の話だろうか。それが何か関係あるのだろうか。
『この協定の適用期間だね。あと数か月で期限がくる。このままでは継続はない。魔導士によって人間は滅ぼされる。だから私たちはそれを阻止するために行動しているの。ねえライラ君私たちの仲間になってくれないかな』
僕はこの世界に来てまだ日が浅い。この世界の変遷も知らなければ現状も把握していない。
このまま、何も知らないふりをしてハルさんについていけば僕の身はある程度保障されるだろう。
しかし、僕の無知な選択がこの世界を戦禍に陥れようとしている。ぞの責任は重く受け止めなければならない。
「僕はヒバナさん、メナミさんについていきます」
『よろしく頼んだよ、ライラ。早速だが今君はどこへ向かっているのだ?』
「えーっと、ガーロスだった気がします」
『『ガ、ガーロス!!!!!!!!!!!!!!』』
二人の驚いた声が頭の中で反響する。
『なぜ、そんなところにいるんだよ。まあいい、俺らも急行する。くれぐれも俺らの存在を悟られないように、頼んだぞ』
あまりの重い話に、いつの間にか腹は満ちていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
たった一話の間に方向性が一変したような…。これからどうなるかは僕すらも知らないというね。
今月中にもう一話更新したいと思っているのでよろしくお願いします。
それでは次回もお楽しみに!




